第7話 貴方の私、私の君
季節はゆっくりと流れていく。
いつしか、私の腰につけていた白銀の剣は錆びつき、部屋の置物として飾ってある。
もう、私は騎士団長では無いし、君も魔女とは思えない。
私達は日がな一日、季節の野菜を育て、余れば教会に寄付し、薬草を摘んでは薬を煎じ、寺へと預けた。
春風、雪解け、大地の芽吹き。
花弁が甘く香る食卓。
テーブルにはロールキャベツ、アスパラの肉巻き、筍の出汁炊きのご飯。
夏風、夕映え、蝉時雨。
近くの海から流れ着く潮風香る爽やかな食卓。
テーブルには夏野菜のカレー、ホロホロ鳥のトマト煮、きゅうりの酢漬け。
秋風、虫の音、月明かり。
季節風に乗って、遠くから運ばれる山葡萄の豊潤な香りが食欲を掻き立てる。
テーブルにはキノコソテーの山菜ソースがけ、紅芋のタルト、ヤギ乳のミルク煮。
冬風、初霜、北おろし。
山から吹き下ろす、からっ風が温かな料理の魅力を存分に引き立てる。
白菜シチュー、馬鈴薯のグラタン、一級小麦のラザニア。
和洋折衷、程よく織り交ぜ、君は毎日、怠ることをせず、嘆くこともせず、私のためだけに腕を振るい、私の色気のない人生を虹色に染めた。
貴方はいつも「美味い、美味い」と変わり映えのない料理に舌鼓をうち、ときには、臆病な私の手を引き、馬に乗せ、広い世界を見せてくれた。
春には花を愛で、夏には海に、秋には山に登り、冬には身を寄せる。
貴方の優しい声は、今まで生きる為だけの生活に花を添えた。
私達は互いの皺の数を数え、その都度、昔を懐かしむ。
君と居るだけで楽しい。
貴方と居るだけで幸せ。
移り行く季節を肌で感じては、通り行く季節を二人で惜しんだ。
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