適合者の正体
僕はハルコに質問をした。
「そもそも適合者はショゴスを呼び出す触媒だと聞いているけど」
ハイドラを信仰するものたちが、その真の姿を知ることなく崇拝していた妃陀羅を呼び出すため、何故僕を必要としたのかが判らない。
「聡太郎はショゴスとは何か、判ってないからね」ハルコは馴れ馴れしく揶揄う。
ハルコはショゴスについて教えてくれた。
ショゴスという名は、かつて地球を支配した『旧支配者』古のものたちが、自分たちの言葉で奴隷を意味するショゴスを、外宇宙の神である『彼方のもの』が引き連れていた従者に当てはめ、名づけたことが由来だという。
その後、古のものは『彼方のものの従者ショゴス』を召喚使役する魔術を獲得するが、勝手に帰還してしまうショゴスたちでは役に立たず、従者の組織の一部を採取培養して地上に棲息できる品種に改良する。
このように誕生したショゴスを、協会はテケリリと呼び、従者ショゴスと区別している。
ハルコの声色は甘い囁きに変わる。
ハルコは音もなく僕に近づき裸体を絡ませていた、その肌は近くで見ると白い鱗に覆われていて、触感は適度に冷たく、吸いつくような心地よさがあった。
「でもショゴスなんていないの、彼方のものの周りに侍るショゴスは従者ではなく、まして奴隷でもない」
その声を聞いていると、酷く自分が儚く脆い存在に思えてくる。
「ショゴスは強壮な外宇宙の神から溢れ出した神自身の分霊であって、神そのもの、神を神と足らしめる本質がショゴス、妾らは無知な古のものたちが名づけた名前ショゴスとは呼ばない、別の秘密の名で呼ぶ、ここでは外宇宙の霊的核心とでもいっておこうかな」
内側の深い場所から何かが、言葉の内容ではなく、ハルコの声に酷く震えて僕を強く揺さぶる。
まるで、僕自身は巨大な岩に貼りついた紙切れでしかなく、その岩自体が振動しているイメージ。
言語では到底咀嚼されない根源が震え、表層の山村聡太郎という現象は慄く。
恐怖と安穏が同時に押し寄せ、僕という感覚が粉砕される。
「つまり第二の適合者とは、外宇宙の超越者たちが内在させている霊的核心を呼び出す触媒であり、小径の理に沿って導かれた因果に従い、外宇宙の超越者たちの地上での配陣を差配する者のことをいう」
ハルコが話しているのは、山村聡太郎の話ではない。
「判ったかな?第二の適合者ヨグ=ソトースくん」
ハルコは、イグは、最初から貼りついた紙切れの山村聡太郎にではなく、僕の最奥で横たわる始原と終焉を超越したヨグ=ソトースつまり『彼方のもの』に呼びかけていたのだ。(了)
適合者の失踪【適合者シリーズ8】 東江とーゆ @toyutoe
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