第6話 5歳 その1

 5歳になった。


 今までとても充実した日々を送っている。


 妹のソフィアはすくすく成長し、2歳になった。


 それに、すんごく可愛い!


 妹って、こんなに可愛いものなの?


 初めての妹で気が浮ついてしまっている。このままだと重度のシスコンになりかねないので、自律しないと大変なことになりそうだ。


 まぁ、それはいいとして、5歳の一日を紹介しよう。


 朝、目が覚め、朝食を食べ終えると早速授業が始まる。


 俺専用の時間割のようなものが作られ、


1限     9:00~10:30

2限    10:30~12:00

3限    13:00~14:30

4限    14:30~16:00

剣術・体術 16:30~18:30


となっている。1限と2限の間、それと3限と4限の間には休憩時間がない。


 あと、休日は週に1日ある。


(ちなみに、暦は陰暦が用いられている。)


 先生方は俺に数分の休憩を促すのだが、俺はそれらをすべて断っている。せっかく先生方が来ているというのにもかかわらず、教えを断るとは勿体もったいない。


 それと、剣術・体術の授業は毎日行われている。


 剣術はまだ教わっていないが、そろそろ教えてくれるだろう。


 では、何をしているのかって?


 それは勿論、基礎体力の底上げさ。


 城で勤務している騎士が授業に就いてくれるのだが、以前にも言ったとおり、彼の鬼教官っぷりは全然変わらない。


 まぁ、たまには鬼ごっこをするなどして趣向を変えてくれたのだが、それでもごっこ遊びとは思えなかった。「1分で捕まるとは、まだまだ根性が足りない! 10周走ってこい!」なんて言われることもあった。


 剣術・体術の授業が終わると夕食を摂り、その後は授業の予習・復習と、空いた時間は書庫の本を読んでいる。


 書庫には人間語以外の言語で書かれた本も沢山あるため、それらの本も読んでいる。数か月前に獣人語、魚人語、魔人語をすべてマスターできたので、読める本が格段に増えた。


 それと、3言語を習得したのでドワーフ語、エルフ語の授業も始まった。


 王族教育の授業が多いため、獣人語や魚人語のようにスムーズに勉強できる見込みはないが、きっと3,4年で習得できるだろう。今度は2言語の習得だ。3言語を勉強した時よりは幾分か楽になるだろう。


 王族教育は順調に進んだ。


 なんといっても、魔法と魔術は一人前になってしまった。


 というのも、現代人間文字と現代魔術文字を完璧に覚えた。これで、一人前の魔法師・魔術師になり、さらなるスキルアップのために今では古代人間文字と古代魔術文字の勉強をしている。


 といっても、これらの文字の使い手は少ない。魔法の適性があるものは十人に一人ほどしかいないのだ。その中でも、古代文字を学んで魔法師や魔術師として活躍できるものは一握りだ。そうそう、講師は見つからない。


 そういうわけで、俺はこれらの文字を独学で学んでいる。


 幸い、これらの言語の教本は書庫にあったのだ。独学を専売特許としている俺はこれでもかというくらい喜んだ。


 けれど、魔法は詠唱しないといけないので、正しい発音を学ばないといけない。


 教本にも正しい発音の仕方が説明されているが、やはり正しいのかどうか不安になる。


 そこで、週に1度1時間の授業を近衛魔法師に就いてもらうことになった。


 名前はサラ先生。


 身長は150cm程の小柄な人で、腰まで伸びる濃い青色の髪に茶色の瞳が特徴的。顔は幼げで、ティーンエージャーteenagerと言われても疑われないだろう。すらっとした体型で、一般的な女子高生の容姿だ。これはもう、「女子高生と言ってもいいのでは?」と考えてしまうこともあるが、彼女は既に20歳を超えていると思う(女性に年齢の話をすることはできないので憶測でしかない)。彼女は魔法と魔術両方を使うことができるのでスクロールを常時携帯しており、仕事服兼普段着であるローブの内ポケットには多くのスクロールがある。


 そして、彼女は現代人間文字、現代魔術文字、古代人間文字、古代魔術文字を使える。すなはち、クァッドリンガルなのだ。


 古代言語を1つでも使えれば一流なのに、彼女は2つも使えるのだ。


 王国はよく彼女を雇うことができたものだと感心した。彼女を欲しがる機関は王国だけではないだろう。


 話を戻すが、彼女は古代言語を2つも使える為、それなりの役職に就き忙しくしており、1時間しか時間を作る事ができなかったようだ。


 まぁ、俺は教わる身なのだ。これ以上の我儘は言えない。


 俺は彼女の授業を少しでも有意義なものにするために、授業外で文法を勉強し、授業では発音を主に習った。


 その為、授業が週に1時間しかないからといってけして習得のスピードが遅くなることは決してないのだ。この調子だと、あと3年で古代言語は2つとも習得できるだろう。


 まぁ、こんな感じで日々を送っている。


 とても楽しい。


 前世では勉強しているだけで陰口を叩かれていたが、ここにはそのようなことをする人は誰もいない。勉強をしていてとても楽しい。


 それに、学校などの子供たちを集団で教育する機関は無いらしい。そのような場所に行っても前世と同じように一人ぼっちになるだろうから、嬉しかった。



 * * *



 ある日のこと。


 その日は休日だった。


 普段、休日には授業の予習復習を1,2時間ほどし、その後は書庫の本を読み漁ったり、紅茶を嗜んだりと好きなことをしてリラックスしていた。


 今日もいつものように自室で紅茶を飲みながら本を読んでいた。


 今日も変わり映えの無い休日になるのだろうと思っていたが、不意にドアがノックされた。


「ランス。父だ。入ってもいいかね?」


 なんと、お父様が来たのだ。


 近頃も政務で忙しくしていた為、お父様とお母様に会えるのは朝と夜の食事の時だけだった。


 そのお父様が昼間に私室に来たのだ。驚かないはずが無い。


「はい。どうぞ」


 そう返事すると、お父様が部屋に入ってきた。


 部屋に入ってくると、俺の真向いに腰を掛け、俺を見つめた。


 顔を少しこわばらせているため、緊張が走った。いったい、俺に何を話すのだろうか?


「2か月後にパーティーがあるから、出席するように」


 ん? パーティーだと?


「パーティー、ですか?」

「そうだ。毎年王族主催で、5歳から15歳までの子供がいる貴族に向けてパーティーを開いている。こうした場を設けないと貴族の子供たちは同じ身分の知り合いを見つけることができないからな。ランスも今年で5歳だ。初めての社交界になるから、準備はしておくように」


 たしかに。


 考えたら俺には同じ年頃の知り合いがいないのか。


 まぁ、前世でもいなかったからこれが当たり前のように感じていたが、一般的には知り合いがいることが当たり前なのか。


「わかりました。礼儀作法の先生に準備を手伝ってもらうようお願いします」

「それで良い。それと、貴族の名前は覚えているか?」

「いいえ。どこにどの領土があるのかは覚えていますが、貴族の家族関係は全然わかりません」

「それもパーティーまでに覚えておかないといけないな。それについては礼儀作法の先生より儂のほうが詳しいだろうから、儂が直接教えよう」


 パーティーまでにやることって一杯あるんだなぁ。


 けれど、お父様と2人の時間ができるのはとっても嬉しい。


 俺も最近は忙しいので、家族団欒だんらんの時間は食事の時くらいだ。


 休日はたまにしか家族4人で過ごすことがことがない。


 兎に角、お父様と2人の時間が作れるのだ。嬉しくないはずが無い。


 その後しばらくの間、世間話をしてお父様は部屋から出て行った。



  * * *



 お父様にパーティーの件が知らされてから初めての礼儀作法の授業。


 先生に、パーティーまでに身に着けておかなければならないことを優先的に教えてもらうようお願いした。


「ランス様は子供の社交界までに必要なことはすべて身に着けておられます。いて言うならば、ダンスにはまだ改善の余地があると思います。ですが、ランス様のダンスは5歳児のそれではありませんので、火急の問題ではありません」


 うん。


 どうやら俺は、既に礼儀作法をお手の物にしてしまったようだ。


 まぁ、パーティー直前になって慌てふためくようなことはなさそうなので、一安心だ。


「せっかくだし、パーティーがどういうものなのか、教えて。」

「畏まりました。まず、2月後に開かれるパーティーの目的は、貴族の子供が同じ境遇の知り合いを見つけるために開かれるものです。……」


 まぁ、話を要約すると次のようなものだ。


●パーティー会場には下級貴族から順に入場し、王族は最後に入場する。

●王族が入場すると、すべての貴族はその場で一礼し、王族は会場正面にある踏み台に上る。

●王族が踏み台に上ると、上級貴族から順に家ごとに王族の方々に挨拶に赴く。

●その後、舞踏会が開かれる。

●舞踏会の後は自由行動で、会談の時間となる。

●自由時間は王族もフロアを動き回ることができる。

●陛下の言葉でパーティーはお開きになり、王族、上級貴族、下級貴族の順に退場する。


 貴族の社交界はおおむねこんなもんだろう。貴族の子供が同じ身分の知り合いを作る事が目的と言っていたが、社交界での経験を積ませることも目的なのだろう。


 その後、いつも通りの授業が為された。

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