木蓮の涙

マドカ

会いたくて会えなくて

僕は父ととても仲が悪い。


子供の頃は仲は良好だった。



というのも我ながら親の言うことをよく聞く子だったからだ。



勉強では必ずクラスの上位に入り、門限も守り、通知表はオール5を取っていた。



父は嬉しそうだった。

父兄参観には必ず来るし、PTAの会長もやっていた。

運動会では父は必ず1位も取っていた。



そんな父が子供ながら誇らしかったし、自慢の父だった。



ここまで来るととても幸せな家庭だと思われそうかな。



ただ、自分は違った。



小中学生の時、壮絶なイジメにあっていた。

靴や教科書を隠される、捨てられるは日常茶飯事であったし、

無意味に殴られ蹴られもした。



ただ決して父には言わなかった。

いや、言えなかったが正しい。



不出来な子と思われたくなかったのだ。

毎日耐えていた。

反抗する勇気も無かった。



時間が過ぎるのをひたすらに待っていた。



そして中学三年生で転機が来る。



学校に行かなくなったのだ。

行ったとしても保健室。

もうこの頃は限界だった。



教室に赴こうとしても、腹痛と吐き気がするのだ。

クラスメイトの笑い声ですら苦痛だった。



帰宅しても辛かった。

父には嘘の報告をしていた。

学校で友達と遊んだ、授業がつまらなかった。とか。



いつまでも続くわけはないと思っていた。



そして突然バレた。

担任から父に連絡が入ったのだ。



父は大激怒で、ボコボコにされた。

嘘をついたことが何よりも許せなかったらしい。

泣きながらごめんなさいと謝った。



そして次の週からイジメがピタリと止んだ。

成人してから聞いた話だが、父が各家庭を脅してまわったらしい。



ただ当時の僕は気づかず、

愚かでしかないが

調子に乗ってしまった。



高校ではチャラチャラしたグループに入り、酒も飲めばタバコも吸う。

喧嘩で停学は3回。



父にその都度怒られても

何も言うことを聞かなくなった。

遅い反抗期というやつだろうか。



父と関係悪化したのはこの時期だ。



一言も口を聞かない、朝の挨拶など一切ない。



そして高校を中退した。

めんどくさくなって。

我ながら理由がクズだと思う。



大検を取って大学へ行って2年で辞めた。

集団行動がとにかく苦手なのだ。

悪い癖だが、クラスメイトを下に見てしまって同じ空間に居たくなかった。



父と何年も口を聞いて居なかった。



父は悲しそうにも見えた。



県外へ僕は逃げた。



新しい生活が始まり、より1層口を聞かなくなった。



母とは連絡を取っていた。



こんな生活が10年は続いた。



夜中、突然祖母から着信があった。



「父が死んだ」



体に電流が流れるとよく言うが

それどころじゃなかった。

しかも心臓麻痺で急死だ。

悪夢を見ているんだと思った。



父の亡骸を見た時、悲しいという感情よりも後悔しか出なかった。



何一つ、父に恩返しを出来ていない

あんなにも幼少期に不自由なく生活させてもらったのに。



子供が出来たら孫を見せたかった、普通に酒を飲み交わしたかった、いつか誇れる自分を見せたかった、高校以降の素行の悪さを謝りたかった。



涙が零れ、父の名を呼んでも返事はない。



事務的に通夜や葬式があった。

僕は何も覚えていない。

色んな親戚に声をかけられても

心がそれどころじゃなかった。



1週間が経った頃、もうこの世に居ないという現実に襲われた。



母から

父は常に僕の心配をしていて、もし県外でダメになってしまったら会社の役員のポジションを用意していたし

僕の為の定期貯金もあったらしい。



不器用な愛情だ。

それに気づけなかった僕はなんて愚かなクズだろうか。



父との思い出は山ほどある。



その中で言われた言葉、これを今後の人生では常に守ることにする。



『何かに迷ったら家族が喜ぶことをしろ、友達や知り合いが喜ぶことをしろ、ただ見返りは絶対に求めるな』



お父さん、あなたはとても偉大で花火のような人だった。



あっちに行かれたらもう追い越すことは出来ないね。



悲しいけれど前に進むことにするよ。



あっちに俺が行ったら、

「ようやったな、偉いぞ!」

と頭を撫でてくれな、お父さん。



皆様も親は大切に。

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木蓮の涙 マドカ @madoka_vo

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