第5話 王宮随一の騎士団長

私は一縷の望みを貴方に託す。

私が今、出せるだけの食材と馬鈴薯ばれいしょ

馬鈴薯はじゃがいもの一種で寒さに強い。

村を救えるのは貴方しかいないわ。

私の話に耳を傾ける人なんて貴方に以外いないもの。


君は心の優しい魔女。

私は託された食材を荷車に乗せ、魔女の家を後にした。


貴方は私が思ってた以上に尽力してくれた。

村に種を蒔き、春の芽吹きに期待を抱かせると、休む暇なく王宮へ急ぐ。大臣や貴族を前ににひれ伏す事なく熱心に交渉する。


私には紫水晶越しで、声は聞こえないけど、

貴方の一生懸命な眼差しは全てを語る。

畑で汗を流す貴方。会議で熱弁を披露する貴方。かなりの距離を馬で移動する貴方。

あなた、あなた。


卑しいとは思いながらも、貴方を見ていたいという衝動が抑えきれない。

貴方はそんな、私を嫌うかしら。気持ちが悪いと罵るかしら。それでも良いの。罵りでも良い。貴方の声が聞きたい。



私の行動は正しいのだろうか。

しんしんと降り積もる雪は森を閉ざし、アニモニの村への道すら遮る。

せっかく、王宮直属の騎士を抜けることが出来たというのに。


結局、私は努力の甲斐もなく、王都に立ち往生のまま、動き出せずにいた。

その間も君への想いは雪のように降り積もる。君の声が聞きたい。



季節はダラダラと過ぎ、雪が溶け始めたのは桜の目覚めに合わせてとなった。


王都に居た貴方は早馬に乗り、まだ雪が解けきらない、ぬかるみのある獣道を、猪突猛進の勢いで走り抜ける。


私は逢えると思うだけで、胸が高鳴った。笑顔が溢れた。活力に満ちた。


月が煌々と照らす夜だった。

私はソワソワしながら、紫水晶を出しては引っ込めた。

もう、貴方は目の前。


トントン。遠慮がちなノック。


「夜分遅くにすいません。」

待ち望んだ。貴方の声に私の心臓は強く脈打つ。

「はい。」

可憐な君の声に、私の鼓動は早くなる。


ガチャリ、ギィーっとドアが鳴く。


月明かり。見つめ合う二人。

私の顔は薄紅色に染まっていく。

言葉なんて野暮。

チャパパパと湖の水面が揺れる。

ざわりと葉が擦れる。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」


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