ハルコとの会話

体育館

見慣れた体育館の中にいる。

先ほどまでリリーに連れられて、河原にいたはずなのに。

その河原に突如出現した、魑魅魍魎が跋扈する人外魔境を目の前にして僕の意識は遠退き、気づけば夢に出てくる体育館にいた。

これは僕の夢の中なのか?


体育館の中には、何時も夢に出てくる怪物がいる。

その怪物越しに見える奥のステージには、女性が1人と初めて見る怪物がいる。

僕は何時もいる怪物は素通りして、ステージの下まで進む。


女性は白髪でパーマのショートヘア、赤い大きな瞳はやや突き出していた。

乾いた白い肌の裸体で、ステージの怪物に寄り添っている。

河原の騒動の時、男2人と女1人がいたが、その時に居た女性に似ていた。しかしその女性は茶髪でモスグリーンのコートを着ていたし、目も黒かった。


ステージの上の怪物は2メートル以上の巨体で、ボーリングのピンのような手足のない姿をしていた。

ピンの底からは無数の触手が生えている。

首から下は滑り照かる青い鱗に覆われて、首から頭部は白い肌になっていた。

目鼻がない顔には、縦長の口と思われる裂け目が首の方まで伸びていて、その裂け目の中には乱杭歯が犇く。

頭部の長い黒髪は毛ではなく、黒いスライム状の粘液のようだった。


怪物と女性はステージから僕を見下ろしていた。

これは夢なのだろうか?そう思うと同時に、女のものか怪物のものか判らない女性の声が頭の中に響く。


『第二の適合者よ、我が名は見えざる王冠を戴く帝ハイドラ、ヨグ=ソトースとイグの邂逅を導くもの、傍に控える女の形をしたものこそイグ、我とショゴスとの小径の交わりによって形を成さん』

この怪物がハイドラなら、リリーはこの怪物の毒に侵されたことになる。


頭に響く女性の声が怪物のものだと判ったのは、ステージ上の女が話しかけてきたからだ。

怪物にイグだと紹介された女は、場に相応しくない明るく明瞭な口調で話す。

「聡太郎、元気?妾は元気だよ、何も知らない聡太郎は判ってくれるよね、日下美由紀を使うから、協力してね」不敵に笑い言葉を続ける。


人間とはいえ日下は見鬼だ、何かしら利用する価値がハイドラたちにはあるのだろう。

ただ、イグが言うように僕には何も判らないのだから、ここで心理戦や交渉でイグやハイドラを出し抜こうと考えるのは無意味で愚かな上、危険な行為だと感じた。

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