エピソード38-6

闘技場――


 ひょんな事から、静流VS忍の決闘が行われる事となり、場所を闘技場に移す事となった。


「あらかじめ人払いの【結界】を張っておいて正解だったな」


 沖田はやれやれと言う仕草でそう言った。


「真琴先輩、私らを呼んでくれて、ありがとうございます!」

「アナタたちも見たいだろうな、って静流が言ってたから」

「生のサムライアーマーが見れるなんて、夢のようです! 私共では『浪人ギア』と呼んでいますけど」

「動画撮れたら、サラ先輩にも見せようっと」


 真琴は、後輩の荒木・姫野コンビに声を掛けていた。

 中学からの後輩である二人は、以前、技カードの制作に協力していた。


「おいムッちゃん、こんな面白イベント、オレも混ぜろや」

「来たかカナメ、コッチだ」


 かつて、自律思考型ゴーレムの『オシリス』を開発した、科学部部長の立川カナメであった。

 丸メガネのズレを直し、スカイブルーの髪をかきながらカナメは言った。

「お姉様たち、無事やったんやな。良かったわな」

「ああ。ココにいないお二人も御健在だ」

「ん? 先生やないか? どしたん?」

「どこにいようが、私の勝手だ」

「実はな、コイツも晴れて『洗礼』を受けた」

「ほぉ。そら意外やったな。てっきり遠くで愛でる派やったと思たんやけどな」

「う、うるさい! 放っておいてくれ」カァァ


 二人はニンマリしながら沖田を見ると、沖田の顔が次第に赤くなっていく。 


「しかし、ちいとばかし見いひんうちに、静流キュン、さらにたくましくなったなぁ?」

「ああ。驚くのはまだ早いぞ?」


 二人はまるで保護者のような眼差しで、静流の雄姿を見ていた。




          ◆ ◆ ◆ ◆




 闘技場の中央に二人が立っている。

 忍は、使い古されたレザーアーマーを着用している。


「来い!『夢幻苦無』」シュン


 忍の呼びかけに答え、両手に苦無が出現した。


「お師さんの『夢幻苦無』は、いろんな意味で無限なのだよ」

「要するに、弾切れせんっちゅうこっちゃな」


 沖田の説明に、カナメが補足した。


「さあ、ドコからでもイイ。かかってきなさい」


 そう言って忍は、右手を前に出してクイクイとやり、静流を挑発した。


「忍者が相手なら、こっちもコレで行くか。佳乃さんに感謝、かな?」


 「サムライアーマー計画」で、「アサシンモード」を最後まで推していたのは、佳乃だった。



「行くぞ!『念力招来』!!」ゴゥ



 静流は首に提げた勾玉を握り、変身のキーとなるワードを唱える。

 静流の身体を桃色のオーラが覆い、バチバチとプラズマ現象が起こる。

 オーラが消え、中から藍色を基調にした、汎用タイプの『百花繚乱』モードとなった静流が現れた。


「ムフゥ、鎧武者の静流様……素敵」ポッ

「流石は静流様、何を着けられてもお似合いです」

「シズルン、か、かっくいー!」

「せんぱーい! ばっちり撮ってますよぉ!」


 影たちが静流の鎧姿を見て、興奮している。

 後輩ズが動画を撮りながら、歓喜の声を上げている。


「静流、カッコイイ……ダメ、今は鬼になるのよ」


 静流の雄姿に一瞬見惚れてしまう忍。すぐさま切り替える。


「残しておいて正解だったな。 チェンジ! ダッシュ3! ビシッ」


 静流は腰にあるデッキケースから『神出鬼没』のカードを選び、スロットに挿入した。

 バシュゥ! と言う音と共に、紫を基調とした軽装の甲冑に身を包んだ静流が現れた。


「あ、忍者モードだ!」

「凛々しい。覆面姿も……素敵」


「行くよ! 忍ちゃん!」

「望む所!」


 二人は先ず、距離をとり、相手の出方を見るつもりだ。


「先ずは不可視化し、相手を翻弄する!」


 静流は、技コマンドカードを挿入した。


「『明鏡止水』はぁ!」


 目を閉じ、手で印を結んで気合を入れると、姿が瞬く間に消えた。


 忍は気配をサーチしているが、捉える事は出来ない。


(今だ、この技でどうだ!)

 静流は、技コマンドカードを挿入した。


「『疾風怒濤』!」パシィ


 忍めがけて直刀による無数の斬撃が忍を襲う。シュバババ

 忍は両手に苦無を構え、静流の剣戟をいなす。キィン!


「クッ!」ザザザ


 たまらず忍は後退し、片膝を突いた。


「どうかな忍ちゃん、観念した?」

「笑止! 静流、覚悟!」


 忍は、両手の苦無をほぼ同時に投げる。シュバ

 するとすぐさま次の苦無を出し、投げる。


「くっ!」カカカキィン


 気が付くと、無数の苦無を連続で投げている。

 静流は避けるか直刀で弾くのが精いっぱいだ。

 弾いた苦無は、次々に消滅していく。


「避けてばかりじゃ終わらないよ?」バババ

「マズい、一旦距離をとるか」


 たまらず静流は後方に跳び退る。

(さすが軍の対テロ用ボディアーマーがベースなだけ、耐久力は抜群だな)


「次はこのカードでどうかな?」 


 静流は、技カードを差し替えた。


「『一刀両断』!」パシィ


 技を発動させると、静流は直刀を振り下ろした。

 このモードだと、汎用性が低い技なので、威力はそこそこである。


「ふっ!」


 忍は難なく避ける。とそこに、キィン!


「くっ! 速い」


 静流は『一刀両断』を放った直後に、『疾風怒濤』を発動させる早業を繰り出していたのだ。


「スゴいぞ、シズルン!」

「ここまでお師様をてこずらせるとは……素敵」

「あの二人、本気でやってるの? 大丈夫かしら?」

「二人共【回復系】は得意だし、問題なかろう」


 忍も『疾風怒濤』に匹敵するスピードで応戦した。キン、キィン!


「何も見えないわ? 常人の目では追いきれない速さで二人は戦ってるのね?」

「そう言う事のようです。影たちにはかろうじて見えているようですが」

「スゴいやシズルン、ししょーと互角にやりあってる」

「やはり、只者ではないな、静流様は」

「む、お師様がやや優勢か?」


 徐々に押されていく静流。


「こんな速さじゃダメだ、よし、『上乗せコンボ』で行く!」


 静流は、さらに技カードをスロットに挿入した。


「『電光石火!』」シュバッ

 コンボでブーストが掛かり、静流の斬撃が倍以上に速くなった。


「くっ! 速過ぎる」


 さすがの忍でも受けるのがやっとの状態になっている。

 やがて常人の目でも追える速度まで落ち、止まった。

 斬撃で服がボロボロになった忍の喉元に、直刀を突き付けた静流がいた。


「強いね。さすが私のパートナー。そう来なくちゃ」

「勝負、あり、ですよね?」

「どうかな? フッ」


 そう言うと、目の前にいたボロボロの忍が、突然消える。


「うっ、どこに行った?」

「速いだけじゃ、私には勝てないよ!」


 静流が周囲をキョロキョロと見回している。すると、


「後ろががら空き!」ズバッ!

「うぐっ!」


 背後から蹴りを放つ忍。攻撃が終わると、すぐさま消える。


「ほら、コッチよ」バスッ

「くぅっ!」


 忍は、攻撃しては消えの「ヒット&アウェイ」を繰り返し行う。


「静流!」

「静流ぅ……忍めぇ、実戦と変わらないじゃないの!」


「痛ぅ、どこにいるのか、全くわからないや。仕方ない、やるか」


 これではらちが明かないと読んだ静流は、心を決めた。

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