三章 「約束と勘違い」

 なんでこんな展開になったのだろうか。

 部屋の開けている窓からは気持ちいい風が吹き込んでくる。いつの間にか冬は通り過ぎ、春になっている。

 どの季節にもその季節特有の香りがある。それは甘かったり爽やかだったりいろいろだ。

 俺は春の香りが一番好きだ。

 俺は読んでいた小説を一度閉じた。本棚にはたくさんの本が並んでいる。読書は俺の趣味であり、知識だ。

 あの日からもう十日が経ったけど、未だに俺は思い出す。

 俺はあの時どうかしていたのだろうか。

 柄にもないことをした後で、さらに女の子と連絡先を交換までした。

 彼女の姿を思い出す。

 俺だって男だ。

 あんなに綺麗でスレンダーな人と連絡先を交換できたことは嬉しい。

 そして、甘い花の香りがした。それは彼女の匂いだろうか。

 困っている人を助けて、その人と連絡先を交換するなんて、リアルでなかなかないことですごい。こんな展開は小説では必ずと言っていいほどすぐに恋に発展する。

 でも助けに行ってやられるなんて情けなすぎる。

 その上、彼女は絶対に関わらないほうがいいタイプの人だ。まず心理学で言うところの初頭効果いわゆる第一印象は最悪だし。

 渡された連絡先をを見てため息をついた。

 毎回断ることができず面倒なことに巻き込まれて損をすることが多いのに、またNOと言えなかった。連絡先を受け取ってしまった。彼女からはきっと、いや絶対連絡が近々くる。そのせいで面倒な事に巻き込まれるのは嫌だと思う。

 目を瞑って息を整える。

 黒髪でセミロングのカールした髪、色白で優しさが感じられる目。

 なぜだろう、彼女の顔をまた思い出してしまった。これじゃあまるで恋したみたいだ。

 そんなことはないとぶんぶんと頭を振った。

 そんな時携帯が鳴った。彼女からだ。

「美味しいコーヒーのお店があるので、そこで前回のお礼をさせてくれませんか。いつなら予定が空いていますか」

 なんだかタイミングが良すぎて、恥ずかしくなった。今彼女のことを考えていたと相手にバレていないだろうかとありえないことを俺は疑った。

「来週の土曜日なら空いてます。小鳥遊さんはどうですか?」

 メールなら慌てている様子がわからなくていい。

「私も大丈夫です。ではその日にしましょう。場所は東京駅の近くなので、東京駅で待ち合わせしましょう」

 すぐに返事が来た。

 普段はそんなに感じないのに、すぐに返事が来るとなんだか嬉しかった。まだ彼女の笑顔が頭に残っている。

 俺はコーヒーを入れて、落ち着こうと思った。

「楽しみにしてます。コーヒーは俺も好きです」

「それはよかったです。ではまた来週の土曜日にお会いしましょう」

 メールを終わらせ、ふと最近恋してないなと思った。

 なぜかそんなことが頭に浮かんだ

 小説のありきたりな展開に影響されたのだろう。

 いつのまにか日は沈んできている。

 恋は四季に似ている。春のようにただ幸せな時もあれば冬のように暗くて寂しいときもある。

 俺は今二十五歳で、四年ぐらい恋はしていない。

 もう恋はいいかなと思うぐらい辛いこともあったし忙しい毎日だった。

 恋する気持ちは枯れているのだろうか。

 彼女のことは何も知らないのに、今度会う約束をした。

 こんなシチュエーションなかなかない。

 俺をおいて、着実に話は前に進んでいるかもしれない。

 やっぱり何かが起こるかもしれない。考えがぐるぐる回っている。

 俺はまた恋をするのだろうか。

 でもあんな人の気持ちも考えないトラブルメーカーとは一緒にすらいたくない。

 一度しか会っていないけど、あの人はきっと今まで何度も同じようなトラブルを起こしていると確信がもてた。体でそう感じた。

 俺はただただ波風立てず、平和に一日をただ過ごしたいだけだ。

 やっぱり彼女とはあり得ないと改めて今の考えを打ち消した。

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