2、鳥(ヒッチコック)
「鳥」
アニマルパニック
1963年 アメリカ映画
監督:アルフレッド・ヒッチコック
音楽:なし
出演:ティッピ・ヘドレン、ロッド・テイラー
※ ※ ※ ※ ※
(あらまし)
ある日突然、鳥が人間を襲うようになる。
いたずら心から男を追って湖畔の田舎町にやって来た都会女の味わう恐怖。
_ _ _ _ _
前回スピルバーグの「ジョーズ」を、
「ハリウッド娯楽大作映画はこの映画から始まった!」
と紹介しましたが、オールドファンには、
「おいおい、何言ってんだい」
とお怒りの向きも多かったのではと。
それは、スピルバーグ以前に、
ヒッチコックがいたから。
ええ、ええ、分かっておりますとも。
わたしも高校生時分、図書館で映画の評論集なんかを読みあさって、特にヒッチコックと黒澤明、当時は今みたいにソフトが揃っていたわけではなく、リバイバル上映なんかを一生懸命観に行って、ふむふむ、なるほど、と一生懸命勉強したものですよ。
若い人に説明しますと、ヒッチコックとは、
イギリス出身で、ハリウッドに招かれた、
「サスペンスの神様」
と称される、生涯ほぼ、サスペンス、スリラーばっかり撮っていた映画監督です。
活動時期は、まだサイレントの1920年代(!)から、1976年まで。
「ヒッチコックタッチ」と言われる、画面の構図、カメラワーク、シーンの組み立て、等の、サスペンス、スリルを盛り上げる映画テクニックで人気。
その昔、タモリ氏の「今夜は最高!」という素敵な番組がありまして、歌にトークにコントという、ゴージャスなバラエティーだったんですが。
その中でヒッチコックのパロディーをやったことがありまして、
「今夜は最高! ヒッチコック」で検索したらありましたよ、動画が。いいのかなあ~?と思いつつ見ちゃいました。なっつかしいなあ~~。
「土曜ヒッチコックサスペンス劇場」で「今夜はサイコ」ですって。ヒッチコックの吹替え(ヒッチコック監督はテレビの「ヒッチコック劇場」という短編ドラマの番組を持っていて、自ら解説役をしてました)の熊倉一雄さんがゲスト出演してるよ。
「汚名」「サイコ」「見知らぬ乗客」「ファミリー・プロット」「めまい」「裏窓」「鳥」「知り過ぎていた男」「ダイヤルMを回せ」……あ、終わっちゃった。ビデオ録画したものをアップした模様。
こうしてスラスラ元の映画のタイトルが出てくるくらい、ヒッチコックの映画は印象的なシーンが多いのです。
映画人にとって、ヒッチコックの映画は「映画作りの教科書」のようなものです。
スピルバーグも熱心に研究したはずですし、「ジョーズ」を作る時には当然、アニマルパニック物の先輩である「鳥」をうんと意識していただろうと思われます。
「ジョーズ」に、これは「鳥」のオマージュなんじゃないかなあ……と思われるシーンがあります。
人喰い鮫の襲来が危惧されるビーチで、警察署長のロイ・シャイダーが海を見ている。
ロイ・シャイダーのアップ→ビーチの様子(ロイ・シャイダーの視界)、人が横切る→ロイ・シャイダー、少しアップ、『ああ、邪魔』という顔→ビーチの様子、少しズームインしてる。人が横切る→ロイ・シャイダー、更にアップ、『邪魔だ、こら』→ビーチの様子、更にズームイン。
「鳥」の似たシーン。
湖畔の船着き場で鳥の本格的な襲撃が始まった。建物に避難している主人公たち。
窓から見ていると、危険な状況(火)が進行。
危険の発生→顔で追う主人公たち→危険の進行→追う主人公たち→危険の進行→追う主人公たち(『あ、危ない!』)→ドッカーン!
「鳥」のこのシーンで笑っちゃうのが、
危険を視線で追う主人公たちが、ストップモーションなんです。
おそらく当時はかなり斬新な演出(ヒッチコックタッチ!)で、パッ、パッ、パッ、と、瞬間的な緊張感を表現したものと思われますが、
笑っちゃうのは、ストップモーションなら(スローじゃなくて、ストップね)写真を使えばいいものを、俳優たちに「ストップ」させて撮ってるんですね。だから微妙に動いちゃってるの(「ダルマさんがこーろんだ」状態ね)。
昔の映画ですからねえ……(苦笑)
そう、ヒッチコックは面白い映画がいっぱいあるんですが、やっぱりどうしても古さを感じてしまう所がありまして。カットのつなぎのぎこちなさとか、俳優の演技のわざとらしさとか。
今の若い人が見るには、どうかなあ……、と。
「鳥」は今の感覚で十分面白いと思います。
ヒッチコック映画はサスペンスにユーモアを合わせてくる所がまた一つ特徴なんですが、
「鳥」にはユーモアはほとんどありません。
まったく原因不明のまま、鳥たちが襲ってくる、というシチュエーションはディザスター(大規模災害)ムービーでもあり、
登場人物の描き方も、ひどく冷たいんですよね。嫌な人間ばっかり出てくるし、
なんだか、「世界の終わり」みたいな雰囲気で、ゾンビ映画みたい。
この「鳥」の作風は、前作、白黒で異常心理の殺人鬼を描いて大ヒットした「サイコ」から受け継がれたものであります。
「サイコ」が大ヒットしたんで、
「よおーし、もっと強烈な奴を作ってやろう!」
という感じだったんじゃないかと思います。
「サイコ」はなんといっても「シャワールーム」のシーンが有名ですが、
「鳥」はクライマックスの「屋根裏部屋の襲撃」が、明らかに「シャワールーム」を意識してますね。演じるティッピ・ヘドレンはすっかりトラウマになったと思います。
「サイコ」「鳥」と、強烈な、ホラー映画と言っていい作品を続けて大ヒットさせ、キャリアの頂点に上り詰めたヒッチコック。
しかし、そこに落とし穴があったんですねえ……。
これ以降、作品は低迷して、すっかり人気は落ちていきます。
時代がより激しく直接的なアクションやバイオレンスを求めるようになって、ヒッチコックの作風が合わなくなっていったのが一番の原因だと思いますが、
ヒッチコック自身がこの2作品で、自分の娯楽映画作家としてのバランス感覚を壊してしまったように思います。
実はね、
ヒッチコックの作品としてはそれ以前の、
ゴシックロマン的な……「めまい」「レベッカ」
ヒロイン(グレイス・ケリー)が美しく、サスペンス&ユーモアが完成された……「裏窓」
ヒッチコックタッチがすごく分かりやすい……「見知らぬ乗客」
といった、本当に充実しまくっていた頃の作品を選出したいところなんですが、やっぱり今の若い人が見るとどうかなあ…………と。
「鳥」を見て面白かったら、それらも見てみてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます