春の香りに恋して
桃口 優/ハッピーエンドを超える作家
一章 「初めての出会い」
恋って、春の香りに似ている。それはふとした瞬間香って、心をさらっていく。
関わりたくない。
これが俺が彼女に抱いた最初の感情だった。
いい意味でも悪い意味でも、彼女のような人はこれまでに出会ったことはなかった。
「あなたの喋り方気持ち悪いですよ」
今俺は家の近くにあるファミレスにいる。
よく来ている店だ。
そんなに美味しい店でもないのに、なぜかよく食べたくなる店だ。
土曜の昼間。人は結構いて、店内はがやがやしている。
レストランからは桜が見える。俺は別れという言葉が頭に浮かんだ。春は別れの季節だ。
俺は、コーヒーを飲んでいた。
そんな中、隣の席からはっきりとそう聞こえてきた。
俺は声のする方を向いた。
驚いて自然と見てしまったといえば間違いはないけど、俺の中で何か衝撃が走ったのかもしれない。
その女の人は、その言葉を前にいる店員に言っていたのだ。
普通そんなことを面と向かって言わない。ましてや見知らぬ人には絶対言わないのが暗黙のルールだ。彼女は変な人なんだろうか。
でもとても綺麗な人だ。
確かに顔ははっきりとした輪郭をしているけど、全体的に穏やかな雰囲気をしていてそんなことを言いそうにもない。
一瞬にして空気がピリッとした。店全体が静まり返った。
その店員はかっとなって彼女の胸元を掴もうと距離を詰めてきた。
相手は男性。しかもがたいがいい。
反射的に俺は彼女の前に立った。
なぜそんなことをしたかその時は分からなかった。
危険な目に合いそうな人がいたら目の前にいたら助けるべきだけど、普段は恐くてこんなことできない。
ただ運命というものに導かれたのだろうか。これから起こる出来事が大きな変化をもたらし、大きな意味をもってくることをその時の俺は微塵も感じていなかった。
店員はいきなりの乱入者に驚いたけど、俺も彼女の仲間だと思われ余計に怒りだした。冷静さを失っている。彼女が悪いのは確かだけど、怒り方が異常だと俺は思った。最近ちょっとしたことで事件になっているとニュースで流れているのを聞く。そう思うと俺は慎重になった。
俺はどうにかして店員をなだめてみるけど、やはりというべきか、なかなか燃え上がった感情は治らないようだ。
一方、彼女は謝ることなく、何も言わずに立っていた。何か悪いことを言ったのかという態度だ。ただ謝ればこの場は治るのに、なぜしないんだろう。
なんだか騒がしい。ちらっと周りを見ると、いつのまにか彼女の周りには観客がたくさん集まっていた。
なんで人は、他人の厄介事が好きなんだろうかと俺はため息をつく。
集まるぐらいなら止めに入ったらいいのにという言葉を俺はぐっと飲み込んだ。そんなことを言ってこれ以上目立ってしまうのも問題がややこしくなるのも嫌だ。ただでさえ今は好奇の目で見られている。
俺が事態をどう落ち着かせようと思っていた時、「あなたもこの人の喋り方変だと思いませんでしたか?ほら、あなたもさっきこの人に注文してましたよね?」と彼女はいきなり俺に話しかけてきた。
俺はあまりのことに、声が出なかった。
俺が答える前に、店員のパンチがなぜか俺に飛んできて、俺はそこに倒れたのだった。
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