エピソード39-6

薄木航空基地 第7格納庫――

      

 格納庫二階の事務所に、いつものメンバーがそれぞれのデスクで好き勝手な事をしていた。


「はぁ、退屈」

「今日は訓練も無いし、こう待機ばかりだと、操縦技術がなまっちゃうわね」


 双子の工藤姉妹は、ため息をつき、そう言った。


「そんな事言ってないで、昇進試験の過去問でもやってなさいよ」

「澪先輩? 昇進なんて、何かスゴい手柄でも立てれば、すぐに出来ますよ、ねえ? 佳乃先輩?」


 姉の美紀がそう言って、流し目で佳乃を見た。

 当の佳乃は、そんな事はそっちのけで、あるスパロボのプラモデルを作っていた。


「澪殿の言う通り、地道にコツコツやる方が賢明でありますよ、美紀殿」

「佳乃先輩はイイですよねぇ、『レッドドラゴン討伐作戦』で武勲を上げられて」

「あ、あれは静流様が同乗されていたから、討伐出来たのであります。自分は『ジェロニモ』を操縦していただけでありますから」

 

 後輩になじられ、ワタワタしている佳乃。


「謙遜する必要なんてないのよ。あなたは結果を残した。それが全てよ」

「澪殿。ありがとうであります。ヘヘ」

「私があのまま静流クンを迎えに行ってたら、私がアレを操縦する羽目になってたかと思うと、ゾッとするわね」

「そっか、ヘリも操縦出来ましたっけ、澪先輩って?」

「一応ね。でも実戦経験はゼロだもん。タハハ」


 澪は今でも、静流を迎えに行くミッションを、土壇場で佳乃に押し付けた事に後悔しつつ、コレで良かったと自分に言い聞かせている。


「結局、佳乃先輩が一番おいしい所持ってったって事でしょう?」


 口を挟んだのは、萌だった。手に大判のポスターを持っている。 


「このポスターって、その時のですよね? さっき公報で見本を入手して来たんですけど」


 萌が持って来たポスターは、例の隊員募集のポスターである。しかも貼り出し用のA0サイズであった。

 静流がジェロニモの席に立ち、ヘルメットを小脇に抱え、桃色の髪をなびかせている写真である。


「う、コレは、アノ時の……」

「あれ?この写真、この間ビンゴの景品にあったわよ!?」

「静流クン!? 加工が甘い! 髪の色とかはそのままじゃない!」

「うはぁ、静流様だ! どうして軍の隊員募集ポスターに!?」


 みんなでポスターを見ながら、わいのわいの言っていると、郁は机を叩いた。バァン!


「やかましい! それは広報がアイツの許可をもらったと、私は聞いているがな」

「隊長? 刷り上がった原稿、見てもらったんですか? 静流クンに」

「そ、それは……私が知るか!」


 澪と郁が言い合っている脇で、他の隊員はポスターを見ながら言いたい放題だった。


「静流様って、軍に入る予定なの?」

「それは、願ったりかなったり、だけどね」

「どうもそんな感じには見えないよね」

「でもさぁ、こんなもの貼り出されたら、新規入隊者が腐女子ばっかりになっちゃうよ」

「静流様目当てってだけで入隊希望する子なんて、最初のふるいで落とされちゃうでしょうけどね」


 どこでも同じような感想を述べる腐女子たち。


「静流クンはまだ高2だし、万一軍に来るとしても、まだ先よ?」

「暴動でも起きやしないか、不安ですね」


 澪は少し考えたのち、キッと郁の方を見て言った。


「後で『塔』に行きます。静流クンに確認してもらわないと」

「待て、『塔』はメンテ中らしい。暫く電源を落とすと言っておった」 

「何ですって? いつ復旧するんですか?」

「一日掛かるって黒竜が言うとったから、4時間で何とかせい、とは言っておいた」


「そうですか。コホン。では終業時には復旧していますね?」

 澪は、静流に会う口実が出来たと、内心大喜びであったが、同僚及び後輩に悟られないよう、細心の注意を払った。


「あの『塔』に行くんですね。やったぁ!」

「静流様に会う、オフィシャルな用事が出来たわ。 ムフフ」

「何? アナタたちも来るの?」

「当然であります。静流様案件となれば、自分も行くであります」


 隊員たちは、退屈を紛らわす格好のネタに飛びつかないわけがない。


「澪、ポスターの件だが、静流めに見せるのは、少し待ってくれないか?」

「何ですって? 隊長?」

「私が軍に掛け合う。勝手な事をするな」

「勝手な事をしているのは、軍の方ですよね?」

「少し時間をくれ。頼む」


「……わかりました。『塔』に行くまでに回答、お願いしますね?」

「うむ。承知した」


 郁のいつもとは違う雰囲気に、澪は圧倒され、しぶしぶ提案に乗った。




              ◆ ◆ ◆ ◆



学園内 保健室―― 早朝


 ヨーコたちはカチュアのいる保健室を訪れた。


コンコン「おはようございます! 先生、準備できましたか?」ガラッ


 扉を開けると、カチュアとニニが紅茶を飲んでいた。


「勿論。いつでもイケるわよ?」

「皆さん、よく起きられましたね? 結構」チャ


 日本と比べると、約6時間遅いアスモニア。今日本に着けば丁度ランチタイムである。


「昼食は向こうで用意してくれてるみたいね」

「それじゃあアレですんで、お弁当を寮長先生に用意してもらいました」

「エスメラルダ先生が? どう言う風の吹き回し、かしら?」

「たまには顔見せろって伝えてくれって、言ってました」

「すっかり気に入られて。静流クンって、『全年齢対象』なのかしら?」


 ブツブツ言いながら、カチュアは保健室の隅にある、掃除道具が入ったロッカーを開ける。


「ココから行くのよ。みんなは初めてかしら?」

「ええ。『塔』には初めてです」

「びっくりするわよぉ? 覚悟はイイかしら?」

「危険は無いんですよね? どこかの惑星とは聞いてますけど」

「それは大丈夫です。安全は私が保証します」チャ

「さあ、行きましょう」



「「「「はい!」」」」



 先生たちの後を、恐る恐る付いて行く四人。一瞬で塔の1階ロビーに出る。


「はい、到着っと!」

「え? もう着いたんですか? これが『塔』なの?」

「そうです」チャ


 初めて来る生徒たちは、物珍しそうにあたりを見回している。

 ナギサは窓の外を見て慌てている。


「ちょっと先生? 外はスゴい砂嵐じゃないですか! 災害級のレベルですけど?」

「大丈夫です。塔は安全ですから。さぁ、エレベーターに乗りましょう」チャ


 ニニちゃん先生は生徒たちをエレベーターに案内した。


「へえ。10階まであるんだべな」

「アンナ、なまり、キツいね」

「え? やんだぁ、恥ずかしかぁ」

「学園の翻訳機能がいかに素晴らしいか、わかったでしょう」チャ

「フフ。カワイイです。アンナさん」

「んもうサラ、からかわないでけろ!」

「さあ、2階に行くわよ」ポチ




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔―― 2階 応接室


 静流は本になっているロディをシズムの姿に復元した。


「シズム、お茶とお昼のスタンバイ、頼むよ」

「かしこまりぃ」


 シズムに扮したロディは、てきぱきと命令をこなしている。

 すると、エレベーターが動いた音が聞こえた。


「来たみたいだね、ドンピシャだ」



 ウィーン



「さぁ着いたわよ。静流クゥン、いるぅ?」

「あ、先生! みんな、いらっしゃい!」


 先生と生徒を、静流が迎えた。


「し、静流さまぁぁ!」

「ヨーコ、みんな、元気だった?」

「静流様もお変わりなく、ん?なんか雰囲気変わりました?」

「そうかな? 自分じゃわからないや」

「静流さまぁ、この前はウチさ来てくれてありがとうね」


 静流は、アンナが下を向いて小さくなっているのに、違和感を覚えた。


「アンナ、どうしたの? 顔赤いよ?」

「なまり、ヒドいからぁ、恥ずかしいだぁ」

「全然気にしてないし。むしろそっちの方がかわいらしい、かもね?」

「やんだぁ、余計恥ずかしくなっただぁ」


 アンナは大いに照れた。 


「翻訳機能で思い出した。ヨーコ、はいコレ。新しいの」


 静流はポケットをまさぐり、ヨーコの手に置いた。


「あ! 私の勾玉! ありがとうございます!」パァァ

「あの時、粉々になっちゃったでしょ? ヨーコの勾玉」

「今度こそ、大切にしますっ」じぃーん


 ヨーコは勾玉を握り締め、感慨にふけっている。


「先生にも用意しました。受け取って下さい」


 静流はそれぞれの髪の色と同じ、


 ・カチュア先生にはブルーグレーの勾玉

 ・ニニちゃん先生にはライトパープルの勾玉


 を渡した。


「まぁ、私たちにも?」

「翻訳機能とか付いてるんで、便利だと思いますよ」

「それは使えますね。遠慮なく頂きます」チャ


 先生たちに勾玉を渡すと、他のみんなに静流が言った。


「キミたちの勾玉は、いわば試作品だったんだ。他の機能を付与するから、ちょっと貸して」

「はい、お願いします」

「他の機能?」

「何だべ?」


 静流がみんなの勾玉を受け取ると、奥の部屋に入って行った。

 少しして部屋のドアから、桃色の光が隙間から漏れていた。


 パァァァァ


 数分後、静流が部屋から出て来た。


「ふう。これで良しと。みんな、お待たせ」


 それぞれに勾玉を渡す静流。


「うわ。さっきより綺麗になってるべ?」

「この輝き、素敵」

「どんな機能が増えたんです? 静流様?」


「大きくは念話機能は全部に。あとは【絶対障壁】を追加したんだ」


「「「絶対障壁!?」」」


「そう。一度だけあらゆる攻撃から身を護ってくれるよ」


 勾玉を渡し終えた静流は、みんなを応接室に誘導する。


「こっちにお昼用意してあるから。あ、そちらは朝ごはんか」

「あ、静流様、寮長先生が作ってくれたお弁当です」

「わぁ、寮長先生が? スゴいな。シズム、お願い」

「かしこまりぃ」

「ミス・イガワ、御機嫌よう」

「ニニちゃん先生、御機嫌ようです」ペコリ


「奥に準備出来てるから。こちらです先生」

「静流クン、またイイ男になったわね。素敵よ」

「そ、そうですか? いやぁ、テレますね」


 静流はそう言いながら、応接室に一同を招き入れた。

 一同を上座に座らせ、自分はいわゆる『社長席』に座る。


「朝早かったでしょう? ちゃんと起きられた?」

「勿論って言いたいけど、ほとんど興奮して寝てないんです」

「ヨーコったら、朝まで何着てこうかって悩んでたんよぉ」

「ちょっとアンナ、黙ってて」


 みんなが席に着いたのを確認し、静流は奥にいる者に声を掛けた。


「おーい真琴、お客様が着いたよ!」

「はぁい、今行きます、アナタ♪」


 今の掛け合いに、ピクリと反応した者がいた。


「アナタ? 静流様をアナタ呼ばわりするのは、誰?」ギロ


 ヨーコは鋭い目つきで声のした方向に顔を向けた。

 その先には、『森の妖精』を連想させる容姿の女の子がいた。


「私です! 静流の第一マネージャー、さらにアルティメット幼馴染の 仁科真琴です!」ババッ!


 最初に勢いよく飛び出したのは、真琴であった。


「真琴!」

「アンナさん、御機嫌よう!」

「量産型ガーリーね。私と被ったかしら?」


 いささか芝居がかった登場に圧倒され、学園側一同は少し引き気味であった。

 さらに登場人物が増える。


「次に控えしは第二マネージャー、生徒会書記長、柳生睦美とは、私の事だ! ハハハハ」


 次に名乗りを上げたのは、睦美であった。


「無気力系コーデか。侮れないわ」

「静流様が言ってた先輩って、アナタね?」

「そうとも! 私は静流キュンの良き理解者である! そして最後は、」


 睦美よりもかなり小さめの影がしゅっと飛び出した。


「しんがりに控えしは、しず兄の妹、美千留!!」ビシ!


 最期に美千留が名乗った。


「静流様の妹さん!?」

「か、カワイイ~! これがサブカル系ね?」

「うわぁ、お人形さんみたい」

「美千留ちゃ~ん!」


 以上で国尼側の紹介が終わった、 

 三人がバラバラの決めポーズを取っている。


「さすがは静流様のおひざ元、皆さん気合入ってますね」


 ナギサは素直に感心した。

 国尼側の三人がポーズを解き、下座側に着席した。

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