エピソード32-3

 小学生時代の回想が終わり、ふぅ、とため息をついた忍。


「そんな事があったんですか? 記憶まで消す事なかったんじゃ」

「あの時はそうする事しか、思い付かなかったの」


 忍はその後の事を引き続き語った。


「あの時、ワタシの中に、もう一人の自分が目覚めた」

「それが、前世の記憶? ですか?」

「そう。前世では『あかり』という名前だった」

「あかり……思い出した! あの陰気な子ね?」


 オシリスが不可視化を解いた。オシリスは今のやり取りで思い出した事があった。


「ふむ。確かに『あかり』という子がいたわね。たしか名字は『ミナトノ』だった」

「『ミナトノ』って、ヨーコの先祖? かなぁ」

「あなたは、前世のワタシを知ってるの?」

「無口な子だったわ。あまり印象に残ってないのよね」

「それなら話が早い! ワタシが静流の奥さんだって証明して?」

「確かにあかりはワタルの第三夫人だったわよ。だけど、前世の話でしょ?」

「どういう意味? オシリス」

「この時代ではわからないという事よ。たとえ前世がそうであっても、必ず今回もってワケじゃないでしょ?」

「たしかに……そうね」


 忍は、次の言葉を言おうとして、口をつぐんだ。

(じゃあ、この思いは、どうすればイイの?)

 暫しの静寂があり、忍は語りだした。


「それからワタシは、ずうっと、静流を見ていた……遠くで」


 忍は、窓辺に立ち、外を見ながら話している。 


「そして、静流にちょっかいを出そうとしている者には、罰を与えた」

「それって、もしかして、『静流派』は」

「そう。ワタシが始めた」

「そうだったんですね」


 睦美は、何となく合点がいった。


「ワタシが始めた当初は『静流派』とは呼んでいなかった」

「当ててみましょうか? 『静流様をあたたかく見守る会』だったんですね?」


 睦美が厳しい顔をして言った。


「そう。それ。当初はほんの数人だった。その頃、薫子と出会った」


 忍は、そう言って薫子を見た。


「そうだったわね。私がこの世界に潜って間もない頃、アナタが私の静流を、執拗につけ回している所を見たの」


 薫子はその時の感情を思い出したのか、ギリッと歯を食いしばった。


「そのあと、薫子と何回か衝突があって、友達になった」

「友情が芽生えたんですか?」

「ううん。共通の目標があって、利害が一致したから」

「それって、もしかして」

「そう、あなたよ、静流」


 薫子は静流を、潤んだ瞳で見た。


「そのあと、『見守る会』の会員が、あるきっかけで爆発的に増えた」

「きっかけ、とは何です? 睦美先輩?」

「『薄い本』だよ、静流キュン」

「中学の頃からだったのか」

「真琴クンは知っていたようだね」

「真琴が? 何で言わなかったんだ?」

「キミが困る所を、見たくなかったのだよ、恐らく」


 静流は、中学時代から最近まで、何も考えていなかった自分にいらだちを覚えた。


「そのあと私と忍、あとサブリナと雪乃は、半ば強制的にあの学園に留学させられたの」

「私と忍は、静流にとって危険人物と判断されたんでしょうね、あの組織に」

「リナと雪乃はとばっちり、厄介払いだった」

「まあ、何かと目立っちまってたしな。自業自得さ」

「ええ。留学も短い期間でしたが、イイ経験になりましたしね」


 薫子が申し訳なさそうにしているので、二人はフォローを入れた。


「そのあと、学園で薫子が暴走して、薫に異世界に連れていかれた」

「この間、思念体だったお姉様が語ってくれた内容だね?」

「そう。それで思念体と分離したあとの狂暴化した薫子をあの塔の第二層で寝かせたあと、薫たちといろんな世界に行った」

「薫は、転移先を『超感覚』で決める。それがあてにならない。過去や未来、自分が男だったり女だったり、とにかくいろんな世界だった」

「それって、この世界に【ゲート】を構築する為?」

「そう。ドラゴン寮のそれは、【風化】の魔法が掛かっていた」

「それを僕たちが修復して、現在に至るってやつか」

「そうよ静流、あなたは私たちを救った。今度は私たちが救う番なの」

「でも、知らない間に守ってくれてたんですよね? 忍ちゃん」

「学園に留学させられるまではね。あとは『静流派』の残党」


 睦美は忍たちの話を聞き、何度も頷いていた。


「なるほど。その後『黒魔』が派生として誕生したのか」ブツブツ

 



              ◆ ◆ ◆ ◆




「お姉様方、今日は貴重なお話をお聞かせ頂き、ありがとうございました」


 睦美は、お姉様四人衆に深々と頭を下げた。


「何よ改まって。気持ち悪いわね」

「皆さんは、もう一度我が校に通えるとしたら、どう思いますか?」

「そりゃあ、私だって忍と同じで、出来る事なら、静流と一緒に学校に行きたいわよ?」

「アタイはどうでもイイかな? 退屈凌ぎにはなるかな?」

「そうですわね。行方不明である今のままでは、中退にもなっていないわけですしね」

「絶対、行く!」


 お姉様四人衆は、復学にはおおむね前向きな姿勢であった。


「お姉様方、実は、私に腹案がありまして」

「何よそれ、言ってみなさい?」

「もう少し、なんです。今校長と詰めていますんで」

「もったいぶらないで、言いなさいよ」

「すいません、もう少し、待って下さい。悪いようにはしませんから」

「わかった。睦美を信じる」

「ご理解頂き、ありがとうございます」




              ◆ ◆ ◆ ◆



「さて、帰るか」

「そうね、夕食の準備しなきゃ」

「じゃあね、静流、私はいつでも待ってるからね?」

「静流、次いつ来てくれる?」

「ま、また連絡するよ」


 お姉様四人衆は、流刑ドームに帰って行った。


「いやぁ、良かったですね? お姉様たちに会えて」

「静流キュン、今日は本当にありがとう!」

「いえいえ、僕は何も」

「いいや、全て、キミのお陰だ!」

「そうですかね」

「お姉様方と約束した件、期待して待っていてくれたまえよ?」

「校長と、何か企んでいるんですね?」

「ま、その時のお楽しみだ」


 睦美には何か考えがあるようだ。静流は家に帰ろうと睦美に伝えようとしたその時、エレベーターが2階に着いた。



  ウィーン



「少佐、本当に見るんですか?」

「でも、古代文字わからないですぜ?」

「何とかなるわよって、静流……クン?」


 エレベーターから出て来たのは、アスガルド組であった。


「アマンダさんにお二人共? お仕事は終わったんですか?」

「ええ。終わったわ。これから古代の環境映像でも見ようかしらって思っていたのよ」

「いかがわしい動画、じゃないんですか?」

「そんな下らないもの、見るわけ無いじゃない」


 そんなやり取りをしていると、またエレベーターが2階に着いた。


「もう帰ったよな、静流」

「さすがにもうお帰りになったと思うでありますね」

「どうしよう、私、また来ちゃったわ」

「何で私まで来なきゃいけないんですか?」

「ふぅん、ココが異世界なんですね?」

「SFチックですよねって、静流様だわ!」


 次に来たのは薄木組だった。しかも双子も含め、全員いる。


「皆さん、確かに娯楽は必要だとは思いますけど、いかがわしい動画は、どうかと思いますがね?」コォォォ



「「「し、失礼しましたぁぁぁ」」」



「フフッ。案外ヒマなんですね? 軍人て」

「曲解しないでぇぇぇ」


 睦美の皮肉に、澪は狼狽えた。

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