ヴィーナスの女王
ひとえあきら
N.V.0020.01.01 - 王宮
「お
王宮の朝は女官長の大声と共に明ける。
それは夜明けを告げる鶏の一鳴きにも似て城の風物詩となっていた。
「……カリス、ノアの奴また居ないの?」
「は、はい若様。御寝所に起こしに参りましたらもぬけの殻で……」
「毎日毎日飽きないなぁ、ホントに」
ふぅ、と軽くため息をついて"若様"と呼ばれた少年は黄金色の髪を弄りつつ暫く考え込んでいた。
「カリスのことだから、いつもの場所は見てるだろうし、
「陛下の……そうですねぇ……念のために見て参ります」
あたふたと走って行くカリス女官長を見送りつつ、彼は反対に王宮を抜け城の外へすたすたと歩いて行く。
やがて、城の敷地の外縁部に差し掛かり、裏手にある外壁の植え込みの辺りをあちこち覗き込んでいたが―
「やっぱりここか」
ふぅ、と本日二度目のため息をついて植え込みの奥へ呼びかけた。
「……」
「お前なぁ、程々にしとかないとそのうちカリスがぶっ倒れるぞ」
「……」
「カーリースー!! ノア居たよー!!」
「レオ、駄ー目ーっ!!」
流石に耐えきれず、植え込みの奥から飛び出して今し方レオと呼んだ少年の口を塞いだのは、年格好も彼と瓜二つの艶やかな黒髪の少女。口を塞がれたレオは暫くもごもごしていたが、
「……ぷはっ!! ノア、お前なぁ、呼吸困難で死ぬとこだったじゃないか!!」
「だってカリス呼ばれたら困るし……」
「だったら温和しく寝てりゃいいだろ!!」
「でもでも、こっそり抜け出すなら今くらいしかないじゃない!!」
「だから抜け出してどうしよってのさ!!」
「ちょっと外に―」
「却下」
「なんでー!!」
「
「一回くらい、いーじゃなーい!!」
「そうなると、衛士から女官から総動員で捜索がはじまるぞ。そうなると確実に捕まると思うけど?」
「……うぅ……レオのイケずぅ……」
「お前そんな言葉何処で覚えてくるんだよ……」
二人がそんないつもの遣り取りをしていると、不意にノアが少し離れた所を睨んだ。
「……!!」
「何だ!? 誰か居るのか?」
こくり、と頷いてノアは口に人差し指を当てる。静かにしろ、という波動が伝わる。
「つまり悪意のある気配なんだな」と呟くようにレオ。
幸い、彼らの居る場所は植え込みの陰になっているため、向こうから来る相手には見えない。
そのままで植え込みに蹲って裏庭の方を覗っていると、背の高い細身の男が辺りを覗うように小走りにやって来た。服装から見るに衛士のようだ。左腕に何か包みを抱えている。
「あれ、衛士じゃん? 別に怪しく―いや、あの様子は確かに変だな……」
やがて、その怪しい衛士は彼らから少し離れた植え込みに近づくと、そのまま外壁の方へ進む。危ない、ぶつかる―と思う間もなく、彼の姿は外壁の中へ消えた。
「消えちゃった!! あの人、
「そんな
「怖いよー」
「じゃあノアはここにいて。僕が見てくる」
「それもヤだー」
「なら一緒に来な」
渋々、という感じでレオに付いていくノア。植え込みの裏に回り、外壁を壁伝いに進む。やがて、先程の衛士が消えた外壁の辺りに来ると、
「あー!! ほらここ、見て」
「壁にヒビが入ってる!!」
「うん。おそらくここから出入りしてるんだ」
「じゃあここから出られるね!!」にまっと笑うノア。
「おい、ちょ、待て待て待て!! 駄目だったら!! ノア!!」
レオが制止する間もなく、彼の手を潜り抜けるように軽快なステップでノアは壁の隙間に滑り込んだ。レオも慌てて追う。
「……ったく、カリスの苦労が身に沁みて解るよ……」
城の周囲には城下町とも言うべき市街地が形成されているが、まだ僅か20年ほどのことなので、裏側には建物もまばらである。レオが目を凝らして周囲を見渡すと、城の西側面の町へ走って行く黒髪が見えた。
「……アイツは野生動物か……
おそらく先の怪しい衛士を追いかけているであろうノアを危険に曝す訳にもいかず、レオも黙ってノアの後を追った。全速力で。
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