エピソード26-2

五十嵐宅 静流自室―― 次の日の午前


 静流は、自室でカードデッキを組んでいた。なぜか真琴と美千留もいた。


「先ずは鎧モードの整理だ。ええと、こんな感じかな?」


 鎧モード ダッシュ1 『百花繚乱』 汎用タイプ

      ダッシュ2 『一球入魂』 弓を使う ガンナー・スナイパータイプ

      ダッシュ3 『神出鬼没』 体術と幻術を使う アサシンタイプ

      ダッシュ4 『大胆不敵』 火力重視 パワータイプ

      ダッシュ5 『一騎当千』 広範囲に対応 オールレンジタイプ

      ダッシュ6 『容姿端麗』 ヒーラータイプ

      ダッシュ7 『眉目秀麗』 ヒーラータイプ(裏モード)


「『疾風迅雷』のスピードスター的な要素って、ダッシュ3に類似しているから鎧はボツにして、加速装置的な意味で技の方にするか」


 こうやって鎧モードの選別を行っていると、


「静流、良く使うのって結局、ダッシュ6と7でしょ?、他は技カードにすればイイんじゃない?」

「何勝手に減らしてんの? って言うか、6と7はヒーラーだから、戦闘には不向きだし」

「7人のチームならともかく、いちいちチェンジして戦う? だったら技を増やした方がイイじゃん」

「う、一理あるな。だったら、せめて汎用の1は残すべきだろ」

「じゃあ、ダッシュ1を『技のデパート』化して戦闘用に、それ以外を6と7でやるという事でイイんじゃない?」

「でも、忍者スタイルのしず兄も見てみたいな」

「真琴、モードとしては、残してもイイんじゃないかな。使用頻度は置いといて」

「まあ、確かに。アタシは7だけでもイイと思うんだけどね」

「見てくれだけよくてもなぁ、あの技、結構えげつないし」

「一瞬で無効化なんて、カッコイイじゃん」

「美千留、お前は実際に見てないからそんな事言えるんだよ」


 鎧モードの選定は、ほぼ終わったようだ。


「次は、技カードね?」

「今はこんなのが用意されてるんだけど」


『電光石火』……超速でひたすら斬りまくる。

『疾風迅雷』……加速 コンボとして使う

『疾風怒涛』……さらに加速 コンボとして使う

『一刀両断』……一太刀で真っ二つにする。

『我武者羅』……ただひたすら斬りまくる。

『百発百中』……弓や投てき武器に使用。命中率を上げる。

『明鏡止水』……感覚を研ぎ澄ます。索敵モード

『極楽浄土』……刀から放出される波動を浴びた者は、必ず昇天する。

『旭日昇天』……刀から放出される波動を浴びた者は、必ず昇天する。(裏モード)

『無病息災』……エクストラヒール級の回復技


「何か、ひたすら斬りまくるものが多いね?」

「鎧武者なんて、そんなもんだろう?」

「ねえ静流? 例えば『全知全能』とか『天下無敵』なんてのは、言ってみれば

『チート』の領域よね?」

「確かに。でもそれだと戦略級魔法に匹敵するクラスになるから、魔力の燃費が半端ないだろうね。成功率も下がると思う」

「そっかぁ、そう上手くいかないか」

「ねえしず兄、『昇天』って、『イク』ってこと?」


 そんな事を、ケロッとした顔で聞いて来る美千留。


「う、やっぱ教育上良くないよな、この設定。『昏倒』とか『失神』とかでもイイと思うんだけど」

「それじゃあサラさんが一生懸命考えた設定が、台無しになっちゃう気がする」

「ロディ、どう思う? この改変」


 静流は横に丸くなっている豹モードのロディに聞いた。


「はい静流様、今サーチした所、その改変ですと、エラーになると思われます」

「そんなに変わらないじゃないか」

「それはサラ様の作品に対する『想い』が影響しているのでしょう」

「そんなもんかね? まあ、使う頻度も少ないだろうし」

「そうかなぁ? 一番人気だと思うわよ?特に7はね」

「そんなの実際使ってみなきゃわかんないよ。ゴーレムじゃなくて」

「しず兄のエッチ!」


 美千留は静流に軽蔑の眼差し送った。


「だろ?だから、昇天以外の技を考えてたんじゃないか」

「まあ、そうは言っても実際の戦闘には使えるかどうか」


 真琴は実用性を考慮した場合を想定し、ため息混じりにそう言った。


「鎧の耐久性なら申し分ないよ。軍のボディアーマーがベースだから、防弾・防火だし」


「そうじゃなくって、今どき刀で斬り合うって事が稀ってことよ」

「くぅっ、イタいとこ突くなぁ」


 現代の戦闘で白兵戦となるケースは稀であり、攻撃魔法や最低でも拳銃を用いたものがほとんどであ

る。


「飛び道具は今のところ弓だけか。光線銃でも持たすか」

「その辺の設定は後輩ズにやってもらえば?」

「そうだな、あの子たち、手伝いたがってたからなぁ」




          ◆ ◆ ◆ ◆




JR国分尼寺駅付近 ファミレス『ジョナタン』―― 正午


 静流は、真琴と美千留、それにシズムに変身させたロディを連れ、後輩ズの荒木メメと姫野ノノに、技カードの開発を手伝ってもらう事にした。

 静流は入ってきて早々、トイレに立った。


「ムハァ。シズムンも来てくれたんだ」

「絶妙なバランスだよね。一度解剖させてくれない?」


 後輩ズはシズムにいつもながら無理な要求をしている。


「ボクの中身、そんなに見たいの?」

「見たい! です」ハァハァ


 後輩ズはシズムの意外な返答に、期待が膨らんでいる。


「じゃあ、はい、これ」

「何かな? ブッ、こ、これはもしや……」 

「ボクの中身だよ? イイでしょ」 


 シズムが渡したのは、以前白黒ミサに撮られたボンテージ姿の生写真だった。


「くはぁ、たまらんなぁ」

「さ、最高です」

「うひゃあ、シズムっていつもそんなもの持ち歩いてるの? ダメだよ、捕まるよ?」


 美千留が呆れた顔でそう言った。


「そうよ、女を安売りしちゃあダメ」


 真琴もその件については賛成だった。


「やあ、お待たせってあれ?何かあった?」


 静流がトイレから戻ってくると、後輩ズの顔が湯気が立ちそうな勢いで真っ赤になっている。


「まあ、イイや。キミたちに来てもらったのは、他でもない」


 後輩ズが何故かやる気になっているのを、静流は不思議がりながら説明した。


「先輩、それで、新技のカードはどんな感じにします?」ハァハァ


 メメは興奮気味に言った。


「うん。今の技って、刀で斬りまくるものが多くて、飛び道具は弓だけなんだよ」

「でも刀で波動を飛ばす技、ありますよね? ダッシュ6と7、ですか? アレは秀悦ですね」ハァハァ


 ノノは冷静に答えたつもりだがまだ興奮している。


「まあ、斬撃を飛ばすのもアリですな。『真空斬り』!みたいな」

「そうなんだけどね。武器にもひと工夫欲しいかなって」


 静流は現代の戦闘を考慮した武器のアイデアは無いかと聞いてみる。


「時代的に鉄砲を持たせても、イメージは壊れないと思うの」


 真琴は先程静流と話した事を、後輩ズに説明した。


「そうですね。やはり『銃』ではなく『鉄砲』なんですよね、イメージは」


 二人は話し合いながら、いくつかの案を提示した。


「そうですね、思い付くとしたら、近距離用に散弾が打ち出せる単筒タイプ、長距離用に種子島タイプという所でしょうかね?」

「種子島タイプなどは、銃剣を着ければ槍同様の使い方も出来ますよね?」

「うん、悪くないかも」

「ちょっと時間下されば、技カード作りますよ?」

「ホント? それは助かる」


 ある業界では知らないものはいないと言われる「荒木・姫野コンビ」にかかれば、技カードなど造作も

ないようだ。


「出来ましたよ! こんな感じでどうでしょう?」


 『起死回生』奥の手。単筒に散弾を仕込ませたもの。

 『先手必勝』誰にも気付かれずに狙撃を行える。

 『紫電一閃』単筒の早打ちモード。


「一応ダッシュ1用ですが、2にも使えそうですね。的を射る事に特化しているので」

「いいじゃん。これなら鎧とマッチしそうだ」

「あと、これは参考に。昔の軍隊で試作されていたものらしくって、アメリカ軍ではコードネーム『ガンソード』と呼んでいたとか」


 ノノが見せたのは、刀の柄に拳銃を仕込ませているものであった。


「確かに興味深いね、軍の人に聞いてみるよ。ありがとう! やっぱキミたちに相談して良かった」ニパァ



「「ふぁうぅん」」



「久しぶりです……この感覚」

「くはぁぁぁ、幸せ」


 後輩ズは、久々に浴びた「ハニカミフラッシュ」に酔っていた。

 静流は出来上がったカードを嬉しそうに眺めている。


「あのぅ、五十嵐先輩? 報酬、というかなんというか……なんですけど」

「うん、僕が出来る事だったら、何でも言ってよ」

「ち、ちょっと静流? この子たちったら何言い出すかわからないでしょ?」

「私たちにも、アレ、下さいよ」


 そう言って二人は、それぞれ自分の首の辺りを指した。


「ああ、コレ?」

 静流は自分用のショッキングピンクの勾玉を見せた。


「うわぁ、キレイ!」

「こ、コレでお願い、します」ハァハァ

「え? でも色はあげる人の髪の色って決めてるんだけどな」

「そうよ! アタシだってピンクが良かったんだから」


 真琴は正直に答えた。


「そうなの? じゃあ全部ピンクで作れば良かったのかなぁ?」


 今まで何色作って来たのだろうと思い返している静流。


「フフン。先輩たち? そんなにイイかなぁ、コレ」チラッ


 美千留はこれでもかと、自分の勾玉を見せた。当然静流と同じ、ショッキングピンクである。


「ぐうっ! まぶし過ぎる! 美千留ちゃん、また一段と綺麗になったね?」


 後輩ズは、美千留と勾玉のコンボを浴び、目がくらんでいた。


「ピンクの勾玉は、やはり着ける資格のある者しか着けてはイケナイ気がします」

「という事で、色はお任せします。出来ればシズルカ様とダッシュ6と7の生写真もお願いします」

「オッケー、承りました。期待して待ってて?」

「はい、お待ちしています、いつまでも」ムフゥ

(わたしたちもコレで、『選ばれし者』の一員となれるのかしら。ヌフフ)


 二人は顔を見合わせ、恍惚の表情を浮かべた。

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