第4話

天井からは豪奢なシャンデリアがぶらさがり、窓から差し込む光を反射して、キラキラと輝いている。

ここはファルニール公爵領の邸宅。

つまり実家みたいなものだ。


学園で啖呵を切ってから、その足で馬車に飛び乗って戻ってきた。

これまでは学園寮の部屋で暮らしていたが、あんな場所はまっぴらごめんだ。

陰険な聖女とめんどくさい取り巻きに関わるのもめんどくさい。

これからは実家でゆっくりと暮らすのだ。


前世出父の組を支えられなかったのは心残りだけれど、これから始まる第二の人生。

なんの因果で前世の記憶が戻ったのかは知らないが、これが噂に聞く異世界転生というやつだろうか。

それならばそれで、十分に楽しもうではないか。

そうしよう、そうしよう。


紅茶を啜りながら一人でうんうん頷いていると、横から、

「だーかーらー、聞いているのですか、お嬢様!」

と高い声がした。


「だから、わかったって。もうええやんか、馬車でもさんざん聞いたし」

「いーえ、分かってません! 公爵令嬢のアリシア様が学校を追放されるなんて、なんたることですか! しかも、無実の罪。そんなこと、このシーラが絶対に許しません!」


「ほら、それは最後に落とし前付けたったから、もうええよ」

「いーえ。だいたい、なんなんですか、そのみょうちきりんな言葉遣いは! つい昨日までもっとお淑やかなお嬢様だったのに、たった一夜でこんなあばずれになってしまって。あーあ、もう私は旦那様になんと申し開きをしたらよいのか」


ハンカチを目に当てておいおいと泣き出す少女を見て、アリシアはため息をついた。

少女はアリシアの肩ぐらいの背丈。ふわふわした髪は肩口で切りそろえられていて、小柄でくりんとした目をしている。メイド服を着ているが、なんだか小動物のような雰囲気だ。


彼女はシーラ。アリシアのお付きである。

学校でもアリシアの身の回りのことをやってくれていたが、急遽領地に戻ることになり、こうして延々とお説教を受けているのである。


本人としてはおこっているのだが、なにせ見た目が小動物。

やー、かわいい。あー、かわいい。

にまにま眺めるアリシアに気づかず、シーラはぷんすかとお小言を続けていたが、最後にぼそっと言った。


「ま、あの性悪聖女にひとこと言ってやったのは、なかなかよかったですけどね」


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