エピソード12-3

 大浴場―― 夜


 食堂で夕食を済ませる。食堂でも「施術」をせがまれたが、丁重にお断りした。

 とうとう入浴時間が来てしまった。ヨーコは苦肉の策で「プランB」を選択した。

 入浴時間の終了間際に入り、寮長たちと入ることにより、生徒たちからブロックする策である。

 脱衣所の引き戸を開ける ガラッ

 脱衣所にはまだ生徒がごった返していた。


「シズムちゃん、遅いよぉ!」

「よっ! 待ってました! 女神様!」


 大半の生徒は諦めて帰ったようだが、しぶとく待っていた連中もいた。


「どうしよう、ヨーコ」

「しょうがない、やってあげたら? この位の人数なら『連弾』でイケるでしょ?」

「わかったよ……」


 シズムはあのポーズをとった。案外気に入っているようだ。

 ご丁寧に初期女神から変身する。



【セターップ!】パァァァ



 変身完了。するとアンナが、


「ハイハイ、並んで。じゃあ、一斉に『御開帳!!』」


 周りの生徒が一斉にバスタオルを取った。 パサッ


「ブッ!そ、それでは施術を始めます……【弱キュア】」ポッ


 とっとと終わらそうと連弾の構えをとろうとした時、


「女神様ぁ、ちゃぁんと一人ずつ、お願ぁい♡」


「そうですよ! 直接受け取らないと、効果が半減しちゃうかもですし」


 やはりそう来たか。


「ええい!こうなりゃヤケだ!」


 覚悟を決めたシズムは、両手に淡い桃色の霧をまとった。


「最初はあなた!はい、失礼」プニィィ

(うわぁ、モロに触っちゃった、ヤバい)

「ふぁうぅぅん」シュゥゥゥ


「はい、次の方」ムニュゥゥ

「あぁぁぁぁん」シュゥゥゥ


「はい、次の方」フニュゥ

「くぅぅぅぅん」シュゥゥゥ


「はい、次の方」パフゥゥ

「きゃぅぅぅん」シュゥゥゥ


 シズムはもういちいちドキドキしている余裕は無いため、瞑想モードで淡々と施術をこなしていく。

 アンナが誘導を手伝い、ヨーコは施術が終わった生徒をロッカーに連れていく。

 そろそろ列が最後尾になろうとしたその時、


「何ですか? この騒ぎは!」


 寮長が入ってきた。次いでムム・ニニ両先生に加え、カチュア先生まで入って来た。


「女神様のご加護を頂いておりまする」


 アンナが冷や汗をかきながらそう言った。


「もうすぐ入浴時間が終わりますよ、さっさと出る支度しなさい!」


「「「はい!」」」 


 まだ数人残っていたが、仕方ないと諦めて出て行った。

 またたく間にに施術目当ての生徒たちが全て去った。


「ふう、これでお風呂に入れるわ」


 シズムが変身を解除しようとしたその時、


「待ちなさい!いえ、お待ちください、女神様」


 寮長が顔をほのかに赤くして、ひざまずいた。


「な、何ですか?寮長先生?」

「わたくしにも、ご加護を賜りたく存じます」

「寮長先生 ?大丈夫ですか?」

「私は大真面目です!さあ、早く!」 バッ!


 寮長はそう告げると、いきなり前をはだけた。


「ゴフッ! わかりました、行きます……【弱キュア】ポッ」


 シズムは、両手に淡い桃色の霧をまとった。


「寮長先生、失礼します!」モミュュュ

「ぐはぁぁぁぁ」シュゥゥゥ


 寮長はぺたんとくずおれた。桃色のオーラが体内に吸収される。

 一呼吸置いて、ビシッと気を付けをした。


「何でしょう、この高揚感。腰の痛みも引いた。素晴らしい!」


 そう言って寮長は浴場へ向かって行った。


「早速、ご利益があったのかしら?」


 保健の先生がそう言った。


「だって、ただの【キュア】を1/10くらいに弱めただけですよ? 気のせいですよ」

「やっぱり、実際に味わう必要があるみたいね? 私にもやって頂戴」 ボインッ


 カチュア先生は何の迷いもなくシズムになまめかしい姿態を披露した。


「ブファッ! これはお見事……。行きます……【弱キュア】ポッ」


 シズムは鼻血が出ているのに気付いていない。両手に淡い桃色の霧をまとった。


「失礼します!」プニュゥゥゥ


「ふぁふぅぅぅぅん」シュゥゥゥ


 カチュア先生は後ろにのけ反った。桃色のオーラが体内に吸収される。

 一呼吸置いて、ゆっくりと口を開いた。


「こんな感じ、いつぶりかしら? この胸の高鳴り……ふぅ。まさかね。80年ぶりに……『濡れた』」


 カチュア先生は恍惚の表情を浮かべ、浴場へ消えていった。


「はいはい、もう終わり!シズム、鼻血出てるよ」


 ヨーコはシズムの首の後ろにトントンと手刀を入れた。


「アタシだって、あのくらいあるわよ?」


 アンナは何を張り合っているんだろうとシズムは首を傾げた。


「……ミス・イガワ、まだイイかしら?」

「ニニちゃん先生?」

「シズムさん、私にもやってもらえないかな?」

「まさかっムムちゃん先生も?」


「「早く、結婚したいのぉ!」」


 二人は懇願した。


「それは切実な悩みでしょうけど、こればっかりはなぁ……」

「こうなったら神にすがるしか、無いじゃない!」

「結婚できるんならどんな神様も信じるわぁ」

「そこ、色々とマズいんじゃないですか?」


「「お願ぁいぃぃぃ!」」


 両先生は少し恥じらいながらも均整の取れた姿態を披露した。


「ノークレームでお願いしますよ? 行きます……【弱キュア】ポッ」


 シズムは両手に淡い桃色の霧をまとった。


「失礼します!」プニィィィ

「失礼します!」パフゥゥゥ



「「ひゃうぅぅぅん」」シュゥゥゥ



 二人は同時に座り込んだ。桃色のオーラが体内に吸収されていく。


「ムム、私、婚活するわよ! フフッ」

「私だって、負けないんだから! ハハハ」


 二人は立ち上がり、肩を組んで浴場に消えていった。


「急に前向きになったわね?」

「暗示? 催眠か? 使った覚え無いんだけど」

「さぁ、とっととお風呂入っちゃおう」

 


アンドロメダ寮―― 白百合の間  夜 談話の時間 


 入浴後、談話の時間となった。


「最後の最後で予想だにしない結果になったね」

「まさか先生たちまで出てくるとは……誤算だったわ」

「でも、明日からこんな調子じゃ、体がもたないよぉ」

「そうね。明日、先生方に相談してみるか」


 とヨーコは呟いた。


「まさかとは思うけど、『夜這い』なんてないよね?」

「アンナが言いますか?それ」

「ごもっともで」


 ヨーコに指摘され、頭をかいているアンナがいた。



日本 立川宅―― 深夜


「いやあ、眼福、眼福や」

「生徒だけではなく、先生まで見れるとは……正に僥倖」


 先ほど迄今日のハレンチ動画をリプレイしていた二人。


「しかし、静流キュンはホンマに女神様なのと違うか?」

「暗示とかのたぐいかと思ったが、どうも違うらしい」

「【キュア】の1/10でハッピーに出来るんやったら、商売になるかもしれんな?」

「馬鹿者! それでは静流キュンが新興宗教の教祖になってしまう、そんなことは断じてならん!」

「冗談やて。せやかてこんな事が知れ渡ったら、静流キュン、狙われてまうのと違うか?」

「うむ、好かんな」

「とりあえず今のところ『井川シズム』に被ってもらうしかないやろ」

「そうだな、いつまでごまかせるか……」

「そういや、静流キュンからメール来とったな」

「伯母上殿の動画か……見てみるか」


 二人は静流が送ったモモとの会話をオシリスに録画させたものを再生した。

 随時モニターしていても、見落とすこともあるだろう。


「いやあ、丸々見落とすとは、失敬」

「こうして録画しといてくれたんやから結果オーライや」

 

 要約すると、モモは静流の母親ミミの双子の姉であること。

 モモは夫と息子と共に異世界に飛ばされた。

 モモの息子である「薫」は異世界で魔法剣士となり、薫を入れて四人のチームを作り、軍の厄介事とかを扱う仕事をしている。

 薫は軍の研究施設にいる「素体」を奪うというミッションに参加した。

 素体の強奪は成功したが、薫は素体を「薫子」という妹として育てた。

 薫子が16歳の時、暴走。時空の壁を破り、静流たちのいる世界に干渉した。

 その後世界の修復力が働いて、存在力が足りなくなった薫子を薫が連れ戻した。

 薫子は今、「嘆きの川コキュートス」で眠っている。

 薫子の自我が目覚める以前に静流と会っている。

 薫子は「刷り込み」による静流への執着から世界を渡ることを試み、失敗した。


「とまあこんな感じか。しかし薫子お姉様がねぇ?」

「在学中のお姉様は人に優しくて、思いやりのある方だったな」

「何で真っ先に静流キュンに会いに行かんかったんや?」

「わからない、お母上がフィルターを掛けて護ったとか?」

「ま、とにかくお姉様は異世界でお休み中ってことで、今は安全てことやろ?」

「うむ、そうだな……」


 こうして、波乱の除幕式は幕を閉じた。

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