エピソード28-5

学園内 食堂――


 女性軍人たちは、ヨーコたちの好意に甘え、食堂で夕食を頂いていた。

 夏休み中なので、一斉にお祈りとかは無かった。


「うむ。久しぶりであるな、この雰囲気」

「むふぅ。これがお嬢様校の夕食風景でありますか」

「こら、佳乃、あまりキョロキョロしない、んもう」

「して、静流様は?」

「あっち、先生方と食べてる」


 佳乃の問いに澪はつまらなそうに顎で奥の方を指した」


「で? ドラゴン寮の件は片付きそうなんですか?」チャ


 ニニちゃん先生は今日の調査結果を聞きたがった。


「詳細は報告書でお知らせすると思いますが、一応解決しました」

「そうですか。で、いたんですか? 幽霊」

「いましたよ。でも、もう大丈夫です」


 薫子Gは、あと数日でいなくなるのだ。


「わかりました。とりあえず一安心という事でしょうか?」

「ええ。 明日は【ゲート】を使い、本格的に調査に乗り出します」

「くれぐれも、気をつけてくださいね」

「お気遣い、ありがとうございます」ニパァ

「ふぁう。お祈りしましょう」


 ニニちゃん先生は少し頬を赤くし、お祈りを捧げた。


「さあ、静流クン、お上がりなさい」


 静流の対面にはカチュア先生が、潤んだ瞳で静流をじいっと見つめている。


「いただきます。……カチュア先生? そんなに見つめられてると、恥ずかしくて食べられませんよ」

「あらぁ、イケナイ、私とした事が、気が利かなくてごめんなさい、はい、あーん」


 カチュア先生は、フォークに刺したおかずを静流の口に運んでいる。


「ち、ちょっとカチュア先生? その行為はどうかと思いますが?」チャ


 ニニちゃん先生がすかさず横やりを入れた。


「イイじゃない、お客さんをもてなす事も、レディのたしなみではなくて?」


 にらみ合う二人。


「まあまあ、そう言えば、学園で最近何か変わった事、ありました?」


 二人が険悪になりそうな雰囲気だったので、静流は別な話題を振った。


「そうねぇ、ここの礼拝堂に参拝希望者が殺到してるって、ねえ? 神父?」


 カチュアは一番奥でひっそりと夕食を摂っているジルベール神父に声を掛けた。


「はい、それはもう連日ツアーでお越しい頂いております。はっ、そちらの殿方は?」


 話題を振られるまで、静流の存在に気付かなかった神父。


「シズムのいとこのシズル・イガラシです」

「むほぅ。シズム様の。何という端正な顔立ち。美しい」


 神父は、うっとりしながら静流を眺める。


「ちょっと神父? ワタシの静流クンをそんな目で見ないで頂戴!」バチッ

「静流様が、いつアナタの所有物になったのです? キサラギ先生?」バチッ


 先生と神父は、他の人を挟み、にらみ合った。


「ふう。どいつもこいつも色めきおって、下らん」


 そう言ってワインを口に運んでいるのは、寮長のエスメラルダであった。

 静流は司令たちから聞いた事を寮長先生に話した。


「寮長先生はかつて准将にまでなられた方だと、軍の人に聞きました」

「昔の話さ。ロクローやハチローは息災か?」

「ええ、もう。特にハチローさんは、元気過ぎる位でしたよ」

「そうかい。あやつらも偉くなったもんだ」

「三船さん一家って、何人兄弟なんです?」

「八人さね。七男一女だったな」

「女性の方もいるんですか?」

「ナナは国際警察で監理官をやっとる」

「軍だけじゃないんだ。警察かぁ」

「他にも芸能事務所社長とか……ん? お主の高校の校長は?」

「え? そう言えば、三船だったな名字」

「それは三郎だ。校長なんて、そんなもんだろう」

「まさかの展開。はぁ。面目ありません」

「それはそうとお主、アレは使いこなしたのか?」

「アレ? と言いますと?」

「しらばっくれるんじゃないよ、ベビーナンブさ」

「うげ……全てお見通し、でしたか」


 静流は、寮長先生にまでバレていたのかと落胆した。


「で、どうなんだい?」

「イメージ次第なんですが、色んな弾を打ち出せる事がわかりました」

「カートリッジの魔弾ではなく、直接魔力を流し込むのか?」

「はい。でもまだまだです」

「奴も喜んでいるようだね。せいぜい可愛がっておやり」


 寮長先生は厳しい顔から穏やかな顔に変わり、そう言った。


「はい。ありがとうございます」ニパッ




          ◆ ◆ ◆ ◆




「ねえ、向こうで何話してるんだろ? 静流様たち」


 生徒たちのグループには、ヨーコたちとシズム、それに女性軍人三人であった。


「私も向こうで静流と食べるのだ!」

「しょうがないですよ隊長、それが先生方が提示した静流クンと同じ部屋で夕食が取れる条件だったんですから」

「むう。つまらん」


 隊長は口をとんがらせ、ふてくされている。


「ねえねえ、シズムちゃん!」

「ん?なあに?」


 女生徒の一人が、シズムに聞いた。


「最近、シズルカに変身してる?」

「してないよ、だってイケナイ事だもん」

「そっか、許可が無いと出来ないんだっけ? 変身」

「そう。静流クンの許可が無いと、変身出来ないんだぁ」

「静流クンって、あちらの殿方?」


 女生徒は先生たちのグループにいる静流を見た。


「そうだよ。カッコイイでしょう?」

「むふぅ。確かに素敵ねぇ。でも、どっかで見たような……」

「桃色の御髪……まさか」


 他の女生徒がざわめき始めた。


「あのお方って、静流様、よね?」

「まさか、実物がいたの?」

「ちょっとヨーコ、アンタ知ってたんでしょう?」


 ヨーコは、女生徒数人に囲まれた。


「知ってたら何なの? あの方は気軽に声を掛けてイイ方では無くってよ?」

「違うわヨーコ、静流様はどなたにもお優しい方でしょう?」

「うん。ナギサの言う通りだよ」


 ヨーコは二人に指摘され、イラ立ちながら間違いを認めた。


「わかってるわよそんなの! フン」


 ヨーコは顔を赤くして、プイッとそっぽを向いた。


「どうする?サイン貰っちゃおうか?」

「写真とか、どうかな?」


 静流が「あの」静流だと気づいたものたちが、ざわめき始めた。


「コホン、イイ?みんな。静流様は、確かにアノ本のモデルです。けれど、それは本人の許可なく行われ、静流様はそれはもう心を痛めておいでです。ですから、そっとしておいてあげて下さいね?」


 ヨーコは女生徒たちに事情を説明した。


「そうなの? それは酷いわね」

「静流様、可哀そう」

「わかった。遠くで眺めるくらいにしておく」


 ヨーコの説得が効いたようだ。


「ムフゥ。しかし素敵よね。見れば無る程、溜息が出ちゃう」

「そうやって、色物扱いされていても、懸命に生きている静流様って、いじらしいわぁ」

「何かこう、全力で守ってあげたいって気分になるわよねぇ?」


 ヨーコの説得が、逆のベクトルで暴走し始めた。


「ふう。ダメだこりゃあ」

「ヨーコ、アナタは少し黙ってなさい」

「そうします」


 ナギサに叱られ、しゅんとなり小さくなるヨーコ。


「で、シズムちゃんと静流様って結局、どんな関係なの?」


 女生徒の一人がシズムに話題を振った。


「うん。下僕」

「へ? 下僕って、奴隷?」

「うん。肉奴隷」

「は? アンタ何言ってんのシズム!?」


 小さくなっていたヨーコは、シズムの言動に食いついた。


「違うでしょシズム、静流様の、『恋の奴隷』って事でしょう?」


 ナギサは必死のフォローを入れる。


「うん。ワタシの大事なヒト」

「ま、まあ、いとこなら、結婚だって出来るし?」


 サラも慣れないフォローを入れてみる。


「そっかぁ、ドギツイ表現だったから、勘違いするところだったわよ」

「でも、ハードル高そうよね? 彼女って、いるのかしら?」

「いないわよ! そんなの、静流様に限って!」


 ヨーコは全力で否定した。

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