エピソード38-5

生徒会室―― 放課後


「ちゃんと付いて来てるね? 行くよ」

「「「了解」」」


 帰りのHRが終わり、静流は、真琴、イチカ、シズムを伴い、生徒会室に向かった。

 影を潜め、あれからずうっと静流を見ていた忍が付いて来ているのを確認しながら。


 コンコン「失礼します」ガラッ


 四人がゾロゾロと生徒会室に入って行く。


「やあ静流キュン、お疲れさん」

「お疲れ様です、睦美先輩、先生も」

「うむ。ご苦労」

「お茶を淹れよう。楓花、お茶」

「はーい。只今」


 生徒会長は、当たり前のようにお茶を淹れている。

 部屋には睦美と会長の他、沖田も同席している。


「いつもすいませんね。会長」

「イイのよ。それに、今日は特別だものね」


 そう言うと会長はウィンクをして奥に下がった。

 

「薫子お姉様は?」

「いるんじゃないかな? その辺りに」

「ん? どこです?」


 静流が左右を確認するが、誰もいない。が、次の瞬間、


「ココよ! 捕まえた!」シュン

「薫子お姉様!」


 静流の背後に薫子が出現し、後ろから静流の頭を抱きしめた。


「ちょっと目を離すと、すぐどこかにいっちゃう、もう悪い子ね」むぎゅう


「むふぅ、薫子お姉様、ナイスな構図ですね」ハァハァ

「恥ずかしいよお姉様、みんなが見てるよ」

「イイのよ、見たい者には見せなきゃ、ねえ? 睦美?」

「ブッ! むはぁ、まさに『桃源郷』だ! ここは天国か?」


 睦美は鼻血をたらしながら、桃髪の男女のイチャコラシーンを満喫している。


「ち、ちょっとお姉様、もう放してよ」

「すう、はぁ、静流のニオイ、たまらないわぁ」


 静流の背中に顔をうずめ、頬ずりをしている薫子。

 すると、静流と薫子の間に、黒い影がいきなり現われた。


「薫子、退いて、【トレード】」シュバッ


 忍は瞬時に薫子と入れ替わり、静流の背中に頬ずりをしている。


「出たわね忍! アナタって子は、私の静流に」

「ンフゥ。静流は、誰のものでもない。少なくとも、今は」


 静流に頬ずりをしている忍に、沖田が声を掛けた。


「お師さん! よくぞご無事で!」

「沖田……か。変わり無い?」


「はい。お師さん、この時が来るのを指折り数えておりました」

「沖田、世話になったわね。静流に害虫が寄り付かなかったのは、あなたの【結界】のお陰よ」

「ははぁ。あり難き幸せ。ですがお師さん、学校にお越し頂くのは、時期尚早、かと」


 沖田が気まずそうにそう言うと、睦美があとを引き継いだ。


「忍お姉様、私とは『沙汰を待つ』と言う事で、納得頂いていたと思っていたのですが?」

「そうだったね。でも、我慢できなかった……。 薫子と同じで!」ギロ


 忍はそう言うと、薫子を睨んだ。


「薫子、アナタ、チクったわね?」

「私も罠にはまったのよ。悪く思わないでね? 勝手に私の【ゲート】を使った罰よ!」

「大体、アナタが【ゲート】を繋げるから、どうしても行きたくなったんじゃない!」


 お姉様同士のバトルが始まろうとしていた。


「まぁまぁ、お二人共、来てしまったのですからここは穏便に。静流キュンも悲しみますので」


 はっ、と我に返った二人に、会長が紅茶がのっているお盆を持って、奥から出て来た。


「お姉様方、お茶にしましょうよ」

「ナイスだ! 楓花」


 一同でお茶を囲んだ。影たちも見回りから戻って来た。


「只今戻りました!」シュタッ

「おー、ご苦労」


 イチカは影としてでは無く、客として席に座り、紅茶を飲んでいた。


「篠崎ぃ? 貴様ぁ……は、そのお姿は、師匠!」


 影たちは忍の姿を見るなり、片膝を突き、頭を下げた。


「師匠、よくぞご無事で!」

「アナタたち、修行はちゃんとしてるの?」

「はい! 師匠、またご指導、お願いします!」




          ◆ ◆ ◆ ◆




「やっぱり睦美先輩のクッキーは美味しいです」サク

「むぅ、睦美、レシピ教えて」

「忍お姉様もですか? 特に変わったものは使っていませんよ?」


 紅茶を飲みながら、睦美の焼いたクッキーを食べる静流。

 茶菓子の中に、以前静流がお土産に持って来た『電気ウナギパイ』が混ざっていた。


「シズルン、コレ、なぁに?」

「この間行った、軍の保養施設で買ったお土産。試してみて。驚くよ?」


 影たちは恐る恐る電気ウナギパイを口にした。



「「「「ばびぃぃぃーっ!!」」」」



 口に入れた瞬間、パイから微弱な電流が流れ、唾液を伝って全身が電気を帯びた。

 髪の毛が逆立ち、暫く口が思うように動かなかった。


「くっ、何だこの刺激は?」

「不思議な食感だ。異次元の菓子、か?」

「うん。慣れれば結構イケるね」サク、ピリィ


 イチカは気に入ったようだ。


「でしょう? 癖になるよね。静流、また買って来てよ」

「うん。多分また行く事になりそうだから」

「うん? 誰と、かなぁ?」じぃーっ


 真琴に疑いの目を向けられて、静流は慌てた。


「何だよ、まだ誰と行くかは決まってないよ」

「何? 旅行? 私もイク」


 忍がグイッと前のめりになった。


「まだ草案程度だから。決まったら教えるよ」

「フフフ。静流とバカンス。ハネムーンとも言うか」

「違うでしょ! 何よ、アナタと行くかどうかは、まだ未定でしょう?」

「私と静流がこうなる事は、前世からわかってた」

「『前世』!? お師さん、それはどう言う意味ですか?」


 沖田は、忍の発言に疑問を抱いた。


「先生、忍ちゃんはですね、どうやら前世で僕の奥さん? だったらしいんです」

「何ですと? お師さん、中二病を患われたのですか?」


 沖田は自分の耳を疑った。 


「本当よ! 丁度イイ、【真贋】で見ればわかる。睦美、ワタシを見て頂戴」

「忍お姉様、正気、ですか?」

「さあ、見て」

「知りませんよ?【真贋】!」パァァ


 睦美の手に金色の霧がまとわりつく。忍の額にその手をかざした。

 忍の体が金色のオーラに包まれる。ほどなく金色から赤くなっていく。


「……読めました。忍お姉様は、嘘は言っておりません。が、しかし……」

「では、お師さんが本当に静流殿の前世の嫁だというのか? 書記長?」

「それがどうも、『五十嵐ワタル』の第三夫人、だったらしいのだ」


 沖田は顎に手をやり、ふと思った。


「待てよ? 五十嵐ワタルとは、『黄昏の君』の事であろう? と言う事は?」

「静流キュンが『ワタル2世』である可能性が高いという事だろうな」


 思わぬ事態となり、しん、と静まり返る生徒会室。


「本能がワタシを導いた。最愛の夫、静流に」

「忍? 前世ではそうだったかもしれないけれど、現世は違うの。第一、静流の気持ちはどうなるの?」


 お姉様二人は、同時に静流を見た。


「そんな事、いきなり言われても、わかんないよ」


 この話題になると、いつも頭を抱えてしまう静流。


「ま、まぁ静流キュン、キミの人生だ。前世に縛られては、人生をエンジョイ出来んだろう?」

「そ、そうですよね。将来は未定って事でイイかな? 忍ちゃん?」


 睦美の助言が、静流に一条の光となって見えたようだった。


「わかった。でも、ワタシはずうっと静流の傍にいたい。ダメ?」

「ダメかどうかは、すぐにはわかりませんよ」


 忍は、うんと一度うなづき、深い息を吐いた後、こう言った。



「静流、決闘しよう」



「え? どうしてこの流れで決闘?」

「ワタシが勝ったら、好きにさせてもらう」

「僕が勝ったら?」

「ワタシを好きにしてイイ」

「何じゃそりゃあ! 決闘の意味、あるんかい!」


 真琴は沸騰している。


「忍、『二度と静流の前に現れない』くらいの覚悟、ないワケ? それとも、この条件で、わたしとヤル?」ゴゴゴゴ


 能面のような顔で、薫子はかなりきつい条件を提示した。


「それは絶対イヤ、ありえない!」


 忍は一変して泣きそうな顔になり、涙目で薫子を見た。


「フ、武士の情けよ。前世のよしみでそれは勘弁してあげる。静流だってそんなの、望んでないし」

「ですが薫子お姉様、解釈次第で今の条件は盛り込めますよ?」


 睦美は、薫子にヒソヒソと耳打ちした。


「そうね。好きにしてイイって事は、静流次第って事よね? 睦美」

「ええ。忍お姉様は、自分で自分の首を絞めた。つまり、『ドツボった』という事です」

「何を企んでいるの? まあ、ワタシが勝てば、万事オッケーだし」


 何やら企んでいる二人に対して、自信満々の忍。


「おお、師匠の周りがやる気のオーラで包まれている」

「久しいな、こんなお師様を見たのは。ここまでの本気を出させる静流殿……素敵」

「ししょー、シズルンは手強いゾ?」


 弟子たちが忍を見て目を輝かせている。

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