第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード25

五十嵐宅―― 次の日の朝


「じゃあ、行って来ます!」  

「行ってまいりまぁす、奥様ぁ」


 静流とロディは元気良く家を飛び出した。


「行ってらっしゃい。 まあ、奥様だって。ムフ」


 母親は満更でもないようだ。


「シズムのときは、奥様じゃないほうがイイな」

「じゃあ、なんて呼べばイイ?」

「そうだな、ミミ伯母様とか」

「わかった」


 二人の掛け合いに真琴が割り込んで来た。


「おはよ、静流」

「オス、真琴」

「夕べは、ありがとう」

「え? ああ、イイって事。真琴にはお世話になってますから」ぺこり

「そんな、改まって言われると、照れるじゃない、バカ」

「結局どっちに転んでもバカ呼ばわりなんだよな。僕って」

「静流クンはマコちゃんの事、好きぃ?」


 シズムがいきなりそんな事を聞いて来た。


「べ、別に? 真琴は『家族』みたいなもんだし」

「何よその回答、零点!」


 顔を赤くした真琴は、引きつりながらそう言った。


「早く、バスが来ちゃうよ」


 静流も顔を赤くして、はや足でバス停に向かって歩いて行く。


「二人はアツアツなのかなぁ?」


 シズムは二人の顔を交互に覗き込んだ。


「おいロディ、そんな仕草、インプットした覚え無いぞ?」


 静流は照れながら、ロディに聞いた。


「夕べ、美千留ちゃんの部屋で読んだの。少女マンガ」

「あいつめぇ、余計な事を」

「でも、結構自然だったよ? この感じなら、大丈夫かも」


 真琴は上を見ながら頬を搔き、つぶやいた。

 バスに乗り、移動中に静流がこんな事をつぶやいた。


「少女マンガって、いったい何読ませたんだろ?」

「えっとね、『飴ちゃん・飴ちゃん』でしょ? あと『マスタード・ボーイ』とか」

「いきなりドギツイの読ませたわね、美千留ちゃん」

「私はね、『アルバルトさん』が好きかな。美千留ちゃんは『エライザ』が好きみたい」

「うぇ? あのイジワルな娘だろ?エライザって」

「シズムって、ヒゲを伸ばした人が好きなの?」

「ううん、お金持ち」

「そう来たかぁ」


 そうこうしている間に、バスは高校の前に停まった。プシュー

 バスを降り、三人は校門に差し掛かる。すると、しゅたっ

 三人の前に影が三人降り立ち、片膝を突いている。


「おはようございます、静流様」

「お、おはよう、どうしたの?朝から」

「殿下がお呼びです、静流様」

「え? 何事?」

「お礼を申したい、そうです」

「お礼? アレの事かなぁ?」

「そうです、コレの事です!」バッ


 影の三人は、首に掛けたブラックパールの勾玉のペンダントを見せた。


「静流様……何とお優しい。この影めらにもこのような施しを」


 影の一人は目を潤ませて、そう言った。


「まさに至高の喜び! ありがたき幸せ」


 二人目が興奮気味に礼を言う。


「シズルン、大事にするね!」ニパ


 イチカは満面の笑みを浮かべ、ウインクをした。


「そ、それって、もしや」


 真琴は自分の首に掛かっている勾玉を見た。


「あ、真琴ももらったんだ。それ」


 真琴がフリーズしていると、静流たちに声を掛けてきた者がいた。


「やあ、静流キュン、驚いたよ。今朝下駄箱にコレが!」


 睦美が見せたのは、睦美の髪色と同じ、ワインレッドの勾玉だった。


「【鑑定】で見させてもらったが、とんでもない代物だぞ? 本当にもらってもイイのかい?」

「ええ。いつもお世話になってますから、ほんの『気持ち』ですよ」

「ほんの『気持ち』で【絶対障壁】は迂闊だろう。他にも翻訳機能とか盛りだくさんだぞ? 静流キュン」

「あ、でも障壁は一回きりですから、過信しないで下さいね?」

「フフン、わかったよ。ではごきげんよう」バサッ


 上機嫌の睦美と影たちは校内に入っていった。


「静流ぅ、どういう事?」プルプル


 真琴は、小刻みに震えながら、静流の回答を待っている。


「だから言ったじゃん、『お世話になったお礼』って」

「お世話になった、全ての人にあげたって事?」

「そうだよ。何だと思ったの? 真琴」

「もう知らない、フン!」ドスドスドス


 そう言うと真琴は、大股で校内に入っていった。


「何だよもう、そんなに怒らなくてもイイじゃんか」

「静流クンは乙女心、わかんないもんね?」

「シズムはわかるの?」

「モチロン、わかんない」

「ですよねー」



          ◆ ◆ ◆ ◆




黒魔術同好会部室―― 放課後


「五十嵐クン、ちょっと見ないうちに、成長した?」


 図書室司書の木ノ実ネネは、静流を見て、そう言った。


「確かに魔力レベルは3になりましたけど、そんなに実感無いですよ?」

「向こうでいろいろあったのね。経験値が溜まったのよ」

「RPGみたいな表現ですね? それ」


 静流は、先生に要点を説明し、『ゲート』と『パス』について尋ねた。


「そう。もうそんな事まで知ってるのね?」

「『ゲート』と『パス』ってどう違うんですか?」

「そうね、簡単に説明すると、『パス』は一方通行、『ゲート』は相互通行って事」

「つまり、『パス』では向こうには行けないと?」

「そう言う事。ただ、『パス』の源流を辿れば、あちらの位置がわかるかもしれないわね」

「黒魔の部室のロッカーは、『パス』が繋がっているって事らしいですが?」

「行ってみましょう。何かわかるかもしれない」


 先生は静流の他、シズムと何故か真琴を連れて「黒魔」の部室を訪ねた。


「いらっしゃませ、静流様」ザッ


 入るなり、部員全員がゴールを決めた時のビスマルクのように、片膝を突いた。


「そんなにかしこまらないで下さいよ」

「いえ、静流様にはいつもお世話になっておりますゆえ」


 黒ミサはうやうやしく頭を下げた。


「ああ、アレの事ですか……」

「その上、このような物を頂き、恐悦至極にございます」


 黒ミサと白ミサは、それぞれの首に下がったペンダントを見せた。二人の髪色に合わせた、カナリアイエローの勾玉だった。


「あのぅ、ほんの『気持ち』ですからね? 真に受けない方がイイですよ」

「ああ、罪な人だ、静流様は」

「何とお優しい……素敵です」


 静流は頭を抱え、「ダメだこりゃあ」と心の中で叫んだ。


「チッ あの人たちにもあげたの?」


 真琴は舌打ちをした。


「せんぱぁい、ズルいですよぉ」

「わたしたちにも、下さいよぉ」


 横からヌッと荒木・姫野コンビが現れた。


「うわ、メメ君にノノ君、ゴメン、作ってなかった」

「真琴先輩はもらったんですよね? アレ」

「も、もらった、わよ?」


 真琴は首に掛かったペンダントを後輩ズに見せた。


「うわぁ、キレイ」

「イイなぁ、真琴先輩」

「そ、そお? 悪いわね? 年季が違うのよ、年季が」


 真琴は自慢げに勾玉を見せた。


「それと五十嵐先輩? サラ・リーマンに『戦国バカラ』の設定、やらせたみたいじゃないですか!」

「そうですよ! SF美少年モノは、わたしたちコンビでやるって決まりがあるんですよ?」

「知らなかったんだよ、でも、結構イイ線行ってるだろ?」

「まあ、良過ぎなくらい、イイ出来ですけど」プゥ


 メメは不本意ながら、サラの実力を認め、ふてくされた。


「アレってトレーディングカードにするんですか?」


 ノノはカードに興味があるようだ。


「要望はあるみたい。その時は手伝ってくれないかな?」

「もちろんですよ。あと、わたしたちの企画書も見て下さいよ?」

「向こうが『戦国時代』だったら、ウチは『三国志』で無双しますから」フーフー

「三国志か。ことわざとかの技コマンドが難しそうだな。麻雀の役とかで何とかできないかなぁ?」

「ナイスです、先輩! 考えときます!」


 後輩ズは興奮しながら、今後の展開を語り合っている。

 イラついた先生は、早く本題に入るよう促した。


「そう言う茶番はイイから、ロッカーの件、説明してもらうわよ」

「ははっ、ネネ先生。こちらにございます」


 先生たちをロッカーの前に連れて来た。


「これね? 開けるわよ?」カチャ


 ロッカーを開ける。見た感じ、何もない。


「何も無いじゃない、アンタたち?」

「で、ですから、最近ぱたっと来なくなったんですよ」

「静流、この感じ、微力だけど、魔力よ」


 不可視化を解いたオシリスは、ロッカーにあった『パス』の残滓を捉えた。


「アナタが自律思考型のゴーレムね?」

「そうだけど、何か?」

「中身は風の精霊『オシリス』で合ってるかしら?」

「私を知ってるの? アナタ」

「書物で読んだ事があってね、精霊族長老の従者だったんでしょ?」

「フン、そんな昔の事、忘れたわ。今は静流がマイマスターなの」

「で、残滓ってことは、パスは破られたって事? 修復出来るの?」

「これじゃあ修復は難しいわね。ちょっと失礼?」


 オシリスはある一転に集中した。


「静流、伯母さんと繋がったわ、すぐ出て!」


「わかった」


 オシリスに言われ、念話を始める静流。


〔伯母さん、聞こえる?〕

〔静流? 静流なの?〕ザザ

〔ちょっとノイズが多いな、伯母さん、今どこ?〕

〔どこって、説明が難しいわね〕

〔実は、僕もそっちに用があるんだ〕

〔静流が? ここに?〕

〔ワタルの塔に行かなきゃいけないんだ〕

〔あそこに!? まだ早いわよ〕

〔僕のインベントリ利用権限を、ランク2にしたいんだ〕

〔塔の管理者登録を仮で行おうと言うの?〕

〔そうらしい、3階層に行くみたい〕

〔だとすると、少し厄介ね。2階層までは私や薫でも行けるけど、3階層は……〕ザザ

〔またノイズが、とにかく、どうやって塔まで行けばイイの?〕

〔学園の『ドラゴン寮』を調べなさい、あと、【復元】が使える人を連れて行くのよ、わかった?〕

〔わかった、ありがとう!〕

〔静流、気を付けなさい、待ってるわ〕ザザザ、ブチ


 念話が終わった。


「オシリス、録音出来てる?」

「バッチリよ! 今再生するわ」


 今録音したものをみんなに聞かせた。


「モモ、無事だったのね。精霊オシリス、残滓は?」

「今の通信で使い切ったわ。これはもうただの箱」

「そう。五十嵐クン、【復元】が使える人って心当たりは?」

「無いです。アレって結構レアだったりします?」

「ええ。『超激レア』よ」

「うひゃあ、早くも詰んだか」


 静流は頭を抱えた。


「警察か、軍のデータベースだったら、探せるかもしれないわね」

「軍に知り合いがいますんで、頼んでみます」


 静流は、佳乃に念話を掛けた。


〔佳乃さん、僕ですけど〕

〔その声は、『ボクボク詐欺』ではないようでありますね?〕

〔もう、やだなあ、冗談キツイですよ〕

〔ハハハ。で、どうされたでありますか? 静流様〕

〔すいません佳乃さん、軍のデータベースって、閲覧する事出来ます?〕

〔セキュリティレベル次第ですが、何か?〕

〔ちょっと貸して! 静流クン、静流クンね?〕

〔ミオ姉なの?〕

〔無事に家に帰れたの? 心配したんだから〕

〔澪殿? 今は自分と話しているのであります! 邪魔しないで欲しいであります!〕

〔んもう、ウザいな! で、何の用なの? 静流クン?〕

〔だから、今は自分とって、もう……〕

〔軍のデータベースで、【復元】が使える人を探してほしいんですよ〕

〔何だ、そんな事か〕

〔心当たり、あるんですか?〕

〔あるも何も、ウチの隊長だもん〕

〔ええーっ!〕


 そのあと事情を話して、榊原中尉に夏休みに行う『インベントリ内探索ミッション』の参加依頼を、キサラギ技術大佐から出してもらう事になった。


「意外とあっさり見つかったわね」

「よーし、これでミッションが遂行できるぞ!」

「インベントリか。実に興味深いわね」

「ひと段落したら、皆さんを招待しますよ」


 そのあとは白黒ミサがシズムに、ステージ衣装をとっかえひっかえ着替えさせたりしてお開きになった。




          ◆ ◆ ◆ ◆




 学校を出て、バス停に向かう3人。


「案外、何とかなるもんだな」

「人脈って大事よね」

「仰る通りです。真琴さん」

「何よ、気持ち悪い」

「バラ撒き過ぎたかな、コレ」


 静流は自分用に作ったショッキングピンクの勾玉を見せた。


「うわぁ、メチャ綺麗じゃん。欲しい!」

「ダメだよ、これは変身するときのキーアイテムなんだから」

「ケチ。でも、アンタらしいし、良かったんじゃない? みんな喜んでたよ」

「真琴も?」

「う、うん。勿論」

「そっか。なら作った甲斐があったな」

「ねえ静流、あの勾玉、もう少し付与のレベル下げて、量産したらどうかな?」

「真琴、お前もそっちのクチか?」

「だって、欲しい人、もっといると思うの」

「お前、商才あったりしてな」

「な、バカにしてるの? もう」


 近い将来、大ヒット商品になる事を、二人は知らない。

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