エピソード28-4

学園内 アンドロメダ寮――


「こんばんは」

「ヤッホウ、ただいまみんな!」

「うむ、何も変わっとらんようだな」

「失礼します!」

「失礼するであります」


 ニニちゃん先生を先頭に、シズム、隊長、澪、佳乃の順で中に入った。

 少しの沈黙の後、パタパタと何人かの足音がして、やがて姿を現した。


「あ、先生と……シズム!?」


 ヨーコはシズムを確認した瞬間、ダイブしていた。ガシィ


「あは、ヨーコ、くすぐったいよ」

「シズム、元気だった?」

「うん。元気だよ!」

「あら、そちらの方たちはどなたですの?先生」


 ナギサが他の人たちを見て、ニニちゃん先生に聞いた。


「こちらは統合軍の方です。今夜、こちらに宿泊されますので、応対をお願いしますね」

「軍の方ですか……という事は」キョロキョロ


 ナギサは急に後ろの方を気にしだした。


「はっ! アナタはもしや……」パァァ


 ナギサは静流を確認すると、先ほどまで緊張していた顔が緩みだした。


「んっ!!」


 ヨーコは口を手で押さえ、動揺を抑え込もうとしている。


「ああっ」


 サラは顔を真っ赤にしてフリーズしている。


「どうも、初めまして。五十嵐静流です」パチクリ

(みんな、初対面でお願いっ!)


 静流はウインクで合図を送ったつもりだった。



「「「ふぁふぅぅぅん」」」



 静流のウィンクに、ヨーコ・ナギサ・サラの三人は、大きくのけ反った。




          ◆ ◆ ◆ ◆




「では、お願いします。ミスター・イガラシ、わかっていますね?」

「はい、承知しております」


 ニニちゃん先生は静流に念を押すと、宿舎に帰っていった。 


「とりあえず談話室にお通しして。ナギサ、お茶お願い。サラはお菓子の準備。イイわね?」


 ヨーコは仕事モードになったようで、指示を飛ばしている。


「アナタは何するのよ、ヨーコ?」


 ナギサはジト目でヨーコに聞いた。


「私は静流さ……お客様のお相手をしますっ」フーフー

「ふう、わかったわ。アナタの圧がスゴくて呆れるくらいよ」


 二人を仕事に出し、ヨーコは接客を開始した。


「私はヨーコ・C・ミナトノです。よろしくお願いします」


 ヨーコは深々と頭を下げた。


「うむ。私がこの隊の隊長である、イク・サカキバラである! ちなみに私はココのOGであるからして、よろしく頼む」

「ミオ・ナガイよ。よろしく」

「以前お会いしましたでありますよね? ヨシノ・ムラサメであります」


 それぞれの紹介が終わり、ヨーコの興奮度はMAXに達していた。


「えー、そして僕が、シズル・イガラシです」


 静流は、右手で後頭部を搔きながら、照れくさそうに言った。


「ようこそお越しくださいました。静流様ぁ」パァァ


 ヨーコはクルクルと回りながら、恍惚の表情で決めポーズをとった。


「何か、静流クンだけ手厚い歓迎なのね?」

「まあ、ココの方たちはご存じのようでありますから、シズムが静流様だった事を」

「大袈裟だなぁ、ヨーコは。ついこの間会ったばっかりじゃないか」

「私にしてみれば一日千秋の思いですから。待ち焦がれていました。今日の日を」


 身振り手振りがとにかく大きいヨーコ。


「何じゃコイツは、演劇かぶれか?」


 隊長はヨーコの大仰な仕草を、役者に見立てた。


「私は静流様のサポート要員でしたので、この学園では静流様に一番近い存在でした」


 この一言に澪がかみついた。


「一緒のお部屋だったんだよね? それで?」

「お風呂で背中を流し合う仲でした」

「くっ、その位何よ……」

「ある時は添い寝も致しました」

「何ですって!? 本当なの? 静流クン!?」

「そんな事もあった、かな?」

「澪、イイ大人がみっともないぞ?」


 ワナワナと静かな怒りを燃え上がらせている澪に、隊長はそう言った。


「ま、まあ学生生活を謳歌してたんだよね? 静流クン?」

「うん? まあそう言う事」

「アナタは静流様とはどういったご関係なのですか? ミオさん?」

「私は……幼馴染? みたいなものですけど」

「真琴さん以外にもいたんですね? 幼馴染」

「そりゃあ、いてもおかしくないでしょう? キミとナギサみたいに」


 ヨーコとナギサは、ここの幼稚園からの腐れ縁である。


「ふ、ふ~ん。ま、そう言う事にしておきましょう」


 ヨーコは、澪から発するオーラで、自分と近い存在であると確信した。


「アンナは実家に帰ってるんだね?」

「ええ。あそこは親バカらしくって、どうしても帰って来いって」

「アンナには悪いけど、今はいなくて正解かもね」


 これ以上かき回されたくはない静流であった。


「はーい、皆さん、お待たせしました」


 ナギサが紅茶を、サラが茶菓子をそれぞれお盆にのせて持って来た。


「ありがとう、ナギサ、サラも」

「この位、どうって事ありませんわ」

「はい。大丈夫……です」

「はい、みんな、座って」


 ヨーコは再び仕事モードになり、お茶を配り始めた。




          ◆ ◆ ◆ ◆




「それで静流様、ドラゴン寮には何かいたんですの?」


 お茶を飲みながら、ナギサが調査の結果を聞いてきた。


「うん。いた。薫子お姉様の『思念体』だったよ」

「残留思念のようなものでしょうか? さぞや無念だったでしょうね」

「ふぇ? お姉様、お亡くなりになった……の?」


 サラの顔はみるみる青くなっていく。


「いやいや、死んでないわよ、カオルコは」


 オシリスは不可視化を解除し、ナギサの前に顔を出した。


「オシリスちゃぁん♡」

「こぉら、ナギサったらもう」


 ナギサはオシリスを見るなり、ガシッと抱き寄せ、頬ずりをしている。


「静流様、カオルコ様はやはり」


 ヨーコは自分の考えを確かめるように聞いた。


「うん、向こうの世界にいるよ」

「【ゲート】は私が修復した! 明日は異世界にダイブするのだ!」


 隊長はドヤ顔でそう言った。


「危険は無いんですよね? 静流様?」

「無い、とは言い切れないよ。未知の領域だもん」

「とにかく、行くしかないのであります」

「大丈夫よ。静流クンは私たちが護るから」


 澪は精一杯強がってみた。


「頼りにしてるよ、ミオ姉」パァァ

「ふぁう、ま、任せなさい! フフフ」


 静流のニパを浴び、ニヤ付きながら澪はそう言った。


「皆さんはこの後、どうなさいます? 私たちは夕食と入浴なのですが、ご一緒にいかがです?」


 ヨーコは客にこの後の都合を聞いた。


「ええ。お願いします」

「風呂か? 久しぶりにもらうか」

「大きいお風呂は、大好物であります!」


 三人の女性軍人は当然とばかりにそう返事した。


「ぼ、僕はイイや。シズム役はロディに任せて、僕は車でCレーション食べて、寝るから」


 静流はニニちゃん先生に言われた事を忠実に守ろうとしている。


「ええ~! イイじゃないですか静流様ぁ、夕食はご一緒しましょうよ」

「そうだぞ静流、軍のレトルトなんぞ、食えたもんじゃないんだからな」

「隊長、それは言い過ぎじゃぁ……」

「他の生徒が気になるんでしたら、別の席をご用意しましょうか?」

「そんな事、出来るの?」


 ヨーコの提案に、静流は疑問を抱いた。

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