エピソード29-2

向こうの世界―― ほこら付近


「この百葉箱みたいのが、例のほこらってヤツなの?」


 澪は祠を学校によくある、気象観測用の箱に例えた。


「イク姉、くれぐれも触っちゃ、メッだからね?」


 静流は隊長を少しからかってみた。


「ムフゥ。クッ、子ども扱いするでない!」


 そう言われた隊長は、少しニヤけたが、すぐに引き締めた。


「随分古ぼけているな。ん?何だこの札は」ペラ

「わ、ダメでありますよ隊長、剥がしちゃあ」

「ん? マズかったか?」

「ち、ちょっと静流クン、アレ見て、屋根の所」


 澪は震える手で屋根の方を指した。


「黒い竜のマーク……ヤバい、ブラムか?」


 静流は身構えるが、何も起こらない。


「何も起こらんではないか。 もうとっくにくたばっとるんだろう。フハハ、ん? 何だ?」


 わずかに振動を感じる。


「地震? かしら」


 すると、地響きが徐々に大きくなり、ついに


 

 ゴゴゴゴ……ドゴォォー!



 祠がけたたましく揺れたあと、祠は打ち上げロケットのように上空に飛んだ。


「飛んでっちゃったであります。まるでロケットでありますな」

「ねえ、祠があった所、見て」


 祠があった場所から、発光する物体が出て来た。


「何だ? アレは」


 グギャァァァァァ!


 全長20mはあろうかと言う、背中に羽が生えた黒い竜であった。


「ブラム……なのか?」

「ブラムちゃん! ダメ、正気じゃない!」


 オシリスは目の前の獰猛な黒竜を見て、そう言った。


「おわぁぁぁ、ド、ドラゴンか! 黒竜なのか!?」

「どうもその様です、隊長」

「マズいではないか、おい静流、討伐しろ!」

「そんな事言ったって……やるしかないのか?」


 静流は首に提げた勾玉を握り、変身のキーとなるワードを唱える。


「行くぞ!『念力招来』!!」ゴゥ

 

 静流の身体を桃色のオーラが覆い、バチバチとプラズマ現象が起こる。

 オーラが消え、中から戦国時代の鎧武者を思わせるデザインの防具を付けた静流が現れる。

 藍色を基調にした甲冑、ダッシュ1『百花繚乱』である。



「来たでありますぅぅ! 鎧モードの静流様!」


 佳乃は待ってましたとばかりに奇声を上げた。


「何だその格好は、サムライか? カッコイイではないか」


 隊長は子供がヒーローショーを見ているように目を輝かせている。


「静流クン……頼もしいよ」キュン


 澪も鎧姿の静流にときめきが止まらないようだ。




「礼を言おう。ワシを起こしたのは、お主らか?」



「竜がしゃべりおった!」

「黒竜と言えば、知能が高くて人の言葉を話すって、本当だったのね」



「黒竜ブラムだな! おとなしくしていれば、再封印してやらん事もないが」


 かっこいい事を言っている静流だが、内心ヒヤヒヤものであった。


「ブラムちゃん! ワタシよ、オシリス!」

「オシリス?……はて? お前のような獣は知らん。あ奴は精霊であった」

「今はワケあって、こんな姿だけど……信じて!」

「ええい! やかましい!……もう一度聞こう。ワシを起こしたのは、お主らか?」

「ああそうだ、少し手違いがあってな。従って、もう一度寝てもらおう」

「何? このワシを倒すか? ククク。その心意気だけは認めよう」


 ブラムはいかにもテンプレなセリフを吐いた。


「イイぞ! やっちまえ静流!」

「危ないであります隊長、静流様に任せるであります!」


 隊長はノリノリで静流を応援している。佳乃は隊長を引っ込ませるのに苦労している。


「子わっぱめ、騒ぐな!」ビシッ!


 ブラムは足の爪を隊長に向けて飛ばした。


「危ない隊長!!」ドン


 佳乃は隊長を突き飛ばし、爪を自らが受けた。


 「うぐうっ」 パシィィィン!


 爪は確かに佳乃の腹をえぐったように見えた。が、眩い光がそれを防いだ。


「佳乃! しっかりしろ!」

「【絶対障壁】が発動したの?」

 

「お主らと遊んでいる暇は無い! 行かせてもらおう」


 隊長たちが騒いでいるのを横目に、ブラムはこの場を立ち去ろうとしている。


「何ィ? どこに行こうというのだ?」

「決まっておろう、向こうの世界にな。娘の顔が見たいのは、親として当たり前であるからのう」バサッ


 ブラムは羽を広げ、ある方向に向かって飛んだ。


「おいっ!あっちの方向って確か」

「【ゲート】の方です! 萌が危ない!」

「萌さん、今行きます!」


 静流が萌がいる【ゲート】付近に移動を始める。

 隊長はインカムを使った。


〔おい萌、聞こえるか!?〕

〔何です? 隊長?〕

〔今すぐそこから離れろ!すぐにだ!〕

〔え? 何ですか? ん? 何? アレ〕


 萌の肉眼に、スゴい速さで黒い何かが近づいて来るのが見えた。


「きゃああっ」

「退け、小娘」ドンッ

「きゃっ!」


 ブラムの尾にはたかれ、萌はしたたかに腰を打った。


「邪魔をするな!失せろ!」コォォォ


 ブラムは萌に向け、ブレスを吐く動作をした。


「きゃぁぁぁぁ!」


 萌は両手をクロスさせ、防御の構えを取ったが、衝撃は来なかった。


 バシィィィ


 ダッシュ1の鎧をまとった静流が、両手に持った刀を十字に交差させ、ブレスを止めている。


「どぉぉぉりゃぁ!」バシュウ


 静流は、ブレスの軌道を上方に反らせた。


「静流……様!」

「萌さん、隊長たちと合流してください、早く!」

「で、でも、腰を打って、動けないの」

「わかりました。チェンジ!ダッシュ3」ババッ


 静流の鎧がダッシュ3の忍者モードに変わる。

 萌をお姫様抱っこの状態で担ぎ、技カードを出す。


「しっかりつかまって下さい、行きますよ。『疾風怒濤』!」シュバッ


 静流は技カードをスロットに挿入、萌を抱いたまま超スピードで駆け抜ける。


「フ、逃げ足の速い奴だ。まあ良い、これで手間が省けた」


 ブラムはゲートをこじ開け、中に入る。


「厄介な連中だ、追ってこれぬよう、こうしてくれよう」グシャ


 ブラムは自分が入ってきた【ゲート】を破壊した。


「静流! ゲートの位置情報が消えた! 破壊されたみたい!」


 オシリスが慌てて静流に報告する。


「何だって!? マズい事になったな……」

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