エピソード39-7

ワタルの塔―― 2階 応接室


 塔の応接室に通された学園側一行は、国尼側の一風変わった自己紹介受けた所だった。


「お披露目風の面白い余興ね。お返しに、こちらも名乗っておきましょうか?」


 先ずはカチュア先生が負けじと名乗りを上げる。


「アタシを知らない? 知らなきゃあ言ってきかせやしょう! 学園保健室のマドンナ、如月カチュアたぁ、アタシの事だぁ!」ビシ


 歌舞伎のセリフを模した、粋な口上であった。


「よ! 保健の先生!」

「ビキビキのお姉様系コーデですね。出来る」


「お次に控えしは、日吉ムムとは永遠のライバル、藤沢ニニとは、私の事です」チャ


 予想外にノリノリだったのは、ニニちゃん先生であった。


「ムムちゃん先生とライバル?」

「幼馴染らしいよ。二人共学園のOGなんだ」

「仕事着? リクルートスーツみたい」


「お次に控えしは、かつてのシズムのルームメイト、人呼んでクールビューティー、ヨーコ・キャロライン・ミナトノたぁ、私の事だぁ!」ズビシィ 

 

 ヨーコは思いつくまま、自分がイケてると思うポーズを取った。


「自分でクールビューティーを名乗るとは、出来るな」

「無難に量産型ガーリーで来たか。私と被ってるわね」

 

「お次に控えしは、同じくシズムのルームメイト、人呼んで静流様の『肉布団候補筆頭』、アンナ・ミラーズたぁ、わだすの事だぁ!」ムン


 アンナは名乗りを上げると、自慢の胸を強調した前かがみポーズを披露した。 


「お見事! 女の武器……か」

「何ソレ、ちょっとアンナ! 聞いてないわよ?」

「さすが本場仕込み。LA系コーデですね?」


「お次に控えしは、シズムの良き理解者並びにオシリスちゃんスキスキ女子、ナギサ・キャタピラたぁ、私の事ですわ」シュ


 ナギサは性格ゆえか、控えめなポーズを取った。

 自分の肩を抱きしめているように見えたが、次の瞬間、休止モードを強制的に解かれたオシリスが、ぐったりとしていた。


「ああっ、オシリスちゃぁん♡」

「あれ? オシリス、いつの間に?」

「うげぇ!? ナギサ! 強制召喚されちゃった」


「やけに落ち着いてるわね。本当に同い年かしら?」

「地雷系をベースにお嬢様コーデか? ハイレベルだね」


 そして最後の子の順番となった。


「し、しんがりに控えしは、『薄い本』ならおまかせあれ、エロ漫画家志望、サラ・リーマンたぁ、私の事……です」ポォ


 サラは恥ずかしがりながらも、信念を貫いた。


「堂々と言い放った! さすが『薄い本界の巨匠』!」

「あの子が噂の絵師? サインもらおうかな」

「サブカル系を難なく着こなす。美千留ちゃんと甲乙つけ難いわね」


 学園側6人のお披露目が終わった。


「えーっと残りは、シズムとオシリスとブラム、挨拶して」

「はーい。皆さんご存じ、ボクは静流クンの従兄の、井川シズムでーっす。そして、」

「オス! おらオシリス! よろしくなっ! 次っ!」

「はいはーい! ドラゴン族が生んだ、超プリチーセクシーなシズル様の従順なしもべ、ブラムちゃんどえーっす」プリッ


 二人と一匹は、独自の決めポーズを取った。


「この子が噂の、黒竜ブラム?」

「どう見たって、普通の女の子じゃないの」

「ブラム、お見せして」

「はぁい」ニョキ


 静流に言われ、ブラムは角と羽を出し、肌の色を変えた。


「人型はコレが標準だよ」

「瞬時に変身か。ふむ。間違いなさそうね」


 ブラムの姿を見て、先生たちは納得したようだ。


「ありがとうブラム。自由にしててイイよ」

「はぁい」ボン


 静流にそう言われ、ブラムは何を思ったかアンナに変身した。


「アンナに変身した!? それにその恰好?」

「どう言うつもりだ!? ブラム?」

「肉布団って言うなら、このくらいしないとね?」ムギュウ

「うわぁぁ」

 

 アンナに扮したブラムは、胸を強調した牛のコスプレで静流を抱え、寝転んだ。


「これが肉布団で合ってる? シズル様ぁ、おチチ飲むぅ?」

「こら、わだすの身体で遊ぶんでねぇ!」


 アンナは顔を赤くして怒った。


「う~ん、当たらずとも遠からず、かな?」ムフゥ


 睦美は顎に手をやり、素直に回答し、二ヤけた。


 それぞれの一風変わった自己紹介が終わり、和やかなムードとなった、はずなのだが……。


「真琴さん、静流様をアナタって呼んでましたよね?」バチ

「ええ、呼びましたよ」バチバチ

「おかしいぞ真琴、普段は呼び捨てじゃないか」

「呼び捨て!? それも許しがたいです」バチバチバチ


 ヨーコが真琴に食って掛かっている。仲裁に睦美が割って入った。


「まあまあヨーコさん、私らも『アルティメット幼馴染』の特権として、容認せざるを得ないんだよ」

「そう言う事ですので、諦めて下さい」フンッ

「ぐぬぬ、言い返せない」

「呼び方なんて、どうでもイイじゃないか。ヨーコ」

「で、では私も呼び捨てで呼びますよ?」

「構わないさ。寮にいた時は呼び捨てだったろう?」


 学園潜入時の事であろう。しかし、このワードを聞き逃さなかった者がいた。


「ミスター・イガラシ、今、『寮にいた時』と言いましたね?」チャ

「ニニちゃん先生?」

(しまったぁ、ニニちゃん先生にはシズムの事、バレてなかったんだった)


 やらかしてしまった静流。ニニちゃん先生から見た静流は、ただの従兄という設定だった。


「私が紹介した時にそうしようって決めたんだよね? 静流クン?」

「そ、そうだったねシズム。お前が寮にいた時、みんなに紹介してもらったんだよな」

「それがいつの間にか、様付けになったの」

「ああ、それは『薄い本』のせいね」

「そうでしたか……なるほど」チャ


 シズムが機転を利かせ、話をうまくまとめた。事情を知っているカチュア先生がフォローしたこともあり、ニニちゃん先生の疑念を取り去る事に一応成功した。


「ミスター・イガラシ、アナタは少なからず『有害図書』の被害を受けているようですね。不憫に思います」

「わかってくれるんですか? ニニちゃん先生?」パァァ


 思わぬ所に自分の理解者がいた事を知り、静流は嬉しくてニニに近付いた。


「くふぅ、ち、近いです! 単に二次元と三次元を混同している輩が多い、と言う事です」チャ


 ニニは顔をわずかに紅潮させ、メガネのズレを直す癖でごまかそうとしていた。




              ◆ ◆ ◆ ◆


        


「みんな、えらい気合入ってるよね? 寮にいる時の格好しか印象に無いから、見違えちゃったよ」

「静流クン? 私のファッション、気に入ってくれた?」


 カチュアは羽織っていたブラウスを取った。


「カチュア先生は、何て言うか、目のやり場に困りますね」


 黒を基調にしたチューブトップにタイトな革ミニを合わせた、お姉様系コーデであった。

 静流の目は泳いでいた。


「そう? いつもこんな感じよ。でもぉ……」


 そう言うとカチュアは、静流に瞬歩で近づき、静流の膝に乗り、耳元でささやいた。


「今日は、見えないところにも気をつかってきたのよん。んふぅ」

「うわぁ、か、カチュア先生? 座る所、違いますよ?」

「あら失礼? 静流クン、お耳が真っ赤よぉ。大丈夫ぅ?」

「ちょっとカチュア先生? 静流様が困ってます!」


 ヨーコがたまらずツッコミを入れる。静流がドギマギしている様に満足したのか、カチュアはすぅっと離れた。


「んふぅ。手ごたえあり、ね♡」

「ピピーッ! 今のはオフサイド気味でしたよ? 先生?」

「睦美さん、カタい事言わないで。こうでもしないと、若い子たちには対抗できないのよ。ハンデよハンデ♡」


 睦美に指摘されて、カチュアは勝ち誇ったようにそう言った。


「コホン。先ず先生方にご報告したい事項があるのですが、イイかい、静流キュン?」

「はい。お願いします」


 睦美は先ほどの和やかなムードから一転、真面目な顔で語り出した。


「実は、行方不明だった交換留学生の四名が、見付かりました」


 睦美は、交換留学生だった、薫子、リナ、雪乃、忍の事を説明しようとしたが、


「あら、その子たちなら、先日ココで会ったわね」

「は? そうだったんですか?」

「ここの娯楽室で、イロイロな動画をみんなで観てたの」

「そう言えば、私も会いましたね」チャ

「うっかりしてたわ。どこかで見たような子たちね、とは思っていたのよ?」

「先生方にも【記憶操作】が掛かっていた可能性もありますね」

「そんな事って……無いとは言い切れないわね」


 カチュアは顎に手をやり、記憶を探っている。


「フフ。これは、私の取り越し苦労だったようだね、静流キュン」

「はは、そうみたいですね。『塔』に自由に出入り出来る時点で、その可能性に気付かなきゃいけなかったみたいです」


 睦美は、お姉様四人衆を先生たちと鉢合わせしないように裏で工作をしていたが、どうやら全面衝突は避けられたようで、内心ホッとしていた。

 そう思ったのも束の間、意外にも真琴が口を開いた。


「二年近くもほったらかしだったんですよね? 静流たちが見つけなかったら、この先もずっと……」

「これ、真琴クン! 落ち着くんだ」

「我々も当時は散々調べたんです! ですが、何もわからなかったんです」

「そちらの高校と話し合った結果、捜索は困難と見て打ち切った。隠蔽工作もしたし、当時を知っている生徒には【忘却】を使ったわ」


 ニニとカチュアは、申し訳なさそうに当時を振り返った。 


「こちらも似たような対応でしたよ。こちらの方がヒドかったかも知れない」

「あの子たちに、何かしてあげられないかしら?」

「お姉様方の『復学』はこちらで準備していますので、ご安心を」

「そう。それは良かった」

「またこれを機に、我が校と貴校との、より一層の関係を築きたいと思うのですが」

「それって恐らく『シズルカ様』の件よね? 大丈夫。わかってるわ」

「それならば話が早い。お互いに事を有利に進めませんとね」

「ウィンウィンの関係ね? 望む所よ♪」


「「フフフフ」」


 睦美とカチュアは、気持ち悪い笑みを浮かべ、笑い合う。

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