エピソード39-15

ワタルの塔―― 2階


 睦美たちは、エレベーター横のテーブルで打合せをしていた。


「睦美先輩! レヴィさんを紹介したいんですが」

「わかった、今行くよ!」


 リリィと話し込んでいた睦美に、静流が声を掛けた。


「じゃあ、そう言う手はずで」

「今後とも、よろしくお願いしますね?」

「睦美殿? お主もなかなかやるではないか?」

「いえいえリリィ殿、私などまだまだ」


 何やら良からぬ事を企んでいる二人。


「睦美先輩、リリィさんと何を熱心に話してたんです?」

「ちょっとね。ビジネスの話だよ静流キュン」

「ふーん」


 あまり興味を示さない静流。辺りを見回し、レヴィをみつけた。


「あ、レヴィさん! ちょっとイイですか?」

「静流様、ああ、例の件ですね?」


 静流はやっとの事でレヴィを捕まえ、睦美と共に気になる事を聞いた。


「ああ、『あの方』にコンタクトをご希望なさっている先輩って」

「ええ。私です。で、如何でしょうか?」


 レヴィは辺りを見回し、郁が恐らく娯楽室にいると推測し、小声で話し始める。


「実はですね、かくかくしかじかって事で」コソ

「え? その人、イク姉と仲悪いんですか?」コソコソ

「そうなんですよ。なので、今はその件については……」コソ

「わかりました。引き続きセッティングの件、よろしくお願いします」

「了解しました。一応お知らせしますと、お名前は 竜崎ココナ大尉です。コードネームは『ドラゴン・フライ』、アフリカのダーナ・オシー駐屯地にいらっしゃいます」

「アフリカですか。遠いなぁ……」

「実在する事がわかっただけでも、収穫と言えよう。情報提供、感謝します」

「ははぁ、恐縮です」


 静流は、先ほどの睦美VS佳乃と言い、この二人のやりとりが滑稽で吹き出してしまった。


「フフ。佳乃さんと言い、どっちが偉いのか、わかんないや」ニパァ


「「はひぃぃぃ」」


 静流の屈託のないニパに、二人はのけ反った。


「くはぁ、久々の『ナイスニパ』、確かに頂きましたぁ」

「おお何と、レヴィ殿も『ニパ愛好家』でしたか。今のは確かに、ナイスな『ニパ』でしたね」

「睦美殿。おわかり頂けましたか。今のところ、『今日イチ』のニパですね」

「「うーん。たまらんですなぁ」」


 この二人は、静流のニパをまるで嗜好品のように品評し合っている。

 言い方を変えると、中毒者と言える。


 静流は次に、アマンダを紹介した。


「何ですって? ライブチャットを始めるの?」

「学園の、カチュアさんとかが是非にって」

「姉さんが? たまにはイイ事思い付くのね」


 アマンダは腕を組み、うんうんと頷いた。


「要するに、ウチの軍事衛星を使いたい、って事かしら? 大体想像が付くわ」

「話が早くて、助かります」

「やっぱり、オシリスちゃんだけだと心細いわよね?」

「そうなんです。そこがネックでして」


 睦美は、背中を丸め、もみ手をしながら言った。


「気象観測用の軍事衛星で、廃棄が決まってるのがあるの。ソイツなら自由に使ってもイイわよ?」

「本当ですか? ありがとうございます!」パァ


 「「はふぅぅん」」


 静流のニパを食らい、のけ反る二人。


「はぅぅ。イイのよ。どうせあと数年で軌道が逸れて燃え尽きちゃうんだから」

「おや? 少佐殿も『ニパ愛好家』でしたか」

「勿論。もし、この感覚が嫌いな人がいたら、私の前に連れて来なさいよね」

「確かに。仰る通りです」


 睦美は、アマンダに『元老院』について聞いてみた。


「最近まで戯言だと思ってたんだけど、確かに存在する組織ね。ただ……」

「ただ、何です?」

「軍でも『タブー』とされているのよ」

「ですが、何とかしないといけないんです」

「薫子さんたちの事よね? わかってるわよ」

「私は、『元老院』の情報を握っていると言われる、竜崎大尉とコンタクトを取る予定です」

「ああ、『姫』ね。根はイイ奴だと思うけど、相当なひねくれものよ。気を付けて?」

「イク姉と仲悪いってレヴィさんが言ってましたけど……」

「ええ。水と油、ヘビとマングース、よね」

「危険な人なんですか?」

「それは無い。直接会ってみればわかるわよ」


 そんな事を話していると、エレベーターが動く音がした。


「ん? 誰だろう? さては……」


 静流は、自分の予想がほぼ間違い無いと確信した。

エレベーターの扉が開く。ブゥーン

 扉が開くなり、二つの影がほぼ同時に静流に飛び付いた。


「「静流ぅ!!」」ガシィ


「ケポッ、薫子お姉様に、忍ちゃん!?」


 二人のお姉様が、静流の左右の腕にそれぞれしがみついた。


「静流ぅ、何かされて無い?」

「静流! アナタは騙されている!」


「ウゲェ、二人共落ち着いて、どうどう」


 後から残りのお姉様たちが顔を見せた。


「オッス静坊、メンテ終わったのかよ」

「睦美さん? アナタには聞きたい事がいくつかあります! うんぐっ!?」

「ストップ、ストーップ!」


 睦美が慌てて雪乃の口をふさぐ。


「今、軍の方が来ています。ネット中継の事でしたら、お叱りは後にお願いします」コソコソ


 睦美は、雪乃の口をふさぎながら、小声でそう言った。雪乃は睦美の迫力に押され、うんうんとうなずいた。


「お姉様方も、イイですね?」


 静流にしがみついている二人に向かい、睦美は「スマン」のポーズをしてペコペコ頭を下げた。


「わかったわ。後でこってりばっちりじっくり説明してもらうわよ?」

「あ、妹ちゃんだ」


 忍が奥にいる美千留の存在に気付いた。向こうも気付いたようだ。


「ゲ! 中二病! あとしず兄、まさかこの方は……」

「美千留、やっと紹介出来た。そう。この人が薫子お姉様だよ!」

「薫子、お姉様……やっと会えた」


 美千留は薫子を、憧憬の眼差しで見た。


「美千留ちゃんなのね!? カワイイ~!」ガバッ


 薫子は美千留の余りの可愛さに、瞬歩で近付き、抱きしめた。


「はぁ、幸せ」

「はふぅ。同族じゃあ」 

「よかったな。美千留」


 静流は、桃髪の姉妹が抱き合っている様を見ながら、うんうんと頷いている。




              ◆ ◆ ◆ ◆




「美千留、薫子お姉様はね、現在の状況だと、従姉の可能性が高いんだ」

「近親者である事には変わりない。どっちでも全然オッケー」

「妹ちゃん、私の事も『お姉様』って呼んでイイのよ? いずれそうなるんだから」

「お断りします! ムスッ」


 桃髪の三人と黒髪の一人が、やんややんやと言っている時、隅っこでは、


「これはこれは。今日はお客様が多い日だ。ハハハ」


 睦美が他の姉二人と対峙している。


「睦美さん? アナタ、静流さんのプライバシーをどうお考えですの?」

「そ、その件はですね。私たちが常に静流キュンを見守り、あらゆる魔の手からの危機を迅速に察知する、と言う趣旨なのです」

「それは建前でしょう? 大方、薫子や忍が、静流さんに会いにそちらの学校に行かない様にする為、でしょう?」

「ぐぅ……お見事、です」


 まさに図星。ぐぅの音も出ないとはこの事であろう。


「それでですね。かくかくしかじか、と言う事で、24時間は取止めと言う事になりそうです」

「当り前です! 静流さんは研究所のモルモットではありません!」

「ふぁい、すびませんでした……」


 お姉様たちにかかれば、睦美であってもタジタジになってしまう。


「それに、私たちはアノ学園に、恨みとかはありませんのよ?」

「そうでしたか。私の取り越し苦労だったみたいですね?」

「そうよ睦美! つまらない小細工して」

「約束、反故にするよ?」

「そ、それだけはご勘弁を!」

「バカね。静流との約束、破るわけない」


 睦美はいつの間にか、三人のお姉様から集中砲火を浴びていた。

 すると、先ほどまで黙っていたリナが、睦美に向かって言った。


「おおムッツリ-ニちゃん、オメーにはまだ聞きたい事、あんだよなぁ」

「な、何でしょうか? リナお姉様?」

「アノ無理ゲーの事。聞きたくねぇか? 『ユーザーの生の声』ってやつ」

「ああ、『ハシビロコウ』ですか? あれには私も苦労しましたよ」

「おめぇ、クリアしたのか?」

「はぁ。私の場合は、『見えて』しまいますから」

「なるほど。【真贋】ですわね? 睦美さん?」

「攻略不可能なキャラがいるのって、アタイはどうかと思うなぁ?」

「お怒りはごもっとも。ですから、発禁にして、生産ラインも止めたつもりだったのですが……」


 睦美の説明に、雪乃はピンと来た。  


「フフン、そう言う事か。薫子? アナタ、勝手にアレ、盗ったでしょう?」

「う、面白そうだったから、ちょっと借りただけよ」

「そう言えば少し前に、他にもいくつか備品が無くなっていると、生徒会に調査依頼が来ていましたね?」

「忍? アナタもやったの?」

「う、ただ、モニターになってあげただけ」


 どうやら『捕獲作戦』以前に、このお姉様たちがしでかした事のようだ。


「それはそうと、静坊がレア過ぎなんじゃねえの? 出るまで何回やらされたか……」

「リナお姉様、難易度が高い程燃えるユーザーもかなりいます。昔もありましたでしょう? ポケクリとかで、どうしてもゲット出来ないクリーチャーとか」

「ポケクリかぁ、昔よくやったなぁ」

「アレだって、課金してイイ道具を使えばゲット出来ましたわよ?」

「確かに仰る通り。今回のは、製作者側のほんの遊び心にしては、少々度が過ぎましたね」

「私が監修すれば、もう少し増しにはなるのですが……」

「よろしければ、アドバイスなどを頂きたく」

「し、しょうがないわね。暇な時にでも相談に乗ってあげなくもなくてよ?」

「是非に」


 雪乃はゲーム制作に興味があるようだ。最もその上には、『金儲け』というワードが隠れているのだが。

 リナは改まって睦美に聞いた。


「どうでもイイけどよう、ハシビロコウって、鳴くのか?」

「さぁ? わかりません」


 実際には鳴くことはレアで、くちばしを鳴らす事でコミュニケーションを取っているようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る