エピソード29-3

向こうの世界―― ほこら付近


「隊長、ミオ姉!」シュタッ

「静流! 萌!」 


 静流がダッシュ3の鎧で隊長のもとに着いた。


「とりあえず無事のようだな」


 隊長は少しほっとしているように見えた。


「萌さん、ゆっくり降ろしますね」

「あ、ありがとう。静流様」ポォォ


 腰を痛めた萌を気遣いながら、そっと降ろす静流。

 萌は頬を赤く染め、先ほどから覆面姿の静流を潤んだ瞳でじっと見ている。


「ミオ姉、佳乃さんは?」シュバ


 静流は鎧を解除した。


「大丈夫よ。気を失ってるだけ。アナタの『お守り』が効いたみたい」

「そう。良かった。ミオ姉、萌さんをお願い!」

「わかった。任せて」


 萌を澪に任せた静流は、隊長に状況を説明した。


「隊長、マズい事になりました。ブラムは【ゲート】から向こうの世界に行ってしまいました」

「何だと? それはマズい! あの怪物に暴れられたら、アノ学園など吹き飛ぶぞ!」

「何でも、『娘に会う』と言ってましたが……」

「私たちも向こうに帰るぞ!」

「ところが、ブラムに【ゲート】を破壊されたようで」

「何ィ? それでは帰れないではないか?」


「先ずは伯母さんと相談します」


 静流はモモと念話で話した。



〔伯母さん、大変だ〕

〔どうしたの?静流?〕

〔封印されていたブラムが復活して、向こう側に行っちゃったんだ〕

〔何ですって? すぐ追いなさい!〕

〔ダメなんだ、【ゲート】を破壊された〕

〔何て事!?……静流、イイ? 単体で【転移】しなさい〕

〔単体で? 出来ない事はないけど、座標がわからないし、魔力が半端なく要るんだ〕

〔感じるのよ。向こうの、大事な人を〕

〔大事な人?〕

〔悩んでいる暇はないわよ? 早く〕

〔そう言われても、隊長たちは?〕

〔私が何とかするわ。薫を向かわせる〕

〔薫さんを!? それなら心強い〕

〔いいわね、感じるのよ?〕

〔わかった。やってみるよ〕ブチ



「今、伯母さんと念話しました。ここに今、僕のいとこが向かってくれています」

「して、お主は?」


 隊長は、静流が覚悟を決めた顔を見て聞いた。


「僕は緊急で【転移】を試みます!」

「でも静流クン、転移装置は?座標は?魔素は?」

「無いよミオ姉。でも一度は成功してるんだ。僕単独で」


 静流はかつて転移装置なしに【転移】を成功させた事がある。着地点は失敗だったが。


「でも、危険じゃない? 佳乃が言ってたよ? 着地点が曖昧だって」

「伯母さんが言うには、向こうにいる人の『気』を感じろって」

「どうしても、行くのね?」

「あんな怪物を野放しに出来ないでしょう?」

「わかった。でも約束して」

「約束?」

「こっちに来て」

「何? ミオ姉」


 澪は静流を抱きしめた。ぎゅう


「必ず戻って来る事。これはおまじないよ」ちゅ


 澪は静流の頬にキスをした。


「行って来なさい、それであんな奴、やっつけて来るのよ!」

「わかったよ。ミオ姉」


 二人が見つめ合っている所に、


「コホン、気を付けてな!」

「静流様、必ず、帰って来て」

「了解しました」ビシッ


 静流は、一同に裏ピース敬礼をした。



          ◆ ◆ ◆ ◆



 静流は、ゲートがあった場所に戻ってみた。


「うわ、やっぱ壊されてる。オシリス」

「何? こりゃあマズいわね」

「やっぱり単独でやるしかないか」

「成功率は?」

「そんなの、わからないよ」

「モモは何て?」

「向こうにいる大切な人の『気』を感じろって」

「非科学的ね。でもやるしかないわよ?静流」

「わかったよ」


 静流は以前単独で【転移】をやった時を思い出し、構えた。

 お守りに自分の勾玉を握り締めた。


「集中……集中だ」


 静流は目を閉じ、忍者がやるように印を結んだ。気を感じ取る事に全神経を集中させる。



 ≪さま……静流…さま≫



「ん? この感じ、ヨーコか?」 

「捉えたの? 静流?」

「よし、イケる!」


 ヨーコの祈りを感じ、確実にとらえた静流。


「行くぞ! 【転移】!」シュバッ


 一瞬残像を残し、静流の姿が消えた。



          ◆ ◆ ◆ ◆

         


ドラゴン寮―― 調理室


 不意にオーブンが開く音がした。ガチャ


「静流? もう戻ってきたの? はっ!」


 薫子Gは物音に気付き、オーブンの方に向かうと、成人男性程の大きさの黒い竜がいた。


「確かに感じるぞ。この感覚、お主、我が娘か?」

「黒い竜、アナタ、ブラムね?」


 【ゲート】を抜ける際、成人男性程に体を縮小したのだろうか。

 黒竜は暫く薫子Gを観察し、うなりながら言った。


「ぬう? お主、抜け殻か?」

「残念だったわね? 本体は別の所よ」

「おのれ、たばかりおったな!」


 黒竜は怒りに震え、手に高エネルギー波を発生させた。


「本体はどこだ! 言え!」

「そんなの、わからないわよ」

「ええい、果てろ! 抜け殻」ゴゥ

「きゃあぁーっ」ドゴォォォン


 薫子Gは高エネルギー波を浴び、壁もろとも消失した。


「フン、この学園など、消し炭にしてくれよう」


 丸く開いた壁の穴から出てきたブラムは、通常のサイズに戻った。


「先ずはあの時の屈辱を晴らす! いるのであろう? 誇り高きワルキューレよ」


 元のサイズに戻った黒竜は、ふわっと浮き上がり、上空に羽ばたいて行った。



アンドロメダ寮―― 白百合の間  


 少し前、アンドロメダ寮にいたヨーコたちは、談話の時間であった。


「静流様は大丈夫かしら?」

「軍がバックアップしてるんでしょ? 問題ないわよ」

「でも心配……かも」


 ヨーコは静流にもらった銀の勾玉を握り、祈りを捧げた。


「女神様……静流様たちをお守り下さい」



 ドゴォォォン



 敷地内で地響きと爆発が起こった。


「何? 地震?」

「というか空から爆弾でも投下されたような衝撃波ね」

「ふわぁ、怖いよぉ」


 校内放送が始まった。


[ドラゴン寮付近で原因不明の衝撃波を確認。生徒は速やかに講堂に避難して下さい]

「ドラゴン寮ですって?何かマズい事が起こっているみたいね」

「まさか……静流様に何かあったんじゃ?」

「【ゲート】の向こうで?」

「この寮は私たち以外みんな帰省してるから、不幸中の幸い、かしら?」

「とにかく講堂に行きましょう。情報を集めなくては」

 三人は講堂に急いだ。



講堂――


「皆さん、落ち着いて中に!」


 ニニちゃん先生は避難して来た生徒を、講堂の中に誘導している。


「アナタたちも、早く入りなさい!」


 ヨーコたちも講堂にたどり着いた。


「先生! 何があったんですか?」


 ヨーコはニニちゃん先生に状況を確認した。


「詳しくはわかりませんが、『ドラゴン寮』で爆発騒ぎがあったようです。エスメラルダ先生が調べに向かっています」

「寮長先生がですか? やっぱり何かあったんですね? 静流様たちに」

「今はココで避難しているしかありません。耐えるのです」

「くっ、わかりました」


 ヨーコは唇をかみしめ、先生の指示に従った。


「サラ、あなたの勾玉で静流様と念話出来ないかしら?」

「う、うん、さっきからずっと試してるんだけど、応答なし、なの」

「きっと『向こう側』には届かないのよ」

「ああもう、静流様ぁ」


 ヨーコは自分の銀の勾玉をぎゅっと握り、祈りを捧げた。


「あそこなら祈りが届くかもしれない」

「ヨーコ? あなたドラゴン寮に行くつもり?」

「【ゲート】により近い方がイイと思うの」


 ナギサは少し考えたあと、ヨーコに言った。


「ココは何とかするから、行って来なさい」

「ありがとう、ナギサ」

「気を付けて、ヨーコ」

「大丈夫よサラ、なんたって女神様の加護があるんだから!」


 ヨーコは先生の様子を伺い、隙を見て駆けだした。


「うりゃあぁぁぁ」

「頑張って、ヨーコ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る