第88話 城下町グラフェリアへ
(急がなくては……)
ハッキを従えた日から3日が過ぎた。
俺は野宿しながらリピドーに乗り、魔法帝国リムバフェのルミナレスカカオから急ぎサカキハヤテ皇国へ向かっていた。
もう道中は半分を超えて最後の山越えに差し掛かっている。
ところでハッキはどうなったのか。
リピドーに跨っていることから、おおよその予想はついているはずだ。
この3日でハッキは倍以上に成長した。
俺の背の高さぐらいまで。
だが、まだタツノオトシゴ(中)だった。
幸い悪夢のオマルは脱したものの、乗ってみると立ち乗りになってしまい、バランスが悪くなって移動速度が低下してしまった。
ハッキは「我はこの3日で進化した。新しい能力で跳ねることもできる、乗るがいい」などと言うので、懲りもせず感動し、乗ってみた。
耳の横の角を掴むと、言った通り、ピョンピョン小刻みに跳ねて移動する。
確かにそれなりの速度で移動している気がする。
「気に入ったか。これこそ勇者達が取り合う我の能力のひとつ……」
跳ねながら厳かに呟くハッキ。
「――ただのホッピングマシンじゃねぇか!」
そう。跨ってピョンピョン跳ねて遊ぶ、あれだ。
確かにリピドーよりはスピードが出る。
出るのだが、縦に揺れるし、なんといっても格好悪い。
オマルがダントツだが、次いで2位としてよい。
想像してほしい。
――蒼空を飛び回るペガサス、ミハルネ。
――大地を疾走する白馬、彩葉。
――前傾してホッピングするホッパー、俺。
ダメだ。
俺だけアウト・オブ・ファンタジー。
「はぁー。せめてハッキのスピードがもっと出れば楽なのに」
◇◆◇◆◇◆◇
そろそろ真面目な話に戻る。
戦争はサカキハヤテ皇国の敗北が続き、皇国軍はとうとう最後のグラフェリア城に籠城し、もう数日が経っていた。
サカキハヤテ皇国には、猶予がない。
詩織の話では、皇国の王族が捕らえられた際には、民の前で拷問を自ら身に受けて死んでいくことになるという。
それは仕方ないことだろう。
身から出た錆というもの。
しかし俺が気になっているのは、あのリフィテル第二皇女も殺されるということだった。
「……」
思い出さずにはいられなかった。
あの夢を。
(リフィテル第二皇女か……)
俺の目的は変わらない。
リンデルを見つけ、殺し、復讐を果たすことだ。
しかしどうしても看過できない。
あの鳶色の目をしたあの人が、殺されることが。
誓っていい。
あの人は、絶対に拷問などに手を染めていない。
そんなことをしていて、あんなに澄んだ目ができるはずがないからだ。
リンデルはピーチメルバ王国側につき、サカキハヤテ皇国の滅亡に寄与している。
恐らくは王直属の禁軍百武将に在籍し、リフィテルたちを捕らえんと動いているのだろう。
(ならば)
リフィテルを助けるついでに首を刎ねてやるのも悪くない。
俺はそう決意して、今、サカキハヤテ皇国に向かっている。
◇◆◇◆◇◆◇
詩織から聞いた情報によると、籠城を予想していた皇国側は、そのための相当な準備をしていたという。
すぐ備蓄が底をつくことはないだろうとの判断から、俺はまずピーチメルバ王国の「禁軍百武将」側に紛れ込むことにした。
司馬側の主要戦力は間違いなく『禁軍百武将』だ。
その手の内を知っておくことは、籠城戦で戦うことになった際に大きな助けとなる。
そこでリンデルの情報も得られるかもしれない。
うまくいけば、手っとり早く始末もできよう。
「………」
俺は無意識に拳を握る。
見上げると白く霞んだ春の空に、背の高い針葉樹が突き刺さっているように見える。
あたりはすっかり針葉樹ばかりになっている。
それも当然、このまま東に進んでいくと、気候は温帯から冷帯に変わるはずだ。
(そういえば、ここを曲がればマリーズポテトか)
俺は分かれ道になっている分岐で止まり、向かわぬ方の道を眺めた。
フューマントルコ連合王国の首都マリーズポテト。
ドワーフと人の連合王国で、付近にミスリル鉱山が多数発見されており、武器職人や鎧職人たちが集まるにぎやかな街だ。
鉱業から鉄鋼業が盛んで現在、最も富んでいる国でもある。
そして今、ノヴァスと彩葉たちが在籍するギルド『乙女の祈り』がハーピーと戦うために滞在している街でもある。
そういえば昨日、以心伝心の石を使って彩葉から連絡が来た。
『カミュさん元気にしていますか? 彩葉です。私たちはドワーフたちの軍隊「牢固なる重騎士団」 とともに空から飛来するハーピーとの戦いに防戦一方です。カミュさんが居てくださったらどれだけ心強いかと思うと、いつも切なくなります』
『ノヴァスも一緒に戦ってくれています。でも容姿のいいノヴァスをこのままほうっておくと、変な虫がついてしまいますよ。私が仲直りを手伝いますから、早くこちらにこられたほうがいいですよ』
内容はともかく、彩葉さんたちが防戦一方とは少々気になったが、俺はそのままサカキハヤテ皇国へと足を向けた。
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