第5話
「ところで、そろそろ旦那様と奥様にご挨拶に行きますか。久しぶりですから、お二人ともきっと喜ばれますよ」
「ああ、そうね」
椅子から立ち上がる。
と、シーラがしかめっ面をした。
「いいですか、お二人の前では絶対にあのへんな言葉遣いはしないでくださいね。お二人とも卒倒しちゃいますから」
「そ、そんなに変かなあ」
「だ、め、ですからね!」
「はいはい、わかりましたよ」
屋敷の廊下をシーラと歩く。
いたるところが西洋風の屋敷で、つい物珍しくきょろきょろと見まわしてしまう。
ふと、窓のガラス越しに中庭の様子が見えた。
赤・白・黄、様々な色の花が咲き誇り、まさに庭園だ。
これはやっぱり異世界なんだなあ。
日本ではありえないその光景に、しみじみと思う。
突き当りの部屋に入る。
ドアを開けた瞬間に広がる、広々とした空間。
毛の長いふかふかした絨毯に、壁にかかる絵画。豪華な設えの部屋に、「ふおああ」と変な声が漏れた。
「おお、アリシア!」
「まあ、おかえりなさい!」
声の主は部屋の中央のソファに座る二人の男女。
ファルニール公爵とその妻のダリア。
アリシアの父と母だった。
「お父様、お母様!」
懐かしさで心がいっぱいになる。
前世の記憶を取り戻したとはいえ、アリシアはアリシアなのだ。
これまでこの世界で生きてきた記憶も、この胸に刻まれている。
長らく学園の寮で過ごしていたから、両親に会うのはずいぶんと久しぶりだ。
にこにこと笑っているが、記憶の中の姿よりも一回り縮んだように思われて、心がきゅっとした。
「おお、元気そうでよかった。急に学園を辞めたと聞いて、ずいぶんと心配したぞ」
「そうよ~。突然連絡がきたから、お母さん驚いちゃった。大丈夫なの?」
すんません。性悪聖女に無実の罪を着せられたあげくに水ぶっかけられて、その拍子に前世の記憶が戻ったんで、 とりあえず一発シバいて啖呵切って学園辞めたりましたわ!
とは到底言えず、
「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって。ちょっと空気が合わなかったみたい」
と伏し目がちに微笑んだ。
「そうか、それならよいのだが」
そう言ったファルニール公爵は、ごほごほとせき込んだ。
「あなた、大丈夫?」
「あの、お父様、どこかお加減でも悪いの?」
せき込む公爵の背中を、ダリアが優しくさすった。
思わず心配になって声をかける。
「なあに、大丈夫だ。最近ちょっと疲れがたまっているだけでな」
「そう……」
「最近眠りも浅いものね……。そうだわ、あなた久しぶりに国に帰ってきたんだから、外の空気を吸ってらっしゃいよ。また今度ゆっくりお話ししましょう」
ダリアが明るく言い、シーラが頷いた。
「そうですよ。私が案内しますね。ほら、お嬢様こちらへ」
「ええ、またね、お父様、お母様」
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