エピソード28-3

学園内 ドラゴン寮内――


 薫子Gは当時を振り返った。


「私たちがこの学園に追いやられた時に、ひと波乱あったの」

「波乱って、何です? この超お嬢様学園で」


「陰湿なイジメか? 靴に画鋲入れられたりとか」

「昔のスポ根女子マンガにあったわね、そんなイジメ」

「あったなぁそんなの、私はやる方だったがな、ガハハハ」


「そんなんじゃないわよ。監禁され、レイプされそうになったの」

「レイプ!? 犯罪じゃないですか!」

「私は薬を飲まされ、他の子とは別の部屋に監禁された」


「何でまた、そんな事に?」

「ここって、多いでしょ?百合の子」

「まあ、いますね。普通に」

「ある時、上級生が交渉を迫ってきた」

「交渉って、女同士でイチャコラする事か?」


 隊長はストレートに表現した。


「そう。でも私はを断った。『そのケは無い』ってね」

「当然だ! 私の時代には……いた! 確かにいた!」


 隊長はポンと手を打ち、合点がいったようだ。


「しかし、そういう輩はヒソヒソと影でやっておったぞ」

「私も、ここまで強硬な態度に出て来るとは思ってなかった」


 薫子Gは手を交差し、自分を抱くような仕草をとった。


「で、どうなったのよ?そのあと」


 澪は少し興奮しているようだ。


「手足を縛られ、服を破かれてむかれた。生まれたままの姿に」

「それで無理やり何かされたんだね? 痛かった?」フーフー

「その子が手に持っていたのは、実験で使う、試験管だった」


「まさか、その試験管を、突っ込まれたの?」

「え? 違うわよ。アナタ変態?」


 興奮度MAXの澪に、薫子Gは、軽蔑の眼差しを送った。


「う、ごめんなさい、暴走しました」ガク


 澪は自爆した。


「試験管には、硫酸が入っていた。それで私の身体を焼こうとしたの。『貴方など、殿方に愛想をつかされればイイのよ』ってね」

「うわぁ、相当ヤバいじゃないですか、この状況」

「硫酸を身体に垂らされるって時に、魔力が暴走した。向こうに行け!って念じたの、そしたら」

「そしたら? どうしたの」ハァハァ


 反省していた澪は急に復活し、食いついて来た。


「私の前に、バスケットボール位の空間が生まれたの」

「『ブラックホール』みたいなものかしら」

「その時まで忘れていたけど、私にはそういう能力があったみたい。今思えば、こっちの世界に来た時も、その空間から来たのよね。静流、アナタに会いに」

「僕に? でも、会えなかったよ?」

「遠くで見ていた。どうやって近づくか考えてた。そしたら忍たちと友達になったりして、そうこうしていたら、この学園に飛ばされた」

「おい、脱線してるぞ! 続きを話せ!」


 隊長は続きを話すよう、薫子Gに促した。


「その子をその空間に落とした。そのすぐ後にリナや忍たちが助けに来てくれた」

「それで一件落着なのか? つまらん」

「違うわ。そのあと、私が消した子の親が騒ぎ出したの。娘がいないって」

「まあ、普通そうなるわな。それで?」

「放置しておいた。ある日、兄さんが来るまで」

「薫さんですね? その辺りはサラに聞きましたよ」

「私は聞いておらん、話せ」

「ある日、私はみんなとティータイムを愉しんでいた。中等部のサラを呼んで」

「そう言えばお姉様、サラに僕の『薄っぺらい本』作らせてたのって本当?」

「えっ? 知ってたの? サラに聞いたのね」


 薫子Gは両手を口元にやり、ポッと赤くなっている。


「本当、なんだね?お姉様?」


 静流は鋭い視線を薫子Gに送った。


「そんなに嫌だったの? ごめんなさい。最初は忍と二人で楽しんでいたの。そしたら雪乃が売りに出そうって言うもんだから」

「雪乃さんって、『ズラ』ってヤンキー風の人に呼ばれてる人でしょ?」

「そう。葛城だから、かつら=ヅラってリナが」

「その後の僕の苦労は、知らないんだろうなぁ」

「だ、だから謝ってるでしょ?」

「事情は分かりました。睦美先輩が探していますよ、今でも」

「睦美って……いつも鼻血出してるあの子の事?」

「その記憶で間違いないと思います」

「ええい、それで、どうなったんだ!」


 いちいち脱線するので、隊長はしびれを切らせている。


「いきなり兄さんが【ゲート】を繋いで、こっちに来たの。で、私とリナたちを異世界に連れてった」

「いつ本体と別れたの?」

「多分、そのあと私が向こうで寝かされる時、なのかな?」

「気が付いたら、ここに?」

「そう。それで、もう一度アレ、ブラックホールを出してみようと思ったの。でも出来なかった。自分が思念体だからってその時わかった」


 薫子Gは少し悲しげだった。


「消えた上級生はその後、どうなったんですか?」

「それが普通に通ってたの。何も無かったかのようにね」

「薫さんが送り返してくれたんじゃない?」

「わからない。しかも、私たちの存在が消えてるみたいだった」

「記憶とか消されたのかな」

「でも、サラは覚えてましたよ?」

「高等部に限定して記憶操作を行ったんでしょうね。あの子は中等部だったから覚えているのよ」

「ちょっと質問、薫さんが出したゲートってあのオーブンの?」

「違うと思う。兄さんのは結構イイ加減なの。固定出来ないし」

「静流、オーブンのは恐らく、ブラムちゃんが作ったヤツよ」


 オシリスが口を開いた。


「ブラム? 黒竜の?」

「そう。一度、ワタルを誘拐したことがあったの。その時に作ったものじゃないかしら?」

「60年前にこっちに来るときにそれを使ったのかな?」

「当時の事は、『閣下』に聞けばわかるんじゃないか?」

「今度聞いてみるか」


 そう話していた時、不意に人の気配があった。


「騒がしいと思ったら、何事だい?」


 噂の人、寮長のエスメラルダ先生だった。


「寮長先生!」

「誰だい、お主は?」

「しまった、変装してなかった」

「カチュアから聞いていた、軍の調査が入るってのがこれかい?」

「おお、息災であったか、寮長閣下殿?」

「ミス・サカキバラ、お前さんかい」

「うむ。ここの【ゲート】について調べておるのだ。もう修復は完了しているぞ。私が直した」フンッ


 隊長は、椅子の上に立ち、胸を張っている。


「何ィ? 【ゲート】を修復したって?」

「ええ。マズかったですか?」

「まあ良い、どうせアイツはあそこで寝ているだけだからな」

「先生も行った事、あるんですか?向こうに。あ、五十嵐静流、です」

「行った。その入り口付近だけだがね。遠くに大きい砂の河が流れていたね」

「間違いない、『嘆きの川コキュートス』だ」

「元准将閣下、そこに、高い塔ありませんでした? あ、永井澪と申します」ぺこり

「さあね、物凄い砂嵐でね、あったような、なかったような」

「そうですか」シュン

「先生、ブラムは討伐されたんでしょうか?」


 静流は黒竜の討伐ミッションについて、聞いてみた。


「ああ、私と相棒で半殺しにしてやったよ」

「蒸発させたんですか? 【煉獄】で」

「いいや、相棒が向こうのほこらに封印したよ。根は悪いヤツじゃないってな」

「封印ですか。寝ているのかしら?」

「あのオーブンの【ゲート】ってブラムが作ったんですか?」

「そうさね。アイツを封印したあと、相棒が細工を施した」

「壊すんじゃなくて、細工?」

「いつか、こうやって訪ねて来るやつ等のためにな」

「細工ってどんな細工です?」

「単純な事さ、時間を進めた」

「そうか、『腐敗』させたのか」

「いずれ、【修復】が使える者がここに来ると言うとったな、あの野郎は」

「三船一郎さんですね? 先生」

「フン、大方六郎か八郎辺りから聞いたんだろう?」

「ええ。仰る通りです」

「それで、【ゲート】を修復して何をおっぱじめようって言うんだい?」


 静流は先生にかいつまんで説明した。


「新しい交通手段か。まるで夢物語だね」

「軍がこうしてやっておるのだ、絵空事ではないのだ」

「そうかい、お前さんも偉くなったもんだね」

「元准将閣下が何を言っとるのだ? 私など底辺に過ぎんわ」

「まあ、何にせよ気を付けるんだね。特に、アイツのほこらには近づくな。黒竜の紋章が入っとるからすぐわかる」

「はい、肝に命じます」

「カオルコや、お前さんもご苦労だったね、お疲れさん」

「先生! 勿体なきお言葉」


 薫子Gは寮長先生に最敬礼をした。


「私が命じたんだよ、ここに来る輩を脅かして近寄らせるなってな」

「そうだったんですか?」

「立ってるものは親でも使えって言うだろ? 幽霊でも役に立つのさ」




          ◆ ◆ ◆ ◆




学園内 ドラゴン寮前――


「とりあえず、今日の所はここまでにするか」


 ニニちゃん先生に結界を閉じてもらい、今日の宿に案内される。


「ミスター・イガラシ、アナタは、わかっていますね?」

「ええ。勿論。でも面会したい人がいるんですけど。」

「ほぉ、それはどなた?」


 ニニちゃん先生はメガネを掛けなおした。カチャ


「ヨーコにナギサとあと、サラだよ」


 シズムに扮したロディがそう言った。


「ミス・イガワはわかりますが、なぜアナタが?」

「シズムに紹介してもらいたいんです」

「ウチの学園は男子との交流は厳禁なのですが……ま、イイでしょう。ミス・イガワのたっての願いとあ

れば仕方ありません」

「ありがとうございますっ!」ニパァ

「クッ! どう、いたしまして……はう」


 ニニちゃん先生は静流のニパを食らい、よろけた。


「うう。丁度アンドロメダ寮に空き部屋がありますので、そちらに行きましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る