エピソード39-16

ワタルの塔―― 2階


 静流たちと軍関係者、及びお姉様四羽ガラスが、思いがけず勢ぞろいしてしまった。

 ここに学園の者たちがいたらと思うと、静流はゾッとして頭を抱えた。

 郁やリリィたちは、娯楽室で例の『スーパー転生ゲームDX』をやっているようだ。

 応接室では静流の両隣を薫子と忍に陣取られ、静流にちょっかいを出している。


「お姉様たち、ちょっと近過ぎじゃない?」

「イイの。私たちをのけ者にした罰よ♪」


 静流の両側にいるお姉様たちは、溜まったフラストレーションを一気に解消しようと、欲望のままに静流をいじり倒している。


「静流? はぁいクッキー、あーんして?」

「こっちは電気ウナギパイだよ? あーん」

「むぐ、ばびぃ、く、苦しい」

 

 そんな光景を目の当たりにしている澪が、辛抱できずに口を挟んだ。


「ちょっと二人共、それじゃあ静流クンが可哀そうでしょう?」

「何よ? アナタだって昔、静流を『餌付け』しようとしてたじゃない? 見てたんだからね?」

「そ、そんな昔の事、今引き合いに出さなくても……」


 気まずい雰囲気になりそうだったので、すかさず静流はフォローを入れた。


「だ、大丈夫だよミオ姉、僕も悪かったって思ってるんだから」

「じゃあ、私も『餌付け』に参加してイイの?」


 澪は精一杯甘えた声で、静流に懇願した。


「う……わかったよ。 あーん」

「はーい♪ お疲れの静流クンに、滋養強壮に効くミノフスキー粒子が配合された、『Xネブラ饅頭』よ♪」ニコ


 対面に座った澪は、満面の笑みで静流に、得体の知れない饅頭を食べさせた。


「うわ、ニガァ。ミオ姉、これお菓子じゃないでしょう?」

「ちょっとアナタ、変なお菓子、静流に食べさせないで!」

「良薬、口に苦しって言うでしょう? それはね、朝までギンギンになっちゃうお菓子なんだゾ♪」


「「「ギンギンって?」」」


 静流とお姉様たちが、身を乗り出して澪に聞いた。


「隊長の所からくすねたんだけどね、何でもアソコが『ギンギン』になるって言ってたわよ?」

「ち、ちょっと、困るよミオ姉?」


 静流の額に、一瞬で冷や汗がにじんだ。


「アソコって、何処よ、澪さん?」

「そ、そりゃあ、決まってるじゃない。私に、言わせる気ぃ?」ポォ


 お姉様たちの振りに、顔を赤くしながら、クネクネと揺れている澪。


「そ、それって、ワイルドで、胆力のある、直立不動で、天を衝くように、いきり立って、そそり立つもの?」ハァハァ


 忍は、自分で口に出した言葉に感じてしまっている。 


「忍ぅ、エッチな妄想はダメでしょう? 静流が困ってるじゃない」ハァハァ


 そう言う薫子も、忍の言葉に感じてしまっている。


「でも薫子、そんなもの、若い静流が食べても平気なの? そう言うのって、中年のアレが衰えた人が食べるんじゃないの?」

「う、そう言われてみれば……」


 恐らくどこかの好色司令を連想したのは他にもいるだろう。


「マズいわ! 行き場を無くして破裂しちゃうかも! 今すぐ鎮めなきゃ」

「わかった。ここは私に任せて」

「いやよ、私がやるわ!」

「何言ってるの!? 私が担当します! 私には食べさせた責任があります!」


 お姉様二人と女性軍人一人が、まだ明るいうちに何を争っているのか? 

 すると、静流がテーブルに突っ伏した。


「ぷしゅぅぅぅ」

「ちょっと静流クン? 大丈夫なの?」

「早く、毒素を抜かないと」

「それは私が、『経口接触』で……」


 またごちゃごちゃやっていると、たまりかねた者が割って入った。


「もう、いい加減にして下さい!!」

「真琴、ちゃん……」

「これ以上静流をオモチャにしないで下さい!」


 真琴は手を腰にやり、猛烈に怒っている。すると、


「くかぁぁぁ、すぅ、すぅ」


 静流は、気持ちよさそうに眠っていた。


「寝ちゃったの? 静流」

「今日はいろいろありましたから、よっぽど疲れてたんでしょうね」


 真琴は、突っ伏して寝てしまった静流を、イスを横に並べ、寝かせた。


「ごめん、静流」

「私も、自分の事ばっかり考えてた。ごめんね静流」

「もっとよく成分を調べてからあげないといけなかったわ……」


 四人が見守る中、静流は寝息を立てている。すると、


「何だ、静流めは寝てしまったのか?」


 ひょこっと顔を出したのは、郁であった。


「隊長! そうだ、アノお饅頭って、どんな効果があるんですか?」

「ん? ああ、あの饅頭か」


 澪に聞かれ、郁はポンと手を打った。


「目がギンギンになって、一日寝なくても全然平気なのだぞ?」


 郁が自慢げにそう言ったが、周りの者は呆れていた。


「ギンギンって、ソッチか……」

「でも、バッチリ寝てますね。ガセかも」

「これじゃあ、バカみたいじゃないの、私たち」

「ムフゥ、平和ねぇ」


 お姉様二人と女性軍人一人は、気持ちよさそうに眠っている静流を、母性本能丸出しで見ていた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



「はいはいみんな、そろそろ引き上げるわよ!」


 アマンダは2階フロアに響く程の大声で怒鳴った。


「ええ? もう終わりですか?」

「まだ静流様と遊んでないです!」

「もうちょっとでセーブポイントなのだが」


 それぞれが不満を述べている。


「もうわかったでしょう? 今日は、静流クンの大事なお友達との親睦会だったの。見て、今日のNo.1ホストは、ご就寝中よ」


 みんなが静流の顔を覗き込んでいる。

 すると萌が、美千留に聞いた。

 

「美千留さん、静流様が寝ている時って、メガネ、外しても大丈夫なのですか?」 

「え? うん。大丈夫だと思う」

「まさか萌さん、静流の素顔が見たい、とか?」

「はい! 超絶見たい……です。今日、ほとんど会話出来なかったし、皆さんみたいに、気軽に念話も出来ないし……」


 確かに萌や澪たちは、静流からまだ勾玉をもらっていない。


「真琴クン、お見せしてあげて」

「睦美先輩? イイんですか? 勝手にメガネ取っちゃうのって」

「今更何言ってんの真琴ちゃん? 夜這いして、毎晩のように見てるじゃん、しず兄の寝顔」


 美千留にジト目で見られ、みるみる顔が赤くなる真琴。


「へぇ。それは『アルティメット幼馴染』の特権なのかなぁ?」

「だとしたら、羨ましい限りであります!」

「真琴さん! それは独占禁止法に触れますよ?」


 リリィ、佳乃、萌が次々に真琴を責めた。


「ぐ、ぐぅ。そんなつもりじゃ、無いです」


 真琴は、この瞬間、ほとんどの者の視線を浴び、言葉に詰まった。


「確かに、独り占めは良くないわね」

「美千留殿、許可を頂きたく」ハァハァ


 アマンダがそう言うと、レヴィが美千留に懇願した。


「……わかりました。但し、撮影はご遠慮願いますね?」ギロ

「しませんしません。脳内ストレージに保管しますので」

「皆さんも、イイですね?」ギロ


 

「「「「イエス、マム!!」」」」ザッ


 

 軍人たちは、美千留に『気を付け』をして、女性の上官にする際の返事をした。

 睦美は一歩前に出て、みんなに伝える。


「諸君! 喜びたまえ! 只今、美千留殿から、『静流キュン素寝顔』の鑑賞許可が下りた!」



「「「「うぉー!」」」」



 みんなはボリュームを落とし気味に勝どきを上げた。


「では美千留殿。お願いします」

「……はい」


 美千留は、そっと静流のメガネを外した。

 一同は、ゴクリと唾を飲み込み、静流を覗き込んだ。


「むにゃあ、ねんりき、しょーおらぁい……」くかぁ




「「「「「きゃ、きゃるるる~ん!!!」」」」」バタッ




 静流を覗き込んだほぼ全員が、その場で足をピーンと延ばし、仰向けに倒れた。 

 何とか立っている睦美は、意識が遠くなりかけながらつぶやいた。

 

「くっ! なんと凄まじいオーラだ……通常の『ニパ』など、足元にも及ばん」


「天使が、舞い降りた……」

「これが、生……なの?」

「はひぃ、しあわせ……れす」

「テイクアウト、お願いします」

「夢の中でも、戦っておられる……おお女神よ、安らぎを与えたまえ」

「みんなでこの子を、全力で護るわ……」


 心地よい衝撃を受け倒れた一同は、それぞれのちかいを立てた。


「もうイイでしょ! メガネ付けるよ!」


 赤い顔をした美千留が、メガネを掛けさせようとした時、萌が言った。


「お願いが、あるのですが……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 暫くして静流は覚醒した。


「ふぁーあ、良く寝た」

「静流! 大丈夫? 体に異変は?」

「特に無いよ。いけね、うたた寝しちゃったんだ。みんなは?」

「軍の人たちは引き上げたよ。残ってるのは私たちだけ」


 見渡すと、軍人たちは帰った後だった。

 リナと雪乃も、先に帰ったらしい。


「しまった。帰りの挨拶しそびれた……」

「問題無いよ、静流キュン。 皆さん大変喜んで帰って行ったよ」

「そうですか。それならイイんですけど……」


 意識がはっきりしてきた静流は、今置かれている状況に戸惑った。


「み、美千留さん? この状況って?」


 静流は、美千留に膝枕をされていた。


「よく頑張ったから、ご褒美」


 睦美は、静流が寝てしまった後の出来事を、半分以上でっち上げで説明した。


「そうだったんですね。よかった」

「ああ、全て、オールグリーンだ!」グッ


 睦美は親指を立てた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔―― 1階ロビー


 薫子たちも、ドームに帰るようだ。


「薫子お姉様、薫さんって、最近見ませんよね?」

「うん、何でもやり込み度満点のダンジョンにこもりっきりみたいで、何やってるのかしらね?」

「そうですか。大丈夫かな?」

「兄さんなら問題無いわよ」

「そうですよね。よろしくと伝えて下さい」


 静流は、最近薫の姿を見ていないと心配しているようだった。


「またね、静流。もう隠し事はイヤよ?」

「わかったよ薫子お姉様。今度から正直に話すよ」

「約束は守る。だから安心して?」

「ありがとう忍ちゃん。うん、約束」


 そうしてお姉様たちも帰路についた。


「さぁて、私らも、帰るか」

「はぁい」


 かくして、学園の旧友や先生たちとの親睦会は、幕を閉じた。


「おい美千留ぅ、メガネのモード、不可視になってたぞ? いじったな?」

「イイじゃん。減るもんじゃないんだし。ムフフ」

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