エピソード50-6

桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――


 蘭子たちが『ポケクリバトル』に出場する為、手持ちの旧バージョンのポケクリを最新のハードである『ジュンテンドースイッチ』にデータを移行させるべく、カナメたちは奔走していた。


「既存のポケクリに『偽装』させるって?」

「レギュレーションでMODが許容されている事を逆手にとる。『新種』やと目立つから、既存のポケクリとして登録するんや」


 メルクたちはプログラムではない為、開発陣には当然見覚えのないポケクリとなり、最悪のケースだと出場許可が下りない場合がある。 

 カナメはそれを回避する為に、『偽装』を思いついたのだ。


「フム。静流キュンのソフトは初期の『デルタ』やから、一旦蘭ちゃんのに入れんとあかんのか……」

「めんどくせぇな。さっき同時に出来なかったのかよ?」

「それがあかんのや。さっきので一気に転送したら、最悪バグと判断されて弾かれとったで?」


 カナメは蘭子にもわかる様に説明した。


「ふぅん。オフラインの状態で『偽装』を掛けないとダメなのか……」

「せや。って事で、先ずはブンダースワン同士を繋ぐ! アダブターは?」  

「これだ。ウチに奇跡的にあった!」

 

 蘭子は接続用ダブターをカナメに渡した。

 アダプターは両側がオス端子になっており、本体側のメスに挿す仕様であった。


「おっしゃ、連結させるぞ!」カチ

「オスとかメスって、何か交尾みたいね? ムフフ」

「ば、バカな事、言うな!」カァァァ


 素子がそう言うと、蘭子は顔を赤くした。

 静流の本体画面にメッセージが表示された。


「お、カナメ先輩! 認識しましたよ!」

「オッケー、そしたら蘭ちゃん、『ずかん』開いてみてくれ」

「お、おお……お!見えるぞ」


 蘭子の画面に、静流の図鑑が表示された。  


「じゃあ、あげるのは四体でイイんだね?」

「おう。他のは持ってる」

「ほい、今送ったよ!」


 ピロリン♪


 蘭子のブンダースワンから、受け取りの電子音が鳴った。


「よっしゃあ、来たぞぉ!」

「どれどれ? 見せて」

「お、おい、近いぞ……」


 蘭子のブンダースワンを静流が覗き込む。自然と顔が近くなった。

 それぞれのステ―タスが表示された。


 ・メルクリア          属性:いわ じめん ドラゴン

 ・オシリス           属性:ノーマル こおり

 ・ブラッカラム         属性:きょうあく どく ドラゴン レジェンド

 ・ブルーアイズ・レッドドラゴン 属性:ほのお エスパー ドラゴン レジェンド


「あれ? ブラムとロディは名前が違うな……」

「ニックネームだと、譲渡した時に外れるからでしょうね」


 素子にそう言われたが、どうも納得がいっていない静流。

 横からひょいと覗き込んだ達也が、画面を見て驚いている。


「ん? おいおい……こいつはたまげたぞ?」

「どうかした? 達也?」

「下の二体、レア中のレアだぞ? 肉眼で初めて見たぜ」


 達也が興奮気味に言っている横で、蘭子は絶句して固まっていた。

 静流が蘭子の顔を覗き込んだ。


「お蘭さん? 大丈夫?」

「夢……じゃないんだよな? お静」

「う、うん。多分現実だと思うよ?」


 静流からそう聞いた蘭子の顔が、興奮で次第に赤くなっていく。


「ついに……ついにゲットしたぞ……『レジェンド』だぁー!!」


 蘭子は右手を強く握り締め、高く挙げた。

 

「レジェンドだって!? うん、 確かにそう書いてあるな……」

「コレだ! コレを見ろ!」


 蘭子は興奮しながら、ポケクリの攻略本を静流に見せた。

 何百回開いたのだろう、年季が入った攻略本であった。


「う、ホントだ。あれ?……メルク、『ブラッカラム』って確か……」


 現在ライブで繋がっているメルクとオシリスに静流は話しかけた。


〈あ奴が改名する前の、元々の名じゃ〉

〈一番荒れてた頃の名前よね? 『きょうあく』だってさ。ププッ〉

「じゃあ、『ブルーアイズ・レッドドラゴン』は?」

〈恐らくは、そう言う事じゃろうよ〉


 メルクにそう言われ、静流はチラッとシズムを見た。

 目が合ったシズムは、ニコッと微笑み、ウィンクした。


「つまり、ブラッカラムとブルーアイズは、ポケクリのラインナップにデフォで存在してるって事だな?」

「ああ。嬉しい誤算やったな。二体はそのままいけそうや!」


 睦美の問いに、カナメは親指を立てた。

 そんな中、上の二体は不満そうであった。


〈静流、ワシは『レジェンド』では無いのか?〉

「そう落ち込むなよ。 プログラムが判断したんだから、しょうがないだろう?」

〈私って、『こおり』属性なの? 『かぜ』じゃなくて?〉

「今の所属性に『かぜ』は無いの。私の予想だと『くさ』か『フェアリー』だと思ったんだけどね……」チャ


 静流にあたる二体のポケクリに、素子は苦笑いして言った。


「気に入らんっちゅうなら、『偽装』もアリなんとちゃう?」


 ブータレている二体に、カナメはニヤつきながら言った。

 ブラムとロディに嫉妬した二体は、やけになっていた。


〈もう頭に来た! 偽装でも何でもやってやるわい!〉

〈私、『フェアリー』じゃないと、言う事聞かないからねっ!〉


「『偽装』っちゅうからには、意表を突くものにしないとな。 蘭ちゃん、それ貸してくれ。モトちゃん、てつどうてくれ」

「はいはぁーい」


 カナメは蘭子から攻略本を受け取り、素子と相談し始めた。 


「『いわ』系やと、コイツか?」

「そうね……でもメルちゃんだとコッチの路線もアリよねぇ?」


 カナメたちの偽装候補選びが始まると、メルクたちが喚き始めた。


〈おい! 勝手に決めるでない! ワシに選ばせろ!〉

〈プログラムだとは言え、自分の分身なのよ? 選ばせてくれてもイイでしょうに!〉


「カナちゃん、メルちゃんたちが騒いでるけど?」

「しゃあないな、そしたらどれがイイか、聞かせてもらおか?」


 相手が面倒なので、自分たちで選ばせる事にしたカナメ。


「先ずはメルクはんやな」

〈そうじゃのう……コイツで我慢してやるか。いわ系最強の『ギガントイワレス』じゃ!〉

「……却下やな」

〈む? 何故じゃ!? 勝ちたいのであれば、強い方が良かろう?〉

「あのな、それじゃあ他の闇MOD連中と同じやろ? 好かんわ」

〈では、どんなものなら良いのか?〉

「それはな、ごにょごにょ……」

〈ほう。それは痛快じゃな! 気に入った!〉

「せやろ? クックック」

〈では、ワシはお主が薦める、コイツで良い〉

「話が早くて助かるわ」


 カナメがどうやってメルクを説得したのかは気になるが、やけにあっさり決まった。 

 オシリスは素子と相談していた。


〈そうね。この辺りが順当よね? 見た目がカワイイし〉

「フッ……却下です!」チャ

〈何でよ!? フェアリーじゃないとダメって言ったわよね?〉

「そんなミーハーなのは止めましょうよ。そうですね、フェアリー縛りですと……」


 素子は蘭子から借りた攻略本をペラペラとめくり、あるポケクリの所で目が止まった。


「私のオススメはこの『ギシアン』ですね! 特にネーミングが気に入りました。ムフゥ」


 素子が指したポケクリを見たオシリスは、あからさまにがっがりしていた。


〈アンタ、趣味悪いわねぇ……何かグロくない? コイツ本当にフェアリーなの? 技が『あいぶ』って書いてあるけど?〉


 素子のチョイスに不服なのか、オシリスは素子に質問責めを見舞った。  


「『堕天使』っぽくてイイじゃないですか。『あいぶ』はドラゴン属性には抜群みたいです! つまりオシリスちゃんは『テクニシャン』と言う事です。ムフゥ」


 何を言っても無駄だと悟ったオシリスは、両手を上げて観念した。


〈わかったわ。それでイイ事にする〉


 『偽装』するポケクリが決まり、PCに転送する段取りを始めたカナメ。


「メルクはんとオシリスの偽装先、データの書き換えは問題無いか?」

〈ああ、問題無い。パラメーターも最大まで引き上げておく〉


 静流の本体にいたメルクが、蘭子の図鑑に入り、自分とオシリスのデータを書き換えた。

 また、ブラムたちのパラメーターも最大に書き換えた。


〈とりあえずこんなもんかの〉

「上出来や。そしたらデータをPCに吸い上げるで」


 カナメは、二台のブンダースワンを分離させ、PCに蘭子のブンダースワンを繋ぎ、データを転送した。

 次にPCからネットを介し、スイッチにデータを送った。


「おっしゃ転送完了や。 確認してくれるか?」

「わかりました!」


 静流はスイッチを操作し、『ずかん』を開いた。


「カナメ先輩、バッチリ入ってます!」

「何か呼び出してみぃ?」

「えと……ん? 何だこりゃ?」


 静流は画面を見て、おかしな点に気付いた。

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