二章 「連絡先を交換しましょ」
絶対彼はイエスマンだ。
彼女は、彼にたいして直感でそう感じた。
私の勘はやはり間違っていないと後々それは証明されるのだった。
私のお気に入りのお店。
何か一つ決めるにしても私はこだわりがある。
お店の雰囲気、使っているテーブルや椅子の形、色、店員の心遣いなど挙げたらきりがないほどだ。
その幾多の課題をクリアしたのがこのお店だ。
全てから穏やかな雰囲気が流れていて私は好きだ。
そこでたまたま新入りらしい店員の喋り方が変だったから指摘してあげたのに、またトラブルになった。
私はいつも何かとトラブルを起こす。
おかしなことなんてしていないのに、なんでだろうか。
そこまで気にはしないけど、いつも私の時間が奪われていい気分はしない。
でも、今日はいつもと違っていた。
いきなり、隣の席の彼が割って入ってきた。
絵に描いたようなかっこいい男の人が助けてくれるなんてこんな恋愛漫画みたいなことが現実にあるのだろうか。
不覚にも少しだけときめいてしまった。
こんなこと今までされたことないから。
それからはっとして大きな声を上げてしまった。
とりあえず落ち着いてみよう。
それからどうするわけでもなくとりあえず様子を見ていた。
彼は助けに来てからずっとニコニコしながらあの店員に話しかけている。
言われたことには全て謝りながら答えていた。
どうして他人の彼がそんなに答えたり謝ったりしているのだろう。そんな損な役回りをすすんでやる人がいるなんてすごいと感心していた。なんだか変な気分だ。
彼は下手に出ていたけど、差し出している手などを見ると、体つきは細マッチョでしっかりしている。十分威圧できる体なのにそれをしない。
気に入らない。
私が気に入らないと思っているのは、本当は気になるということをこの時の私はまだ知らない。
ただ春が私の前に訪れるように、恋は知らないうちに動き出していた。
何が気に入らないかというと、彼は話しかけているというか、媚を売っているみたいだし、いつまで経ってもはっきり言わずじれったい。
助けに来てもらいながら悪いけど、 なんだかもどかしい。
私ならズバッと言う。
だから、「あなたもこの人の喋り方変だと思いませんでしたか?」と彼に話しかけたのだ。
それから彼は店員に殴られて意識を失った。
そして、今現在彼が目を覚ますのを待っている。
周りの観客はだいぶ減った。
でも騒がしさはまだ残っている。
彼に対して正直に悪いことをしたなと思った。私の気持ちはいつもコロコロと変わる。
その気持ちを伝えたいこととお礼をしなきゃだめだという思いに駆られた。
しばらくして彼が目を覚ました。私はすぐに「痛むところはありませんか」と声をかけた。
「あっ、はい。あの店員はもういないんですね。俺は大丈夫です。あなたが怪我してないなら良かったです」
彼は嫌そうな顔せずに答えてくれた。
「私は大丈夫です」
「気をつけてくださいね」と彼は立ち去ろうとしたので、私は彼の手を掴んだ。
振り返る彼は少し驚いているというか怯えているようだった。
「あの、待ってください。私は、
「いや、そんなのいいですよ」
彼が静かに手を払おうとする。
「そう言わず、させてください。これ、私の連絡先です。あなたのも教えてください」
私は足早に住所をメモ帳に書き、そう話した。
また変わらず、「気にしないでください」と言われたけど、私は断固として譲らなかった。残念ながら私は筋金入りの頑固者なんだ。こうと決めたことは意地でも曲げない。
彼は最終的に
「私から連絡しますので、その時は予定の空いてる日を教えてくださいね」と私は言った。
彼はニコッとうなづいて、自分の席に戻っていった。
私は急に「あっ、お昼ご飯食べていなかったんだ」ということに気づき、店員に注文した。
なんだか料理が運ばれてくるのが今日は早かった。
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