エピソード29-4

ドラゴン寮―― 


 全速力でドラゴン寮に着いたヨーコ。


「うわ、壁に穴が! フッ! 誰?」


 破壊された壁を調べていると、なにやら気配がした。


「うわぁ、派手にやってくれたわね」


 すうっと実体化した、薫子Gであった。


「ひっ!、ゆ、幽霊?」


 ヨーコは青い顔をして薫子Gに聞いた。


「もう、何だってイイでしょ? 今大変なんだから」

「その桃色の御髪、カオルコ様? ですね?」

「その抜け殻よ。そんな事より、何してるの? はやく避難しなさいな」

「ダメです。静流様と『交信』するんですから」

「静流と? どうやって?」

「【ゲート】の近くで『祈ります』」


 ヨーコは勾玉を薫子Gに見せた。


「ん? 確かにそれには『何か』が付与されているわね。やってみるか」


 薫子Gは顎に手をやり、少し考えたあと、ポンと手を打った。


「行きましょう、こっちよ」


 ヨーコは、薫子Gに導かれ、【ゲート】の前に来た。


「うわ、これじゃあ使い物にならないわね。大丈夫かしら、静流たち」

「とにかく祈ります!」


 ヨーコは銀の勾玉を握り締め、一度深呼吸をしたあと、祈り始めた。


 ≪静流様、応答してください……静流様≫


 ヨーコは必死に祈った。離れた所で薫子Gも祈っていた。とそこに、


「カオルコ! 何をやっておる!」

「寮長先生! 実は」


 薫子Gは寮長先生にわけを話した。


「やはりブラムか。とうとう来やがったね、60年前の復讐か?」

「静流たちが、向こう側に行ったままなんです、先生」

「そりゃあマズいね、私はブラムを引き付ける、お前はミス・ミナトノを頼む!」

「了解しました、先生!」ビシッ


 薫子Gは敬礼した。



          ◆ ◆ ◆ ◆


 ドゴォォォン


ドラゴン寮の近くでエネルギー波が炸裂した。


「ここもヤバいわ。もう諦めよう、大丈夫よ、静流なら」


 ひざまずき、必死に祈りを捧げているヨーコを立たせ、壁穴から外に連れだした薫子Gは、優しく声を掛けた。


「でも……わかりました。これを最後の祈りにします」


 ヨーコは、渾身の祈りを捧げた。



「みんなを守って! お願い! 静流様!」



 勾玉に祈るヨーコ。すると、勾玉がまばゆく光った。パァァァ


「きゃあぁぁぁ」


 まばゆい光を放ちながら、勾玉がヨーコの手を離れ、宙に浮いている。


「パァァァァン!」


 銀の勾玉は霧散した。


「何が起こったの? あっ! 静流様に頂いた勾玉が……」


「願いが叶ったみたいね。あれを見て、ヨーコ」


 薫子Gが指した先は、ドラゴン寮の入り口だった。

 今起こった事象に戸惑うヨーコ。すると、ドラゴン寮のドアが開いた。ギィィ


「ふう、成功したのか?」


 静流が多少よろ付きながら寮から出て来た。


「よくやったわ静流! 単体で【転移】成功よ」


 オシリスは静流をねぎらった。とそこに、


「し、静流……様、静流様!!」

「あ、ヨーコ! キミが呼んでくれたんだね? 助かったよ」

「うぇぇん。ワタシも祈ってたわよぉん」ガシッ

「お姉様! どうしたの?」


 いきなり抱き着いて来た薫子Gを受け止める静流。


「静流様、今、学園が大変な事になっているんです!」

「何だって?」

「黒い竜が学園に。今寮長先生が食い止めていますけど」

「ブラムか……何とかしなきゃ」


 静流は首に提げた勾玉を握り、変身のキーとなるワードを唱える。



「行くぞ!『念力招来』!!」パスッ シーン



 何も起こらなかった。


「あり? 装着出来ないぞ!?」

「静流、アンタ、魔力がほとんどゼロよ。【転移】でほとんど使い果たしてる」

 

 オシリスは溜息混じりにそう言った。


「うげ? どうもさっきから気分が悪いと思ったら……ふぁう」バタッ


 静流は目を回し、倒れてしまった。


「静流、しっかりしなさい!」


 薫子Gは自分の太ももに静流を寝かせ、膝枕をした。その瞬間、



〈薫子、私よ〉

〈お母さん?〉

〈今からヨーコさんに『アレ』を試してもらう〉

〈アレって? まさか〉

〈サポートはオシリスにやってもらう。アナタは見守っていて〉

〈本気なのね? わかった〉



「ヨーコ、お母さん、モモがアナタに話があるって」


 薫子Gはヨーコにそう言うと、念話が繋がった。



〈ヨーコさん、聞こえるかしら?〉

〈え? どちら様ですか?〉

〈静流の伯母、モモ〉

〈静流様の伯母様?〉

〈説明は後、いい?いまからアナタに一度だけのチート魔法を教えます〉

〈×××〇〇〇 いいわね、頼んだわよ!〉

〈はい! でも私でイイんでしょうか?〉

〈ヨーコさん、今はあなたが頼りなの〉ブツッ


 モモはヨーコに何やら得体の知れない事をやらせようとしている。



「そう言う事だからヨーコ、頼んだわよ?」


 薫子Gは静流から離れ、親指を立て、グッジョブのサインを出した。


「精霊さん、お願いね」


 薫子Gがそう言うと、オシリスはヨーコに向き直った。


「ヨーコ、アナタがやるのね?」

「オシリス、演算補助お願い!」

「わかったわ。任せて!」ブンッ!


 オシリスは静流を中心に魔法陣を展開した。



「いきます、【パラドックス・サモン】」



 ヨーコはそう唱えると、静流の右目にキスをした。


 薄紫に光る、面妖なオーラに静流は包まれた。バチバチィと稲妻が走っている。

 やがてオーラは小さくなっていき、静流に吸収された。

 静流の目が開く。



「あーめんどくさー」



 頭をボリボリかきながら、静流はムクッと起き上がり、辺りを見回した。


「静流……様?」

「あれ?ヨーコじゃん、久しぶりだなぁ! ……って、ここ、ドコ?」


 さっきまでの静流とは感じが違う。何だか大人びている?

 オリーブ色のツナギだった服装が、なぜかガクランになっていた。


「え? 学園……ですけど? って、ヒゲ? メガネは?」 


 静流はうっすら無精ヒゲをはやしている。


「まさか、学園って、もう今は……はっ、ヨーコ、今何か魔法、使ったね?」


 ヒゲ静流はヨーコの肩をガシッと掴んで、ヨーコの顔を覗き込んだ。


「静流様、近いです! ええ。【パラドックス・サモン】を使いました」

「そうか……伯母さんだな、チッ、めんどくさ」


 ヒゲ静流は舌打ちすると、顎のヒゲをジョリジョリしながらうめいた。


「で、ヨーコは僕に何をさせようと言うの?」

「学園に黒竜が出て、暴れてるんです」

「ブラムか……チッ、おいケツ! 時間はどの位あるんだ?」

「ケツって呼ばないでよ! 時間?ヤバ、10分切ったわ」

「激ヤバじゃんかよ。時間が無い、薫子、とりあえずそれ、貸して?」


 今まで呆気にとられて腑抜けになっていた薫子Gは名を呼ばれて気が付いた。


「へ? コレ? はい」 


 薫子Gは静流の横にあったポーチを渡す。


「どうした薫子? 青い顔して、またお腹でも壊したんだろう?」


 ヒゲ静流は、薫子Gの顔を覗き込んで、首を傾げている。


「う、うん、大丈夫よ。アナタこそ、大丈夫?」

「ん? ……そうか、マズ、ヤバ」


 ヒゲ静流は状況を整理し、冷や汗を垂らした。


「いけね、今の無し、ノーカン。で、社長、じゃなかった寮長先生は?」

「校庭で黒竜と戦っています」

「さて、行ってくるか。あーめんどくさ」


 ヒゲ静流はポーチから出したベビーナンブのホルスターを右のお尻あたりに来るようにセットした。


「ケツ! ついて来い!」

「だからケツって呼ばないでよ!」

「わかったよ、相棒?」


 オシリスはヒゲ静流の肩にちょこんと乗っかり、静流は校庭の方に向かった。

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