第6話 連絡がつかない祖母
「フロルのことは少しわかりました。でも、わたしには対処しきれないので、祖母に連絡をすることにします」
手紙にも花が咲いたら連絡するようにあったし。
「なぜですか?」
「ロジエさん、の種をわたしに送ってきたのは祖母なんです。祖母は魔法使いなんです」
「なるほど。それよりシェリ、私のことはロジエとお呼びください」
「いやいやいや」
「敬語も不要ですよ」
「そう言われても……」
初対面の男性を呼び捨てにはできない。
すると、彼はずいっとわたしに近づく。
吐息がかかるほど間近に迫る顔。
「お願いします、シェリ」
至近距離で懇願され、わたしはぎょっとする。
「わ、わかりました! ロジエ……」
「はい!」
わたしが名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに笑い、返事をした。
……この調子でいくとわたしはいろんな意味でダメになってしまいそうだ……。
早いところ祖母に連絡を取らないと!
さっそくわたしは出かける準備をする。
早起きをしたので、職場に出勤するにはかなり早いが、仕事前にロジエの件を片付けてしまった方がいい。
バスルームでパジャマから着替える。
ロジエがバスルームまでついてこようとするので、一悶着あったが、どうにか済ませた。
身繕いが終わったら、鞄を持ち、マスクをつける。
「ロジエもこれを」
「これは?」
「マスクだよ。こうやってつけるの」
わたしは実際に装着して、やり方を教える。
それを見て、ロジエも真似をして装着する。
「マスクのサイズ、小さいかと思ったらちょうど良かったね……」
わたし用のマスクはロジエにもピッタリだった。
男性にしてはとても小顔なんだと思う。
「では出かけましょう」
「はい!」
ワクワクしているロジエを連れて、わたしは家を出た。
わたしは何も考えずに家を出てしまったことに後悔した。
とにかくロジエが目立ちまくっている。
マスクで顔の半分を覆っているとはいえ、整った顔立ちやスタイルの良さは隠しきれない。
しかも、薔薇のようないい香りまでするのだ。
早朝で人通りが多くはないものの、それでもそれなりの人が出歩いていて、ロジエが通る誘われるように彼の方に視線が集まっていく。
一方ロジエは、外の様子が気になるのか、きょろきょろと至る所に視線を向けている。
「これが町というものなんですね」
キラキラと目を輝かせながらロジエが呟く。
「そうね。町でもここはそれなりに大きいと思う」
「なるほど。ここに人間は寄り集まって暮らしているんですね」
興味があるのか、ないのか。
人間は、という言葉がロジエがフロルであるということを思い出させる。
「シェリはこの町で育ったのですか?」
「いいえ、この町に来たのは四年前なの。小さい頃は違う町に住んでたんだ」
「そうなのですか」
「……あ、着いたね」
ロジエと話しながら歩いていると目的地に到着した。
町の中央付近にある立派な建物。
わたしはロジエを連れてその中に入っていく。
建物に入ってすぐ、大きなカウンターがあり、そこには等間隔で受付人がいた。
わたしは手隙の人のいる場所に向かった。
「すみません、通信をお願いします」
「かしこまりました。どちら様宛でしょうか?」
「大魔女オリヴィエ・エモニエに連絡を取りたいのですが……」
祖母の名前を出すと、受付の女性はやや警戒するようにわたしの顔を見る。
「恐れ入りますが、大魔女オリヴィエ様とはどのようなご関係でしょうか?」
「孫です」
「証明できるものはお持ちですか?」
「はい」
わたしは鞄から身分証を取り出し、受付の女性に渡した。
彼女はそれをしっかりと確認して頷く。
「確認が取れました。ありがとうございます」
必要な確認とはいえ、緊張する。
大魔女である祖母は重要人物。ゆえに、個人的な連絡を取ろうとするのが容易ではないのだ。
「では、通信の手続きに入ります」
彼女はかかる費用の説明をはじめる。
通信には結構なお金がかかる。しかし、最速で連絡を取るとなると、これしか方法がない。
背に腹はかえられないので、受付の女性に承諾の答えを返した。
祖母のいる可能性がある場所は二つ。
自宅か、聖地の魔法協会本部だ。
まず自宅の方に繋げてもらうが反応はなく、残るは魔法協会の本部だ。
そちらは繋がったので受付の女性が取り次いでもらえるよう向こうに伝えてくれる。
やり取りしてしばらく経つと、受付の女性が一度こちらを見た。
「大魔女オリヴィエ様は不在にしておられるようです。言付けをされますか?」
わたしはどうしようか答えにつまる。
ロジエのことを第三者に伝えていいものなのかわたしでは判断できないからだ。
少し考えて、わたしは言った。
「自宅を訪ねます、とそうお伝えいただけますか?」
「かしこまりました」
受付の女性はすぐ相手方に伝えてくれて、通信を終える。
かかった費用を精算して、わたしは建物を出た。
次に向かうのは職場のお花屋さんだ。
「おはよう、今日は早いね」
すでに出勤していた店長が声をかけてくる。
「おはようございます。あの店長、しばらくの間、お休みをもらうことはできますか?」
「あら、どうした? 後ろのその人と何かあったの?」
店長はわたしの後ろにいるロジエに視線を向ける。
「まあ、そうなんですが……。祖母の関係でちょっと……」
「お祖母様の関係なら仕方ないね。お店は私と甥っ子でどうにかするから大丈夫!」
「ありがとうございます!」
「いつも頑張ってもらってるし、たまにはゆっくりしておいで。……それにしても花がそのまま人間になったような人だね」
店長の鋭い指摘に、わたしはあははと笑って誤魔化す。
「お休みいただいちゃうので、ここの分だけでも浄化しておきますね」
「それは助かるわ~」
しばらくお店に出られないならせめてもと、店内の水瓶の分の水を浄化する。
──しばらく留守にしますが、その間もどうか美しい花を咲かせてくれますように……。
わたしが浄化するその様子を、ロジエは静かに見つめていた。
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