第4話 3歳 その1
あれから1年が経ち、3歳になった。
無事、お母様が2人目を出産した。女の子だった。
ソフィアと名付けられ、お父様もお母様もとても喜んでいた。
だって、妹だよ?
豈不可愛哉。(可愛くないはずが無い)
漢文で表現してみたが、とくに意味はない。
前世では一人っ子だったため、とても寂しかった。
けど、今世は違う。
妹がいるのだ。これからの生活が楽しみで仕方がない!
それと、俺はこの1年間を無駄に過ごしてはいない。俺は獣人語、魚人語、魔人語の勉強を頑張った。毎日各言語を2時間ずつ勉強し、残りの時間は書庫の本を読み漁った。
やはり、一度に3言語を学ぶのはとてもきつかった。講師に与えられる課題を何とかこなしていたが、かなりきつい。
けれど、その努力がちゃんと成果として現れている。言語により時制の数はことなるが、どの言語も現在・過去・未来すべての時制を覚えた。あとは英語で言う接続詞や条件節、分詞と単語を覚えれば問題ないだろう。あと1年もあれば完璧にできると思う。
あと、魔力操作の練習も怠らなかった。他言語の勉強が始まった時くらいに、他のことをしていながらでも魔力を操作できるようになった。これにより、授業中や読書の時間も魔力操作の練習ができるようになったので、練習を続けた。魔力操作の練習では大量の汗が出るので、一日中汗を流している俺を見てメイドや講師は心配してくれていたが、俺が元気な様子を見せるとすぐに心配を拭うことができた。
まぁ、一日中魔力操作の練習をしていると、授業中もハンドグリップを握りトレーニングする野球少年や、鬼を退治するアニメで全〇中の呼吸の常中をしている人の気持ちが分かった。
うん。
想像以上につらい。
まぁ、それはいいとして、3歳になったということで、今日から言語以外にも様々なことを学ぶことになった。
それも、講師は科目ごとにすべて異なる。科目は、
礼儀作法、文学、歴史、文化、地理、政治、経済、剣術、体術、兵法、魔法、魔術、魔道具、錬金術、帝王学
と15個もあるので、15人も講師を雇ったらしい。いったい、どれだけお金がかかったのだろう? 少し申し訳ない気持ちにもなった。
まぁ、前世からの知識もあるのだ。精神年齢は40を超えている。どうにかなるだろう。
それと、算術は小学校レベルのことしかやらないだろうと思い、事前に断ったのだ。
ただ、両親やメイドに「算術できるよ」と前触れもなしに披露してしまっては驚かれるだろうと思い、マリアに「算術を教えて」とお願いし、数週間で四則計算が問題なくできることを示したのだ。
まぁ、数週間で数の基本的な概念を理解する子供がいるのは恐ろしく、怖がられるかと思ったが、皆喜んでくれた。特に、お父様とお母様が喜んでくれたのは本当にうれしかった。
ついでにだが、この世界の数は前世と同じく10進法が採用されていた。ただ0~9の文字が異なるだけだったので、何も問題はなかった。
もし11進法なんてものが使われていたら、頭の中でパラダイムシフトが起きかねないので、本当にこればかりはよかった。
というわけで、王族に必要な学問15科目と外国語3科目の計18科目の授業が始まるのだ。すでに3科目は始まっていたものだが、18科目もこなさないといけないのはとても大変だ。
それに、剣術、体術の授業もあるのだ。
前世では運動がからっきしダメだった俺がどこまでできるか疑問だが、できるところまで頑張ってみよう。
最初は魔法の授業だ。
講師はベルダ先生。
「おはようございます、ランス様」
「おはようございます、ベルダ先生」
というわけで、授業が始まった。
「ランス様。陛下にはランス様に適性が無くても魔法を教えるよう拝命されています。適性があれば実践訓練も行いますが、適性が無ければ座学のみとなります。まずはそのことを先に申し上げます」
どうしたのだろう? 別に、前もって言われていたことだからこんなにも畏まって確認しなくてもいいのに。
「ですので、たとえ適性がなくとも決して気を落とすことなく、座学に取り組んでもらいたいと思います。そもそも、適性がある人はおよそ十人に一人しか……」
あぁ、なるほど。適性が無くても落ち込まないでとフォローしているのか。
まぁ、魔法というものがどういうものなのか興味を持っていたので、その心配は杞憂に終わると思うが。それでも、ベルダ先生の説明は5分ほど続いた。
「……というわけですので、座学には真面目に取り組んでもらいたいと思います」
うん。ここまでくるのにかなり時間がかかったな。まぁ、最初だけのことだからよしとするか。
「それで、適性は何で測るの?」
「こちらの水晶を使って測ることができます」
へぇ。こんなものがあったのか。これ、どうやってつくったのかな? 錬金術を学べば作れるようになるかな?
「水晶に手を当ててください」
そう言われ、水晶に触れた。
数秒が経った。
何も変化が無い。
もしかして俺、適性無いのかな?
ラノベの典型的な展開としては、転生者はチート持ちで、保有魔力量が膨大だったりするんだけど、俺にはチート無しなのかな。
20秒ほど時間が経った。
何も変化が無い。
ベルダ先生も適正無しと判断したのか、話し始めた。
「ランス様、ありがとうございます。適性は無かったようです」
そうか。俺は魔法を使うことができないようだ。
そいういうわけで、手を水晶から離そうとした。
すると、水晶が突然強く光り始めた。
それも、複数の色の光が溢れ出たのだ。
部屋の中に光が溢れ、さながらバブル期のクラブのような雰囲気だった。まぁ、行ったことはないが。
「ラ、ランスさま……」
あっ。もしかして、チート持ちでした?
やったぁ! 魔法使えるんだ。
部屋から強い光が漏れだしたということで、部屋の中にたくさんのメイドと騎士が入ってきた。
「「「ランス様!」」」
皆一様に俺の名前を呼んだ。2年前も同じようなことがあったなぁ。
まぁ、今の俺はその時とは違い、目立った外傷はないので、皆すぐに落ち着きを取り戻してくれた。
すると、マリアが血相を変え、ベルダ先生に怒鳴りつけるように尋ねた。
「何があったのです!」
呆然としていたベルダ先生がマリアの声に気づき、我に返った。
「こちらの魔法の適性を調べる水晶に触れてもらったのです。まさか、こんなにも強い光がでるなんて……」
すると、メイドと騎士たちが同じ表情をして俺を見た。
「ランス様は魔法使いの素質を持っている!」
「それも、時代を担うほどの魔法使いになる器だ!」
「これで王国も安泰だ!」
うん。これで、チート持ち確定だ。
すると、マリアが落ち着きを取り戻し、ベルダ先生に再び尋ねた。
「それで、ランス様はどの属性の適性をお持ちなのですか?」
「少なくとも基本5属性はすべてお持ちです。それ以外にも様々な色の光が溢れてきたので、特殊属性も使えるでしょう」
この言葉を聞いて、メイドと騎士がさらに騒ぎ始めた。
数人のメイドが部屋を飛び出していった。きっと、同僚にこのことを伝えまわっているのだろう。
メイドと騎士が落ち着きを取り戻すのに、数分かかった。
まったく、こんな態度でメイドや騎士が務まるのかとても疑問だが、注意はしなかった。
その後、メイドと騎士は部屋を出ていき、授業が始まった。
「魔法の適性も分かったことですし、授業を始めましょう」
「はい!」
「まず、基本的なことから説明します。魔法には属性があり、基本5属性と特殊属性に大きく分類されます。基本5属性は火・水・土・風・氷の5つで、それ以外の属性が特殊属性になります。……」
その後も先生の説明は続いたが、話を要約すると以下の通りだ。
●特殊属性には、無・精神・契約・自然・光・闇・付与・毒・治癒・電気・重力・空間・時間・時空などがある。
●魔法を発動するには詠唱しないといけない。
●練習すれば詠唱を短縮しても発動することができる。
●詠唱する言語は現代人間語、現代魔術言語、古代人間語、古代魔術言語、古代エルフ言語、神殿言語の6種類。
●言語の難易度は現代人間語が一番易しく、神殿言語が一番難しい。
●魔法の威力は現代人間語が一番弱く、神殿言語が一番強い。
●同じ魔法を同じ威力で行使する際、より難しい言語で行使するとより少ない魔力量でできる。
●神殿言語の使い手は今現在いない。
うん。まぁ、こんなものだろう。ラノベを読んでいてよかった。おかげでスラスラと理解できる。
「それで、先生はどの言語を教えてくださるのですか?」
「現代人間語と現代魔術言語を教える予定です。一般的な魔術師はこの2つが使えて一人前と言われ、それ以外の言語も使えると魔法師として活躍できると言われています」
なるほど。とりあえず、初歩的な2言語を学ぶらしい。
そういうわけで、魔法の授業が本格的に始まり、勉強に努めた。
* * *
その日の夜、寝る前にお父様とお母様に呼ばれたので、寝室に向かった。
生まれてからこれまで、両親に構ってもらえることは
寝る前に呼び出されるのも今回が初めてだ。
初めて両親に呼ばれたことにうれしさを感じ、それと同時に何を言われるのかという恐怖心を胸に寝室の扉をノックした。
「ランスです」
「開けていいぞ」
そう言われたので扉を開けた。中にはナイトウェアに着替えたお父様とお母様がソファに並んで座り、紅茶を飲んでいた。それも、ご機嫌な様子だ。何があったのだろうか?
「ランス、こっちにおいで」
お母様は自分とお父様の間を手で叩き、そこに座るよう促した。
2人の間に座ると、お父様が話しかけてきた。
「ランス、聞いたぞ。魔法の適性があったって?」
「はい。基本属性はすべて使えるそうです」
「すごいわ! 基本属性をすべて使える人なんて王国に1人,2人しかいないのに、まして特殊属性の適性もあるのよね?」
「はい。まだ詳しく調べていないのでどの属性を使うことができるのかはわかりませんが、頑張って使えるようになりたいと思います」
そう言うと、お母様が俺のお腹に手を回し、体の前で抱き締め、頭を撫で始めた。
いきなりバックハグされたのでびっくりしたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
はぁ、なんて気持ちいんだろう。母親に頭を撫でられている時間が一番落ち着く。
前世でも、よく母さんに頭を撫でてもらっていた。
俺が不安そうな表情をしていると、すぐに抱き締め、頭を撫でてくれた。
そして今、お母様に抱き締められ、頭を撫でられている。
そのまま数十分が経過したように感じたが、きっと1,2分しか経っていないだろう。
お母様が頭を撫でるのを止め、俺の両肩を掴んで振り向かせ、俺の両眼を見据えた。
「ごめんね、ランス。今まで全然甘やかすことができなくて」
「そんなことないです。今、こうして甘やかして下さっているので」
俺は謝罪するお母様をフォローしたのだが、お母様は顔を横に振った。
「本当はランスを甘やかしたかったの。けど、甘やかしすぎてランスが
お母様は俺が我儘になることを懸念して、全然甘やかさなかったのだ。俺の予想通りだったので、とても驚いた。
「ランス、儂からも謝らせてくれ。本当にすまない。ランスとの時間をほとんど作らず、むしろ避けていたのだ。でも、もう我慢できない。お前が可愛くて可愛くてしょうがないのだ。本当にすまん」
うん。2人とも親バカだった。
それも、かなりの重症だ。
けれど、こうして2人に甘えることができたのだ。これ以上に嬉しいことはない。
その後、最近の出来事について3人で話し、この日は3人揃って寝たのだった。
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