エピソード51-17

献血カー内 13:10時――


 昼食を終えた面々は、VIP用のソファーやテーブルが置かれた一角に戻っていた。

 大画面モニターの正面にあるソファーは忍・薫子・カナメが座っている。

 両隣に置いてある一人掛けソファーにはリリィとカチュアが座り、コの字型に置いた二人掛けソファーには、右京・左京と、真琴・鳴海がそれぞれ座っている。

 少し離れた所にあるデスクに、社長椅子に座っている睦美がいた。

 モニターで『ニャンニャン動画』の『ポケクリバトル団体戦』の生中継を見ている。


「団体戦、始まったようだね。さぁ蘭子クンたち、お手並み拝見と行こうか?」


 画面に着ぐるみを付けた白黒ミサが、司会進行をやっている所が映った。

 真琴は画面を凝視し、目を疑った。


「ん? あれって、ミサ先輩たちですよね!?」

「ああ。まずまずの進行ぶりだな」


 会場の盛り上がりぶりを見て、真琴は感心した。


「ミサ先輩たち、体張ってますね……」

「デビューしたばかりですから、仕事を選ぶ余裕はないですよ」チャ


 画面をぼんやりと見ていたリリィは、ある事に気付いた。


(そう言えば、レヴィたちは何してるんだろ?)


 真っ先に顔を出しそうなものだが、一向に姿を現さない。

 リリィが献血カーの件で睦美から相談を受け、今に至る事は当然レヴィも知っている。

 リリィは、右京にそれとなく聞いてみた。


「右京氏、レヴィたちの動き、何か知ってる? 別行動とか言ってたけど」

「レヴィ殿ですか? ふむ? 確かにまだ何もアクションは起きていませんね……」

「薄木の連中も姿を見せないし、気味が悪いなぁ……」

「明日に全振りしたのでは? ルリ殿は明日の宗方ドクターのサポートですよね?」

「そうか。でもアイツらは今日も来ると思うよ? 多分ね」


 気になったリリィは、レヴィに念話した。


〈レヴィ、今、何処にいるの?〉

〈リリィ殿!? 今ですか? みんなと『塔』にいますよ?〉

〈今日のイベント、来ない気?〉

〈まさか、行きますよ。絶対!〉

〈『プロジェクトS4』は、15:00時からだよ? クーポンは自力で入手してよね?〉

〈もちろんですとも。して、静流様は?〉

〈今はポケクリバトルに出てる。今のうちにコッチ来なさいよ〉


 リリィがそう言ってから、少し間を置いてレヴィが話し出した。


〈実は……リリィ殿以外には、私たちが行く事を悟られない様にお願いしたいのです〉

〈何でそんな回りクドい事すんのよ?〉

〈それは……気恥ずかしさとか、あと、隠密行動の方も中にはいらっしゃるのです。お察し下さい〉

〈ワケありって事か……わかった。私から話す事はしない。でもどうせバレると思うけどね〉

〈恩に着ます。では、そう言う事で〉ブチ


 念話が終わり、暫く天井を見ていたリリィ。

 その様子を見て、右京が声をかけた。


「リリィ殿? いかがなされた?」

「ああ、レヴィだけど、やっぱ明日に集中する? みたいね?」

「そうでしたか! では、私たちでお先に『夢のひと時』を堪能しますか……ムフゥ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ポケクリバトル会場 13:25時――


「それではグループ予選、開始です!!」



「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」



 シロミから試合開始の合図があり、各グループのメンバーが自分の連れて行くポケクリをチョイスしている。


「みんな! 打合せ通りの属性を選ぶんだ!」


「「「「了解!」」」」


 相手の属性を想定し、対処可能なポケクリを打合せで決めていた。

 内訳は、


 蘭子  ほのお

 達也  みず

 ユズル いわ

 素子  くさ

 シズム でんき 


 であった。

 最後のメンバーの設定が終了すると、『準備完了!』の表示が出て、すぐにカウントダウンが始まった。


「3・2・1 READY GO!」


 バトルが始まり5人は散開した。



「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」



 画面上中央に表示されている残り時間が、5分を切った。


「さぁ、4グループ同時に予選の前半戦、始まりました!」

「先ずはどんなポケクリで試合に臨んでいるか……おっとC-2! いきなりレジェンド級を繰り出した!」


「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」 


 4分割の内の一画面に、レジェンド級と呼ばれるポケクリが、バトルフィールドに堂々たる勇姿を現した。


「ブルーアイズ・レッドドラゴン! 予選から惜しげもなく使ってきました!」

「なんと無謀な!? 切り札は最後に取っておくべきなのでは?」


 シロミたちの実況は、グループCに偏っている様にも見えなくもないが、それほど衝撃が強かったのだろう。


「対するC-3のメンバーは? ふむ。格闘系が三体とノーマル二体です!」


 敵がチョイスしたポケクリは、主に通常攻撃に特化したものだった。


「おっとグループC! 相手の格闘系三体がブルーアイズに攻撃を集中しています!」

「まぁ、レジェンド級ともなれば、当然ヘイトが集中しますよね……」


 シロミがディレクターに指示を送ると、Cグループの画面が大きく映し出された。


「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」


 画面の中では、蘭子が三人を相手に苦戦していた。


〔ぐわっ!? いきなり先制食らっちまった!〕

〔三体同時かよ!待ってろ! 今行く!〕

〔コッチは大丈夫だ! 他の二体を頼む!〕


 援護を申し出た達也を拒んだ蘭子。

 ブルーアイズに、三体の敵が上手く連携をとって確実に攻撃を当てている。

 ジリジリと削られて行くHP。それに反比例して技ゲージが上がっていく。


「さぁ、どうするブルーアイズ! 相手の策にはまったか?」

「いえ、技ゲージを見て下さい。なるべく引き付けて技を放つつもりの様です」


 クロミの指摘通り、蘭子は時が来るのを待っていた。


〔もう少しだ……よし! 出力最大!【ブラストファイヤー】!!〕パァァァ!


 ブルーアイズの技が発動し、口から扇形に熱線が放射され、三体の敵は瞬時に蒸発した。


「スゴい! 流石はレジェンド! 一瞬で三体の相手が溶けました! 効果は抜群です!!」


 観客の興奮度はMAXに達していた。


 

「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」



 一気に優勢に転じた蘭子たち。

 あとは残りの二体を始末するだけだった。

 程なく観客がざわつき始めた。


「おい、何だよあの動き……」ざわ…

「何ぃぃ!? 一撃だと!?」ざわ…


 ブルーアイズのいる所から少し離れた所に、一体の敵を瞬時に撃破した電気系ポケクリがいた。

 シズムが操る電気系ポケクリは、最後の敵をなぶる様にHPを削っていく。


〔アニキ、とどめ!〕

〔オッケー!〕


 相手のHPがミリになった所で、シズムはユズルに託した。


〔行くぞ!【岩落とし】!!〕


 ユズルの操る岩系ポケクリは、岩系の技では『中』程度の技を繰り出し、敵を倒した。



 ピピィ~!



 相手の残機がゼロになり、対戦が終わった。

 結果は蘭子率いる『ギャラクティカ・ソルジャーズ』の圧勝だった。

 リザルトが表示されると、興味深い事になっていた。


「もう、決着が着いたのか?」

「Cが早すぎるんだ! 二分で全滅って、圧倒的じゃないか!?」


 テントではユズルたちが勝利の余韻に浸っていた。


「みんなお疲れ様。私は殆ど何もしなかったけどね」

「……ふぅ。 お蘭! 無茶しやがって。ちょっとヒヤッとしたんだぞ?」

「悪りぃ、被弾コンボから抜け出せなかった」

「スゴいね。二分で決着が着いちゃった。サンキュー、シズム」

「へへへ。褒められちゃったぁ♪」


 ユズルに頭を撫でられ、とろけそうになっているシズム。


「どうかな? 初陣は華麗に決まったんだろうか、先輩?」


 蘭子は素子に聞いてみた。


「ええ。結果は上々です。ですが……」


 素子は途中で言葉を切った。


「もしブルーアイズを連投するとなると、次から敵は対策を講じて来ますよ?」

「わかってる。次の策はもう頭の中に浮かんでる」


 画面が4分割に戻ると、他のグループはまだ対戦が続いていた。



 ピピィ~!


 

 制限時間となり、全ての勝敗が出そろった。


「試合終了! 見事予選決勝に進んだのは……A-1! B-4! C-2! 最後にD-3です!」


 

「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


 

 観客から歓声が上がった。


「いいぞ! ツンギレ! やっちまえ!」ざわ…

「自サバ女、次も要チェックだ!」ざわ…


 思いがけない声援が飛んでいた。


「アタイたちが、注目されてる!?」 

「そりゃあ、あんなバトル見せられたら、何か期待させちまうだろうよ?」


 そんなこんなで、蘭子率いる『ギャラクティカ・ソルジャーズ』は、初陣を圧倒的勝利で飾った。

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