エピソード33

 塔の発見及び主要箇所とのゲート設置から二日後、A班はインベントリ内に仮設宿舎を作るミッションを開始した。


「ロコ助ちゃん? 別にどこから始めてもイイのよね?」

「問題無いニャ。エリアの移動もランクが上がれば自由に出来るニャ」

「先ず、印をつけましょう。リリィ、マーカーをここに」

「了解!」


 リリィは少佐の指示した箇所にマーカーと呼ばれた装置を杭を打ち込む要領でせっせと設置していく。すると、


「ん? 少佐殿、この跡は何でしょうかね?」


 リリイが発見したものは、ある一定の間隔であいている縦穴であった。


「元々何か建物があったような跡があるわね」

「ここは、先代が村を作り、各地から難民を受け入れていたのニャ」

「つまり、集落があった、という事ね。場所はこの辺りで正解みたい」

「跡、って事は、消失しちゃったの? ロコ助ちゃん?」


 首を傾げて聞く仁奈に、ロコ助は普段作らない顔で答えた。


「ここは村として繁栄してたんだけど、ある時、先代の様子がおかしくなって、村の者を下界に送り返しちゃったのニャ」

「ワタルがひきこもる直前の事でしょうね。自暴自棄になっていたのよ」

「それで村を閉めたのか」

「奥様たちもみんな追い出されたのニャ」

「そうか。それで各地に散らばったのね?」

「そうニャ」


 ロコ助の説明によると、ある事件後、ワタルは情緒不安定になり、妻たちを塔から追い出し、インベン

トリ内の村もろとも「下界」と呼ばれた現実の空間に返した、という事らしい。


「さあ、始めるわよ。作業用ゴーレムを投入して」

「了解!」


 建材等を運ぶ為に、格納庫に特大のゲートをブラムに作らせた。作業用ゴーレムたちは、建材を運び、インベントリ内にゾロゾロと入って来る。


「あとは見てるだけでイイんですよね? 少佐殿」 

「そうね。適当に休憩取ってもらってもイイわよ」

「だったら、行きません? あの塔に。何でも面白いものが見れるらしいですぜ?」

「エルフの娘がチョメチョメをしている動画なんて……行こうかしら」

「私も、気になる、かな?」

「ほお。『男装の麗人』も男女のイチャコラに興味深々ですか?」

「イイじゃない、悪い?」


 ニヤけているリリィと少佐に加え、頬を赤くした仁奈までもが、付いて来るつもりらしい。


「ブラムさん、あと、お願い出来るかしら?」

「ん? イイけど」モシャモシャ


 少佐はブラムを助手として静流から借りている。お菓子を報酬として。


「塔に調べものがあるの。ちょっと、ね」




              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 二階 娯楽室――


「早く次のものを見せて下さい、忍さん」

「何がっついてんだよ、先生?」

「わ、私は……人類の神秘をこの目で見たい……んです」チャ


 先生と呼ばれた女性は、ズレたメガネを直す癖があった。すると、エレベーターが動き出した。



 ヴィーン



「マズい、誰か来るぞ!」



 ウィーン



「照明が点いているわね、勿体無い」

「結構庶民感覚なんすね? 少佐殿は」

「ほっといて頂戴」

「誰か、いますよ?」


 娯楽室の半円ソファーには、中央に忍、右脇にリナ、雪乃、左脇には何と、カチュアとニニがいた。


「姉さん!?」

「何だアマンダか。静流クンかと思ったじゃない」


 確かに静流は塔発見後に学園にも直結の【ゲート】を設ける事を約束していた。

また、カチュアは【ゲート】を自分の都合で保健室に設置させ、生徒たちには公表していない。


「あなたは、学園の先生?」

「ニニ・フジサワです。よろしくお願いします」チャ


 ニニちゃん先生は、いつもの無表情で自己紹介をした。


「それで、昼間っからエロ動画鑑賞ですか? いやらしい」

「そう言うアナタも見に来たのよね? アレを」

「ブラムさんから、そう言うものばかりではないと聞きましたから」

「そうなの? 忍さん?」


 カチュアが忍の方を見て、問うた。


「うん。それだけじゃ無いみたい。ほら」ポチ


 忍がリモコンを操作すると、画面いっぱいに動画リストが表示される。


「ほとんどは映画。ここのピンク色はエッチなやつ」


 動画はフォルダにまとめてあり、ピンク色のフォルダがエロ動画らしい。


「私たちには読めないから、何が何だかわからないわね」

「考古学者に解析させましょうか」

「私は読めるから、別にイイ」

「忍さん、そこの黒いフォルダは何? 赤いバツが入ってるけど」


 リリィが気になるフォルダを見つけた。


「それは厳重にロックが掛かってる。見てはイケナイものみたい」

「見るなって言われると、つい見たくなっちゃうのよねぇ」

「見ない方が、イイと思う」

「あなた、内容覚えてるの? 前世の記憶があるのよね?」


 少佐が詳細を知りたがっているのは、かつて大学の研究テーマが『黄昏の君』についてであったからだ。


「うん。ある。何となくわかる」

「忍さん、聞いてもイイかしら? 大昔、ココで、何があったか、を」

「女たちの醜い争いが、あった」

「詳しく聞かせて? お願い」

「イヤ。思い出したくもない」

「無理強いは良くないわね。わかったわ。おいおい聞くとしましょう」


 意外にあっさり退いた少佐。


「で? 今まで何を見ていたの? アナタたち」

「もちろん、大昔の『愛のカタチ』よ。結構アクロバチックな体位とかもあって、勉強になるわぁ」

「姉さん、まさかとは思うんだけど、その知識どこで使おうとしてるの?」

「そりゃあ、静流クン、とそうなれればイイと思ってるわよ?」ムフゥ

「ふう。そう言うの、頭の中だけでやって頂戴」

「わかっているつもりよ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



「うわぁん。感動したぁ、少佐ぁ」

「何これ、マニアには垂涎ものよね」

「うんうん。確かに素晴らしい作品ね。リメイクすれば大ヒット間違い無し、だわ!」


 リリィが涙を流し、少佐をうならせた動画は、


 『暁に萌ゆる』という、戦争スペクタクル映画であった。


「ただドンパチやってただけじゃねえか? これのどこに感動するって?」


 リナはつまらなそうにぼやいた。


「一番の見せ場は、橋を爆破する所ね。素晴らしい。爆弾の設置個所が絶妙で、壊れていく様が美しかったわ」


 少佐はそのシーンを想い浮かべ、遠い目をしている。


「空想戦記ものだと思うんだけど、登場する機体がレア過ぎて、もう興奮しっぱなしだったわ」


 そう語るのは、旧日本軍マニアの仁奈であった。 


「確かに。『秋水』とか『菊花』、『震電』でしょ? 一番驚いたのは『富嶽』ね」

「おかしいのよ、ここってブラムが言うには、1500年くらい誰も来ていないんだったよね?」

「たしかに。日本が戦争やってたのって、700年前位だったっけ?」

「そう。そんな昔じゃあ、飛行機もまだ無かったと思うわ」

「ロスト・テクノロジーの成せる技、かしら」


 軍人たちが腕を組み、首を傾げていると、忍は口を開いた。


「多分、異世界の動画だから、だと思う」

「異世界? 根拠は?」

「これ、かな?」ポチ


〔おはよう、圭太クン!〕

〔おはようマチャ子先生、ボインにターッチ!〕むにゅ

〔いやぁ~ん、まいっちんこ〕クネクネ


『まいっちんこ マチャ子先生』


「これのどこが異世界である証拠?」

「よく見て? ココ」


 オープニング映像が流れて、スタッフが表示されている所を指で差した。


「あれ? 読めるな。原作 五十嵐静流って!? どういう事!?」

「そういう事。平行世界では、静流はアニメの原作者になってる」

「詳しく調べたい所だけど、どうやらそうみたいね」

「そんなもん、アイツに見せるんじゃねえぞ、こんな下らないもん作ってるなんてよ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 そのあと数本の動画を見て、今は環境映像のような物を見ている。


「まるでマンガの世界だなぁ。青い海、白い砂浜、クルーザーに若い二人がイチャコラかよ」

「お、船を島に停める気よ?」

「いわゆるアオカン、てやつか?」

「ヤシの木にしがみついて、うしろから、ってやつ?」バァン

「あ、女が撃たれた」ジャージャージャーン

 

 『水曜サスペンス 特急はつかり12号殺人事件~通過駅で何が起こったか~』


「何これ?ドラマなの? 環境映像かと思ったわ」

「うへえ。でも、続きが気になるわね」

 

 結局最後まで見てしまう一同。


「最初に犯人がわかってたら、つまらないと思ったけど、案外面白いのね?」

「警部たちがトリックを暴いて、犯人に辿り着く行程がイイのよ」

「急行で停まらない駅を使うなんて、良く考えるよね」

「完全犯罪を成功させるには、その位しないと」

「推理ものではこの手法、画期的ですね。文字に起こして出版してみましょうか?」チャ


 それぞれが感想を述べている。


「このシリーズ、あと40本はある」

「暫く退屈しないで済みそうね」


 ここあと、この娯楽室は女どものたまり場と化す事になるのであった。

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