エピソード13

学園 校舎―― 滞在11日目 午後


 除幕式から一週間が過ぎ、学園での生活もあと4日となった。

 その間の日々は少なからず刺激的で退屈しないものであった。


「あれから一週間か。平和になったもんだ」


 保健のカチュア先生の調べによると、「通常モード」の施術では何故か

 効果が薄く、「女神モード」中の視覚効果が伴わないと完全に発動出来ないらしい。

 学園に影響を及ぼす可能性を考慮し、職員会議の末にシズムは学校行事以外

「女神モード」に変身してはならないことになった。


「もう一生分女の子のおっぱい揉んだよね?」 


 アンナは両手を前に出し、わしゃわしゃした。


「もう、勘弁してよね?」


 そう言ってシズムは顔が真っ赤に染まった。


「あの、すいません、シズム様はこちらに?」


 見慣れない生徒が入り口でシズムの所在を確認していた。


「へ? 私ですか?」

「きゃあ、本物?」

「何ですか?あなた、一年が何の用?」


 ヨーコは下級生にちょっとキツ目にあたった。


「何その塩対応? ぼ、私に何か用かな?」


 いまだに自分を「僕」と言いそうになる。いっその事「ボクっ娘」で通せばよかったのに。


「あの……サイン下さい!」


 そういって下級生は「薄っぺらい本」を差し出した。


『ああっ戦乙女神さまっ』

「全然ひねりが無い! つまらない! ボツ!」


 久々に突っ込んでみたシズム


「ひっ……すいません」

「あのね? これはね? 私じゃないの。わかる? 二次創作ってやつ」

「え?でも……実物ですよね?」

「アレはコスプレなの!」


 シズムは半ギレ状態だった。


「してあげたら?サインくらい」


 アンナは薄っぺらい本を見ながらそう言った。


「ん?確かに内容はまともだな。私の偏見だったか」


 薄っぺらい本はロクなものではないとシズムは決めつけていたのかも知れない。


「これ、サラの作品よ。なかなか良く描けてるじゃない」


 ナギサは作品を褒めていた。


「ちょっとサラ、コレってアンタの作品なの?」


 アンナはサラに薄っぺらい本を見せた。


「うぇ? 何でコレがもう製本までされてるの?」

「どういう事?」

「まだそのイラストは途中……なの」

「え? この構図にあと何が足りないと?」

「……シズル様」

「は? なんでぼ、シズル君なの?」

「それは、女神様とシズル様が交わるというか……ポッ」


 サラはそう言いながら顔が赤くなっていく。


「やっぱそうなるのね……ちょっとがっかり」

「やっぱりダメ……ですかぁ?」


 下級生は上目遣いでシズムを見た。


「あーもうわかったわよ! 書きゃあイイんでしょ? 書きゃあ!」


 シズムはペラペラとめくった中にあった、女神が勇ましく立っている絵をチョイスした。


「えーっと、誰さんだっけ?」

「私、アリスと言います」

「アリスさんへと。『戦乙女神 シズルカ』っと、コレでイイかしら?」

「ありがとうございます!大事にしますね?」


 アリスという下級生は薄っぺらい本を抱き、スキップをしながら去っていった。


「あ、日本語でサインしちゃったけど、良かったのかな?」

「イイんじゃない?喜んでたみたいだし」

「ちょっとシズム、あなたには良くないニュースかもね」


 ナギサはタブレットを操作し、皆に見せてくれた。


「あれ?この動画って、体育館の変身シーンだ。」

「ノーマル乙女神からの変身だから、シズム自体はセーフだけど」

「まあ、再生数なんてたかが知れてるだろうって、うわ……100万回?」

「動画の下に何か書いてあるよ」



 戦乙女神 シズルカは、愛の戦士である! 


 たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体。

 鉄の悪魔を叩いて砕く、シズルカがやらねば誰がやる!


 人々の愛と平和のために、


      響け!シズルカ!

      叩け!シズルカ!

      砕け!シズルカ!


 明日のために、


      打つべし! 打つべし! 打つべし!




「何じゃこりゃ! 特撮ヒーローじゃないっての!」

「サイン貰いに来た子って、これ見て欲しがる奴に転売する気じゃ……」

「そうじゃないことを祈りたいね」


 その後、サイン入りの薄っぺらい本が高値で取引されたとかされないとか。


「ちょっと先輩に相談してみるか?」


〈睦美先輩、聞こえますか?〉

〈お、静流キュン!どないしたん?〉

〈カナメ先輩、実はですね、除幕式の時の動画がサイトにアップされてるんですけど〉

〈ああ、アレか。黒ミサたちの仕業や〉

〈はぁ、やっぱり〉

〈あいつらにはシズムという謎キャラがショーまがいの事をやっとると思ったんやろな〉

〈「ご利益」の件もですか?〉

〈あ、アレはな、スマン、実はオレなんや〉

〈先輩が?何でまたそんな事を〉

〈それはな……キミのためや!〉

〈僕のため、ですか?〉

〈女体の神秘や。静流キュンはその性質から、女子とのスキンシップが絶望的に足らん〉

〈だからって、アレは無いでしょう?〉

〈あそこまで騒ぎが大きゅうなるとは思わんかった。ホンマにスマンかった〉

〈まぁ、達也とか巷の若い男子がコーフンする理由? がわかったのは良かったですかね〉

〈さよか。「柔肌の熱き血潮に」何とやらってな〉

〈まあ、よくわからないですけど、対策の方、お願いしますって睦美先輩にも言っといて下さいね〉

〈了解。ほなな〉ブチッ



「ふう、やっぱりあの人達か……」

「黒魔の本部長の仕業ですか?」

「そうらしい。アッチに帰ってからの事は先輩たちに任せるとして、問題は……」


「シズルカ様のサイン貰えるとこってココですか?」ざわ… ざわ…

「来たぁぁぁ!」

「はいはい、何ですか? この騒ぎは?」


 ニニちゃん先生が入ってきた。


「皆さんご自分の教室に戻りなさい! 早く!」

「ふぁーい」


 サインを求めて来た生徒たちはしぶしぶ去って行った。


「ミス・イガワ、あなたも災難ね」

「ニニちゃん先生。どうにかなりませんかね?」


 もはやこの呼び方にいちいち反応しなくなったニニ。


「学園としても、何か対策を講じないといけませんわね」

「だったら、学園公認のサイン入りブロマイドを作って売る……とか?」


 アンナは実に合理的な案を思いついた。


「なるほど。儲けは学園に入るようにすれば上の人たちも説得出来るかも知れないですね?」

「あと、動画は撮り直した方がイイと思いますよ。なんか盗撮っぽいですし」

「その辺りは映研にやってもらいますか」



学園 校舎―― 映像研究部 部室 放課後


 シズルカのPVを映研に作らせるため、部室に来たシズムたち。


「失礼します」

「やあ! キミか。学園のマドンナ」


 映研の部長は上機嫌だった。


「マドンナって、持ち上げ過ぎですって」

「先生から聞いてるよ。PVを作りたいって?」

「何だか、そうらしいです。」

「除幕式のアノところ、私も撮りたかったんだ!」

「じゃあ、お願いします」


 先生から連絡が来てすぐに演出担当が脚本を上げて来た。

 出演はシズムの他、演劇部から数人とアンナが選ばれた。


「へ?アタシですか?」

「セクシー枠は必要だろ?」

「はあ、確かに」



 脚本の内容はこうだった。


 村娘Aであるアンナが黒ずくめの何かにさらわれる。

 悲鳴を察知した神父が祈りを捧げる。

 礼拝堂の屋根が二つに割れ、桃色のオーラに包まれたノーマル乙女神が空を飛ぶ。

 敵のアジトにノーマル乙女神が到着。下っ端を【弱キュア連弾】で昏倒させる。

 ボスと遭遇し、シズルカに変身。

 ボスに必殺技(新技)をかます。

 ボスは浄化され、改心する。

 シズルカは村娘Aに【ヒール】を掛ける。

 一味はひざまずき、シズルカを拝む。

 夕日に向かってシズルカはとんでゆく。完



「これってアタシじゃなくても良くない?」

「アンナ君、キミは絵になる。是非とも頼む!」

「ジル神父は良く出る気になりましたね?」

「いや、ノリノリだったよ。二つ返事だった」

「そういえばアノ演出、神父に指導されたんだった」



          ◆ ◆ ◆ ◆



 撮影は無事に終わった。アンナがさらわれた際の、ダメージありの衣装について

 露出が多過ぎると先生からクレームが入ったり、神父の演技をもっとナチュラル

 にしろと横やりが入る等のアクシデントはあったが、概ね監督である部長の思惑

 通りの結果となった。


「後はCG班にエフェクトを追加させて、軽音楽部にBGMを作らせる」

「えらい本格的ですね?」

「期待したまえ?初号が出来たらお見せするよ」





学園 校舎―― 二日後 視聴覚室 放課後


 シズルカのPVの初号がアップしたとのことで、アンナを除くシズム一行は視聴覚室に出向いた。


「やあ、待っていたよ!シズム君」

「出来はどうですか? 部長」

「もうバッチリ。かなりの自信作だよ!早速見てくれ」


 部屋を暗くする。スクリーンに映研のマークが映し出される。

 とある農村に、一人の少女がいた。


「るんるるーん、今日の晩御飯は何だべなぁ?」

「大人しくしな!」「きゃっ」


 村娘は山賊Aに後ろからクロロホルムをかがされ、気を失ってしまう。


「ええチチしとるやんけ」ムニュゥ「くぅ、ん」


 山賊Aは服をはぎ、その手は次第に下の方へ


「どや?エエか?エエかぁ?」

「あふぅ、ら、らめぇぇぇぇぇぇ!」

 

 スラッシュが入り、場面切替 礼拝堂。


「女神様、皆が健やかでありますように、どうかお見守り下さい……ん!?」


 何かを察知した神父。


「鳴いている。どこかで迷える子羊がイイ声で鳴いている。女神よ!今こそ御身を顕現せり!!」   

     

 ゴゴゴゴ…… 礼拝堂の屋根が二つに割れる。中から桃色の物体が空に飛び上がる。


 シュゴゴゴー


 桃色のオーラに包まれて、ノーマル乙女神は猛スピードで飛んでいる。


 山賊のアジトに山賊Bたちが数人で村娘を辱めている。


「おい、アタイのも吸え!」「ムグゥ」

「ボス、あれ何でしょう?」


 山賊Cは空の向こうを指す。桃色のオーラに包まれた物体が迫ってくる。

 山賊たちの前に現れたのは、ノーマル乙女神であった。


「何だいお前は! ん?なかなかエエ体つきしとるやないか?」

「お前たちか? 村娘を凌辱せしめんとするやからは!」

「だったら何だってんだよ!お前も混ざりたいんか?やっておしまい!」

「よお、姉ちゃん、イイもの持ってるなぁ」


「問答無用! 【弱キュア連弾】パパパパパッ」



「「「ふぁふぅぅぅぅん」」」バタバタバタッ



「お前!ワタシの部下たちをよくも!」


 ノーマル乙女神は目を閉じ、精神統一の後、ぱっと目を開く。

 腰にベルトがあるような仕草から、腕を振って風を腰のベルト付近に送るような動作を行う。



 【セターップ!】と叫んで上にジャンプ。



 桃色のオーラに包まれ、最終形態となる。


「何なんだい、お前は!」


 ボスが動揺しながら叫ぶ。



「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと我を呼ぶ。愛の戦士、戦乙女神シズルカ!只今参上!」



「こしゃくなやつめ!毒霧!」ブッ


 ボスは毒霧を吐いたが、シズルカは簡単によけた。


「己の悪行三昧、悔い改めるが良い。【エクストラヒール】!!」カッ!


 シズルカは両手に淡い虹色の霧をまとった。



「きゃるるるるぅぅぅぅぅん!」



 ボスはヘナヘナとその場にくずおれた。

 シズルカは倒れている村娘の所へ行き、起こしてやる。


「あんれまぁ、わだすったらこんな格好で」ポッ


 村娘は自分の格好に赤面してしまう。


「案ずるでない。【レストレーション】!」パッ


 ボロボロだった服が元に戻った。


「女神様ぁ……ありがたやぁ、ありがたやぁ」


 村娘をはじめ、いつの間にかボスを含め何者かたちが膝をつき、拝んでいる。


「良きかな、良きかな。 とうっ!」


 シズルカはうなずき、空に向かってジャンプした。

 シズルカは夕日に向かって飛んでいく……。



人々の愛と平和のために、シズルカがやらねば誰がやる!


      響け!シズルカ!

      叩け!シズルカ!

      砕け!シズルカ!



        FIN



 照明が点いた。


「どうだった?諸君!」

「「「ボツ」」」


 シズムをはじめ全員が手をペケにしている。


「え?どこが悪かったの?」


 部長はキョトンとしている。


「アンナがエロ担当なのは仕方ないけど、やりすぎ!」

「モザイク入れなきゃダメなレベル!」

「神父がウザい!」

「技術班はグッジョブ!」

「アンナが試写に来たがらなかった理由、今わかったよ」


 結局いかがわしい場面が大幅にカットされたショートバージョンが採用された。

 と同時に、無修正のディレクターズカット版が闇で取引されたとかされてないとか。

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