ハイドラ
「改めて、ごきげんよう聡太郎」
開かない目からは射抜かれるような視線を感じる、凄まじい威圧感だ。
「日下が話していた通りの見た目ですね」僕はリリーの姿を知っていたことを隠さなかった。
「美由紀はチャーリーが関わるとユルユルだな、でもその裏をかいてキミを騙そうと、こんな姿をしているとは考えなかったのかな?」リリーはそう話して微笑む。
もし、姿を偽る必要があるなら
「逆でしょ?自分がガブリエルだと知らせるために、日下が語った姿で現れたのでは?」
「ほう、少しは頭が回るんだな、チャーリーの孫は」そういって僕を試したのか揶揄ったのか判らない問いかけは流された。
それより僕には確認したいことがあった。
「それで、何故具現化できるようになったのですか?僕の推理は外れてましたか?」
「推理とは?」そう聞き返したリリーは、おそらく僕の推理の内容について気づいているのだろう。
そう判っていても、僕は話を進めるために、それを説明する。
「チャールズが魔道を究めるために使用した『肉体を超越した存在になる』奥義を、チャールズ以前に唯一使用した協会員が貴女だという推理です」
「ふふっ、聡太郎だって、まさかチャーリーが君にすべて本当のことを伝えているなんて、考えていないのだろう?」とリリーは話をはぐらかす、だから推理なんだけどな。
とりあえず、もう少し彼女から言葉を引き出したい。
「遠からず、近からずといったところですか?」
「もっとひどいよ、1つボタンを掛け違えているせいで、その後の推理が全て的外れといった感じかな」
なるほど落第点という訳だ、僕は何か肝心なことを知らないようだ。
チャールズから聞いていない、リリーに関する情報の大切なピースが抜けているのだろう。ならば、推理は一先ず忘れよう。
リリーは話を続ける。
「美由紀がハイドラの残滓に遭遇したことで、その毒があの娘を通してコチラにまで回ってきた」
リリーは嘘をついていないが、すべては話していないと僕は直感した。
ただし、何を隠しているかは判らない。
日下がハイドラの残滓と遭遇?
毒が日下を経由してリリーに侵食?
日下もハイドラの毒に侵されている?
まったく理解できない僕にリリーは「今、ハイドラの毒の禊を執り行う準備をしている、聡太郎も協力してくれるかな?」と耳元で囁き「それに、魔術を使えない聡太郎には協力以外の選択肢はないと思うけど」と甘い口調で脅してきた。
この女はリリーだ、偽物ではない。
協会の内部では『僕は魔術を習得している』ことになっているが、実は魔術が使えない。
それを知っているのは、チャールズとその影武者、そしてガブリエルだけだった。
それを彼女が知っているのだから、彼女はリリーだ。
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僕は魔術をチャールズから習ったが、魔法は発動しなかった。
チャールズは、適合者としてもっている何かしらの特性が枷になっていると推測していたが、真相は判らない。
適合者が魔術を使用できないと露見すれば、警護に支障をきたす。
そこでチャールズは僕が魔術を使える人間だと、意図的に協会内で吹聴した。
開示されていた僕の偽情報は『魔術の習得については其れなりに優秀だったが、招来、接触、召喚の魔術については基本が理解ができず習得できなかった』
偽情報が、この3種類の魔術を習得できなかった設定にしたのには理由があった。
招来魔術については、この魔術が概ね多人数で使用されるため、偽るのが困難だと判断された。
召喚や接触魔術については、魔術の構造が招来に重なる点があり、招来魔術を使用できない設定を補完するためだ。
そして、召喚魔術についてはリリーや、チャールズの影武者にも知らせていない、チャールズと僕だけが知る秘密があった。
その秘密とは、適合者の魔術的特性によって『魔術を必要とせずにクリーチャーを召喚支配できる』手段が発見されたことだ。
チャールズはこの発見を隠すために、召喚魔術は習得できなかったことにしたのだ。
発見の一例を挙げると、プラネテスという怪物がいる。
外宇宙に棲息する人型のクリーチャーで、稀に地上を訪れて人間などを攫い外宇宙に戻っていく。ちなみにプラネテスの出現は夜間のみである。
プラネテスは魔術による召喚や支配が可能で、その魔術をサポートする呪具がある。
その呪具とは魔力を付与された短剣であり、何と適合者がその短剣で斬りつけた対象はプラネテスによって外宇宙へと連れ去られてしまうのだ。
そして注目すべきは適合者が近くにいれば、斬りつけるのが適合者でなくてもプラネテスの召喚支配は成功する点だ。
このように条件つきだが、適合者は異能によって魔術を必要とせずにクリーチャーを召喚支配できた。
この発見を隠すために、召喚支配の魔術に携わる機会を少なくする必要が生じた。こうして、僕つまり山村聡太郎は召喚魔術を習得できなかったという設定となった。
僕はそれを隠すため水希勧誘の件では、滝弁天の霊力を騙りアリッサたちを欺いた。
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何かを隠し、ある程度まで僕の情報を知っているリリーの協力要請を聞き、もうリリーは毒に侵されて、ハイドラに乗っ取られているのでは?とも考えたが邪推しても詮ないと煩わしく思えて、毒の禊の協力を承諾した。
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