エピソード26-1

2-B教室―― 終業式


 そんなこんなで、期末テストが終わり、無事補習を免れた静流。今日は終業式だ。


「お前、ロクに授業出てなかった割には、テスト出来てたじゃんかよ?」

「ギク、たまたまヤマが当たったんだよ。」

(睦美先輩に過去問をもらって、ロディに【スキャン】させて【ダウンロード】したなんて、口が裂けても言えない)                

「生徒会室に入り浸りだったもんね? 静流」

「睦美先輩に教えてもらってたんだよ」

「ま、そう言う事にしといてあげる」

「それより、いよいよ夏休みだなぁ」

「お、静流が何かやる気になってる」

「まあね。今年の夏休みはいつもと違うのになる、と思う」

「アレか? パツキングラマーの子とサマーバケーションか?」

「アンナの事? そう言うお下品な目で見ないでやってよ。イイ子なんだから」

「エエなぁ、お近づきになりたいわぁ」


 達也は両手を前に出し、わしゃわしゃとやった。


「機会があったら、紹介するよ」

「ホントか? ヤリィ!」

「でも残念な事がある」

「何だよ?」

「彼女、女の子にしか興味無いよ。百合ってヤツ?」

「グハッ、そう来たか」

「それに、アノ学園は男子禁制のお嬢様校だよ? 相手にしてくれるワケ、ないじゃん」

「お嬢様か……やっぱ敷居が高いな……ガク」


 達也は心底落ち込んだ。


「何ぃ? 達也はそうゆう子と仲良くなりたいんだぁ?」


 朋子は男たちの会話に割り込んで来た。


「嫌だね。男に興味ないヤツに会ってもしょうがないだろ?」

「心配しなくても大丈夫だよ、伊藤さん。達也なら」

「わ、私は心配なんか、してないもん」プイッ


 朋子は少し顔を赤くした。


「静流、アンタはもっと自分を大事にしなさい!」


 真琴は周りの事ばかり気にしている静流にそう言った。


「僕は大丈夫だよ。大体、そういう付き合い無いし」

「お前が言うか! この無自覚モテ男!」

「何だよ、その肩書」

「真琴も大変ね。相方がこんなじゃ、心配し過ぎて気が置けないでしょう?」

「もう慣れた。いちいち悩んでたら、精神が崩壊しちゃうもん。それより相方って何よ?」

「そりゃあ決まってるだろ? 夫婦漫才」

「はぁ? 何それ達也? 夫婦って。まさかぁ、ナイナイ」

「ち、ちょっと朋子、勝手に時間進めないでよ! まだ、付き合ってもいない……のよ?」


 二人が同時に否定したのを見て、呆れているクラスメイトたち。


「はいはい、ご馳走さん」

「五十嵐クンも、罪よね~」




          ◆ ◆ ◆ ◆




五十嵐宅―― 夕方


 家に帰り、通知表を母親に渡したあと、静流は自室のベッドに寝そべり、ノートPCを起動した。


「さぁて、夏休みの予定はどうなったかな?」


 メールソフトを起動し、新着メールが来ている事に気付く。


「あ、アマンダさんからだ! なになに? ん?」



 親愛なる静流クンへ


 夏季休暇における『インベントリ内探索ミッション』について、活動予定及び主要メンバーの予定表を添付しました。

 ついては、


 ・インベントリ内探索班

 ・コキュートス調査班


 に分け、同時進行としたい。

 気付いた点については、随時報告されたし。


 以上




「添付ファイルはと、コレか、ふむ」

 添付ファイルの中身は、


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『インベントリ内探索ミッション』


 <達成目標>


 1. インベントリ内の探査及び居住空間の確保(簡易インフラ整備)

 2. コキュートスの位置特定及びコードネーム『TOW』発見(The Tower of Wataru)

 3. TOW仮認証後、ゲート構築実験


 07/26~07/31 準備期間

 08/01~08/14 活動期間

 08/15~08/22 休暇

 

 ・8/23以降の予定は、08/14の時点で実行するか決定する。


「ふむ。つまり、二週間が勝負、ってやつか。で、メンバーは?」


 ・A班 インベントリ内探索班


  指揮官 如月 アマンダ

  助手1 石川 仁奈

  助手2 有坂 リリイ

  助手3 レベッカ・フレンズ


 ・B班 コキュートス調査班


  指揮官 榊原 郁

  助手1 永井 澪

  助手2 村雨 佳乃

  補 欠 朝霧 萌

  客員1 五十嵐 静流

  客員2 五十嵐 美千留(安全確認後に参加可能とする) 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なるほど、そう来たか。よし、準備期間にカードの内容を見直すぞ」


 静流は明日から、変身後の鎧及び技カードを吟味し、最適なカードデッキを組むつもりであった。

 すると、階段を上がってくる音がした後、ドアが開いた。バァン


「しず兄、予定どうなった?」

「美千留か。実際には八月一日から開始。美千留は安全確認後に参加OKだって」

「じゃあ、イイんだね? わぁい」ドサッ


 美千留は嬉しさの余り、ベッドに飛び込んだ。


「グェ、重いよ、退いて」

「明日からは何すんの?」

「いろいろとね。お前だって部活とかあるんだろ?」

「あるけど、優先順位はしず兄の方だもん」

「それに美千留さん、キミは来年、受験でしょ? 勉強は?」

「睦美が『任せろ』って言ってた」

「先輩に教えてもらうの?」

「チートを使うって」

「何ィ? 不正か?」

「ううん、特別推薦枠とってくれるって」

「推薦って……あのな、ペーパーは無くっても、面接とかあるんだぞ?」

「問題無いって睦美が言ってた」


 美千留はそう言って静流のベッドでマンガを読み始めた。


「一体何を企んでいるんだ? 睦美先輩は……」




          ◆ ◆ ◆ ◆




校長室―― ほぼ同時刻


 校長室では、睦美が校長となにやら密談を交わしている。


「校長、頼んでいた件はどうにかなりそうか?」

「うむ。問題無い。ただし、アノ条件があっての事じゃが」

「そちらはぬかりなく」

「あとは、軍と警察にも折り合いをつけねばならんのう」

「その際は、校長の手腕が試される時ですね?」

「手厳しいのう、老人は労わるのが普通なのじゃが?」

「謙遜を。軍や警察には、コネがあるでしょうに」

「あまり借りを作りたくないのじゃが、仕方ないのう」

「頼みましたぞ、三船校長」


 三船という姓にピンと来た人は、大方それで合っていると思われる。 


「校長、この案件は、国家レベルゆえ、なにとぞ内密に」

「わかっておるわい」

「彼は近い将来、国家に影響を与えるほどの権能を獲得する事になるでしょう」

「しかし不憫じゃのう、若過ぎる。大体、『賢者』と呼ばれるレベルに到達するには、300年は費やすじゃろうて」

「何せ『伝説の英雄』の末裔ですから。今から友好な関係を築いておく事に異論は無いと思いますが?」

「正しい道に導く者がおらんとな。ワシなら出来ると思うがのう」

「考えておきます。校長、彼が『賢者』となったあかつきには、彼の思惑次第で国家が傾きかねないという事を、ゆめゆめお忘れなく」

「あまり出過ぎた真似をせんほうがエエ。『あの方たち』も黙ってはおらんじゃろうし」

「『元老院』ですか? まだ機能していたんですね?」

「うむ。今までは黙認しとったが、何か起こるのも時間の問題じゃろうて」

「こちらにはカードが揃っていますので、問題無いでしょう」

「お主、相当な策士よのう。末恐ろしや」

「お褒めに預かり光栄です、校長」

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