エピソード50-7

に桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――


 メルクたちのデータを、最新のハードである『ジュンテンドースイッチ』に『偽装』の上移行させた。

 無事に移行出来たかチェックする静流。


「えと……ん? 何だこりゃ?」


 静流は画面を見て、おかしな点に気付いた。


「お蘭さん、この『イワオ』レベル3なのにHPが200もあるよ?」

「ん!? 確かにおかしい! よく見たら『こうげき・ぼうぎょ・すばやさ』全部200じゃないか!?」


 明らかに操作されている岩系最弱の『イワオ』の、おかしな点はまだあるようだ。


「この『メガがんせきおとし』は最上級の『ゴロニャーン』に進化しないと覚えない技だぞ?」

「これって、メルクが数値を改ざんしたの?」


 静流は、ブンダースワンにいるメルクを見てそう言った。


〈皮肉よのう……本来の名は無かったのに、あだ名の方はあるとはな……〉

〈そうそう。この子、あだ名が『岩石イワオ』だったもんね? キャハハハ〉

〈黙っとれ! ワシはな、コイツで皆の鼻をあかしてやりたいのじゃ!〉


 画面の中のメルクに、強い意志のようなものを感じた静流。


「メルク、だからって、よりによって最弱を選ぶなんて……」

「どうせ偽装するんだったら、もっとマシなポケクリにすればよかったんじゃねぇか?」


 静流と蘭子が『イワオ』のステータスを見ながら残念そうな顔でそう言うと、カナメがその理由を説明した。


「静流キュン、その方がオモロイと思わんか?」

「と言いますと?」

「雑魚キャラと油断させといて全力で叩き潰す! これほど愉快な事は無いやろ? クックック」

〈対戦相手のド肝を抜かれた顔が思い浮かぶわい。ホッホッホ〉


 カナメとメルクが静流に向かってニヤリと笑った。


「うわ……えげつないですね……」

「参加する玄人連中は、もっとえげつない事をして来るぞ? こんなもん、カワイイもんや」

「はぁ、そんなもんですかねぇ?」


 それぞれのポケクリのステータスは以下のようだった。



 ・イワオ            LV3  属性:いわ じめん HP他全て200

 ・ギシアン           LV 50 属性:フェアリー  HP他全て300

 ・ブラッカラム         LV100 属性:きょうあく どく ドラゴン レジェンド HP他全て400

 ・ブルーアイズ・レッドドラゴン LV100 属性:ほのお エスパー ドラゴン レジェンド HP他全て400


 イワオ以外は、多少盛り気味ではあるが、個体のレベル相当のスペックであった。 


「イワオ以外はまぁ順当ですね」チャ

「イワオには『かわらずのいわ』でも持たせとけばツッコミもないやろ」

「進化をキャンセルさせるアイテムですね? なるほど」


 紆余曲折の末、『偽装』などを講じて何とか最新機種の『スイッチ』にポケクリの移行を完了させたカナメたち。

 腕を組んだ睦美は一同を見回し、皆に告げた。


「カナメ、ご苦労だった。 さて、データの移行は終わったが、次の問題は『戦術』だ!」バシッ


 睦美がプリントアウトしたA4用紙を皆の前に置いた。


「諸君、コレが5×5の対戦ルールだ。良く読んでおいてくれ」 


 主なルールは、


・プレイヤーは5人一組。 

・1プレイヤーが使用できるポケクリは4体。

・相手のポケクリを撃破して魔石をゲットし、相手の陣地にシュートするとスコアとしてカウントされる。

・撃破したポケクリの強さで魔石のスコアが変動する。

・制限時間10分で、より多くのスコアを獲得したチームの勝利となる。


 と言った所であった。


「公式の動画があった。これを見た方がわかりやすい」


 睦美がノートPCの画面を一同に向け、動画を再生した。


 Ready go! の掛け声で、それぞれのプレイヤーがポケクリを召喚する。

 するとプレイヤーがそれぞれのポケクリを操作し、相手に攻撃を掛ける。

 それぞれのポケクリの『わざゲージ』が一杯になると大技を発動できる。

 一匹の電気系ポケクリが広範囲型の大技を発動。一気に数体の敵をKOさせる。


 一連の流れを動画で見せた睦美は、一同に聞いた。


「諸君、ここまでは理解出来たかい?」


 動画を観たプレイヤー候補たちが、各々の感想を述べた。


「大体は理解しましたけ」チャ

「チーム戦か……タイマンじゃねぇんだな」

「バトルロイヤルですよね?」


 皆の意見をまとめた形で、達也が睦美に言った。


「要するに、『ポケクリ』を使った『スカブラ』って事ッスよね?」


 『スカブラ』とは、順天堂のヒット作『スカッシュ・ブラザース』の略であり、名作ゲームのキャラクターたちを、これでもかと登場させて行われるバトルロイヤル方式のゲームである。


「確かに『スカブラ』だ! 想像してたのとはちょっと違ってたけど、僕的にはコッチの方が得意かな?」

「こうなると、個体差もさることながら、プレイヤーのセンスも問われる様な……」


 満足げな睦美は、次のステップに進んだ。


「それじゃあ、サクッと実戦、行こうか?」

「え? 出来るんですか?」

「ああ。ネットで『デモ対戦』が出来るようだ。あくまでもテストだから、ポケクリは運営が用意したものからしか選べないがね」 





              ◆ ◆ ◆ ◆





 長机を置き、モニターの前に5人のプレイヤーが席に着く。


「足りないコントローラーは、ウチの備品のを使いましょう」チャ


 素子が汎用のコントローラーを持って来た。


「静流、大丈夫か?」

「うん、問題ないよ。スカブラなら散々美千留とやったから」

「ああ、そうだったね。美千留ちゃん、負けず嫌いだから自分が勝つまで付き合わされてたっけ……」


 後ろで見ている真琴がそう言った。


「シズム、操作方法は問題ない?」

「大丈夫! ゲーム実況で慣れてるもん♪」


 最後に静流は蘭子たちに確認した。


「お蘭さん、準備OK? 素子先輩も」

「ああ、いつでもイイぜ?」

「右に同じ、です」チャ


 プレイヤーたちの準備が整った。


「そしたらマッチング開始するで?」


 カナメは対戦モードの『5×5』を選び、大会用特設ステージを選択した。

 ボタンを押し、マッチングを開始した。

 マッチング画面を見て、カナメは手をポンと打ち、一同に言った。


「あ、そうそう。本チャンではそれぞれに名前、付けてもらうからな?」

「名前、ですか?」


 マッチング画面に映っているプレイヤーの名前は、デフォルトのP1、P2といった具合だった。


「もちろん、一人ずつコードネームは用意するさ。そうだな、何かのテーマに沿った方がイイか?」

「せやな。『桃魔』の看板キャラとかはどや?」

「うん、悪くない」

 

 注目度が高いのか、マッチングを始めてすぐに対戦相手が決まった。


「お、順調に埋まってる! 早っ!?」

「埋まったぞ! ポケクリを選べ!」


 画面に10体のポケクリが表示され、各プレイヤーがそれぞれ3体ずつ選ぶ。


「さぁて、どれにしよっかな?」

「早く決めろよ? 静流は優柔不断だからな」

「わかってるよ、コイツとコイツと……コイツで!」


 キュピーン!


 静流が選び終わると、他の者はもう選び終わっていて、すぐにカウントダウンが始まった。


「3・2・1 Ready go!」


 バトルが始まり5人は散開した。





              ◆ ◆ ◆ ◆



 ピピィ~!


 制限時間となり、対戦が終わった。『デモ対戦』なので、制限時間は3分だった。

 結果は静流たちの圧勝だった。

 リザルトが表示されると、興味深い事になっていた。


「1800-400か。圧倒的じゃないか!」


「1体ごとに100ポイント入っているみたいですね」チャ

「静流が広範囲で5体一気に仕留めたのが大きいな」

「ゲージ溜まるまで、みんなが頑張ってくれたからだよ」


 達也に褒められ、後頭部を搔き、照れる静流。


「みんな1体ずつ撃破されてるね。シズムちゃん以外は……」


「「「「えっ!!」」」」


 睦美の指摘に驚き、シズムを見た一同。


「つうか、ノーダメじゃん!? 一人で9体も倒したの!?」


 撃破数はシズム9体、静流5体、蘭子2体、他1体ずつであった。

 蘭子は感心し、シズムを褒めた。


「全然気付かなかった……シズム、格ゲーの素質、あるんじゃねぇか?」

「えへへ。そぉかな? リナちゃんの真似をしただけだよ♪」

「アネキ……に習ったのか?」


 シズムからリナの事を聞かされ、即座に反応する蘭子。


「ああ、多分リナ姉がゲームしてるのを、横で見ていたんだろうね」

「そうか……アタイがみんなに認められれば、アネキも褒めてくれるかな?」

「勿論。そりゃあ後輩の成長を喜ぶだろうね」


 静流からそう言われ、蘭子にふつふつと闘志が湧き上がった様に見えた。


「お静! 当初通り、アタイは個人戦に出る!」


 蘭子は右手を硬く握り、静流向かってそう言い放った。

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