第2話 君は西の魔女

初めて、君の存在を知った時。

君は皆が恐れる魔女だった。


人が踏み入れない森の奥地に住み着く魔女。

陰鬱としたイメージを植え付けられていた。


天候を操り、大地を動かし、神々の所業に手を伸ばし、人を牛耳るとされていた。


人は口を揃えて言う。

あれは、人肉を食う化け物だと。

あれは、歳をとらない妖怪だと。

あれは、心を持たない鬼だと。




季節は寒い冬のつごもりの夜だった。

私は紫水晶を覗き込む。

王都から遠く離れた、べレム領主の納める農村。アニモニ村

貴方は寒空の下、村人の期待を裏切れず、焼け野原と化した廃屋周辺を歩き見聞している。



この日は雪が降っていた。

海が近く森に挟まれた村落だか、大きな山は無く温暖な村に雪が積もるのは珍しかった。

さらに、今年は飢饉に塩害と度重なる不幸に見舞われ、大殺界の渦中の村。

貴方も私の仕業と疑っているのかしら。



寒々とした村の人々の貴方への対応も寒々としていた。

要件は魔女討伐。私を殺してのお願い。

散々、王宮兵士の対応不足だと貴方は罵しられたあげく、お粗末な賃金を突きつけられて困り顔。

見た目より頭のキレる貴方は体良く断り、交渉だけはしてみましょうと、その場を収めたのには驚きました。


それより、今から、貴方が私の家を訪ねてくるとは、分かっていたとは言え、胸が張り裂ける思いです。



早朝、西の森。

サワサワと揺らぐ針葉樹。

冷たくも凍ることない湖。

そして、魔女の家がひっそりと立っている。


世界から切り割かれたように穏やかだった。

まるで、時が止まってしまったかのよう。



早朝は月の力が弱まる。魔女にとっては一番苦手な時間。意を決して家に近づく。

白い壁の木造二階建て。屋根は青。

空の青をそのまま持ってきたかのような、爽やかなコバルトブルー。

私は礼儀としてノックを一つ、返答を待たずして扉のドアノブに手をかけた。



ギィー。

建て付けの悪い木製のドアを開けると、薬草の独特な香りに次いで、コーヒーの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。


君はテーブルで、コーヒーの香りに包まれながら、トーストに口をつけていた。

プラチナブロンドのロングヘアーは、寝癖混じりだが、毛先は綺麗にくるんと巻き髪のランダムカール。服は深見のあるエメラルドグリーンのローブを着込んでいる。


君の、はだけた胸元に私は目を奪われながらも、ゆっくりと顔を上げた。

私を直視する、君の真ん丸の赤と緑の綺麗なオッドアイに吸い込まれた。


「美しい。」


静寂な朝に貴方の声が溢れた。

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