第6話 夜更けの再開
硬直した時間を振り払うかのように、君は唐突に喋り出す。
「ちょうど良かったわ。作り過ぎて困っていたところなの」
白々しい君の作り笑いに、私は見惚れてしまう。
君は私をテーブルに促す。
ほうれん草とキノコのクリームシチュー。
大根を千切りにしたサラダ。
色鮮やかなキャロットスープ。
香ばしいバケットの香りが私の空っぽの胃を刺激する。
静かな室内に料理の匂い。
何から話そうか。
話したいことは沢山あるのに。
少し空気が重たい。
グゥーとなる腹の虫。
赤面する貴方の顔が緊張を解す。
貴方は意を決したように「いただきます」
手を合わせると、次の瞬間には、
「美味しい、美味しい」
貴方は料理を掻き込んでいく。
私の待ち望んだ「美味しい。」の一言。
感極まる。極暖の食卓。
笑顔が溢れる。至高の味付け。
君は綺麗な笑みを溢しながら、うなじをかきあげ、シチューを口元へと運ぶ。
窓から差し込む、湖を反射された月明かり。
室内を飛び回る螢火。
妖艶に映る君の瞳と薄桃色の唇。
薄暗い室内をパッと明るくする貴方の笑顔。
出来立ての料理にも負けない温かな言葉。
何気ない会話の中にある優しさ。
貴方に求められる喜び。
君との尽きる事のない会話。
私の求めていた癒し。
草木も眠る丑三つ時。
今にも眠りそうなフクロウの鳴き声。
わんぱくな犬の遠吠え。
そして、仲睦まじい男女の笑い声が、静かな夜を華やかに彩り、ゆっくりと時を進めていた。
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