エピソード11-6

アンドロメダ寮―― 白百合の間 夜 談話の時間~消灯


 風呂から上がり、寮の部屋に戻る。ふとドアの上を見ると「白百合の間」と読める。


「今更なんだけど、ここの部屋って『白百合の間』っていうんだね?」

「そう。本当に今更なんだけどね」

「そういえば、アンナは?」

「多分、下級生のところに行ってるんじゃないかな?『攻め専門』だから」

「う、やっぱりソッチの方だったのね?アンナさん」

「でも、殿方に興味が無いわけでもないみたい。『バイ』ってやつかも」

「うう、何でぼ、私の周りって、エッジの効いた人たちが集まるんだろう……」


 シズムは結構真剣に悩んでいる。石動を筆頭に、白黒ミサ、生徒会長、カナメそして睦美。

 いずれも「ノーマル」とは決して言えない連中ばかりだ。

 そんなことを考えていたら、人の気配を感じた。


 コンコン 「私よ、ヨーコ」


「来たわね?ナギサ」


 ヨーコはナギサを部屋に入れた。


「アンナはいないようね、好都合だわ」


 ナギサは鼻に詰め物をしている。


「ナギサさん、鼻血出したの?」

「大丈夫、それよりもあなたの方が心配」

「え?私? この通りピンピンしてるよ!」


 シズムは元気なアピールをしている。するとナギサはシズムの首辺りをつかみ、グイっと引っ張った。


「あ! そ、それは」


 ナギサがつかんだのは、オシリスだった。不可視モードが解除され、フェレットの姿になっている。


「なぁに? 朝なの?シズ……」

「このモンスター、話が出来るの?」

「うわぁ、ナギサさん、この子はぼ、私の使い魔なの!」

「これが?さっき浴場で禍々しい妖気を感じたの。あなたの首元で」

「でも、今は感じないでしょ?ほら」


 シズムは念話を始めた。


〈オシリス、今は僕に合わせてくれ。今の僕は『シズム』でお願い〉

〈わかったわ、シズム〉


「あれぇシズム、ここ、ドコ?」


 ナギサに首の後ろをつかまれている状態のオシリス。


「オシリス、ナギサさんにご挨拶は?」

「こんばんわ。わたし、シズムのパートナーのオシリスちゃんでーす。よろしくね♪」


 ナギサは眉間にしわを寄せ、プルプルと震えている。


「怒ってますぅ?やっぱり怒ってますぅ?」


 オシリスに危機が迫っていた。



「カ、カワイィィィイ!!」



 ナギサはクネクネと身をよじらせ、悶えている。


「へ?どういうこと?」


 オシリスは状況をまだ把握していない。


「シズム、この子はどこでテイムしたの?」


 テイムとは捕獲し、飼いならすことである。


「ん~とね、オシリスは代々ウチの使い魔をやっている『聖獣』なんだよ」


 シズムは適当な設定をでっち上げた。


「『聖獣』って、伝説の?」

「まあレアなカプセル怪獣みたいなものだよ」


 ナギサは意外と騙されやすい人かも知れない。


「いいなぁ、私も欲し~い!」クネクネ

「ナギサさん、キャラ崩壊してまっせ」


 聞いたところ、この学校では使い魔を持つことは必須ではないが、ナギサは特に使い魔に対して執着があるらしい。


「ねぇシズム、この子、今晩貸してくれない?」

「うーん、どうしようかなぁ、今夜一晩だったら貸してあげてもイイよ」

「わーい、やったぁ!」


 ナギサは子供みたいにオシリスを抱えクルクル回っている。


「ナギサがあんなにはしゃいでる所、いつぶりだろう……」

「一応確認するけど、『貸して』から『あげる』とかいうのは無しだからね?」

「そんな子供みたいな事、言うわけ無いじゃない」


 ナギサは頬を膨らませ、拗ねた。(プゥ)


「ナギサって第一印象とは全然違うわね。なんかカワイイ」


 シズムの心の声が漏れている。


「いいの?オシリスちゃんはあなたの守護とサポートが仕事なのよ?」


 少し引きつった顔のヨーコが最もなことを言った。


「大丈夫だよ。多分。あ、ナギサ、この子ってかなりシャイなの。だからみんなには内緒……ね?」

「わかったわ。約束する」


 ナギサはオシリスを連れルンルン気分で部屋を出て行った。


「ふぅ。偽装肉体はバレてないみたいだ。多分オシリスに『邪気』みたいなものを感じたのかな?」


「静流様はナギサみたいな『不思議ちゃん』タイプがお好みなの?」


 確かにミステリアスガールではある。


「え?特にそうゆうタイプとかは無いかなって……ヨーコさん?怒ってます?」

「もう、知りません!」


 そんなこんなで談話の時間が終わり、学習タイムのあと、消灯となった。シズムたちはパジャマに着替えている。


「シズム、明日は市内観光をしてそのあと国立公園に行くわよ。外出許可はとってあるから。(二人っきりで)」


「ムムちゃん先生は?」

「多分ニニちゃん先生と何かやってるんじゃない?」

「ニニちゃんって……随分フレンドリーになってるね?」

「さすがに面と向かっては……無理ね」

「さあ、早く寝ましょ♪」


 この部屋のベッドは3段。下からシズム、ヨーコ、アンナとした。

 一番下にしたのは、万一の場合にすぐ逃げられるようにという配慮である。


「アンナ、戻って来ないね。何かあったのかなぁ?」

「それは『ナニ』かあったんじゃない?ほっときなさい、いつもの事よ。寮長先生にバレなきゃいいんだけど」

「ヨーコさん……キミのベッドは上でしょ?」


 シズムは指で上を指した。


「消灯まで……こうしていたいの」

「ヨーコって、しっかり者に見えて結構甘えんぼさんなんだね?妹みたい」

「妹!? ちょっとショック……かも」


 そうこうしてるうちにパッと灯りが一斉に消えた。


「はぁぁあ、もうおしまいか……」


 ヨーコは残念がりながらしぶしぶ上のベッドに移った。


「お休み、ヨーコ」


 シズムは保護メガネを取り、例のアイマスクを付ける。これにより就寝時の迂闊な【魅了】を防ぐ。


「明日は早目に起きるからね?お休みなさい、静流……様」


少し前 日本 立川宅―― 昼


「とうとうこの時が来たぞ、カナメ!」

「ああ、待ってたぞ、ムッちゃん」


 液晶画面にもはやかじり付いている二人。

 先ずは脱衣所の全景が映し出される。乙女たちが服を脱ぎ、やがて一糸まとわぬ姿に変貌する。



「「ムッハァァァァ!!」」

「見える、見えるぞ。私にも見える」

「酒池肉林や、極楽浄土や」


 すると今までの光景から、縦スラッシュの後、床が写ったかと思ったらシズムが脱いだ服がアップで写された。


「あかん!静流キュンがオシリス外そうとしとる!」

「急いで念話つなげ!」


 カナメはすかさず念話をつないだ。


〈あー静流キュン、オシリスはそのまま付けといてくれへんか?〉

〈カナメ先輩? でも精密機械ですし、まずいんじゃないですか?〉

〈大丈夫や。いいな、そのままやぞ!〉

〈そこまで言うんなら、付けますけど〉

〈オッケー! はよ行こか〉


 またあの光景が広がる。


「ふぅ。危なかったな」

「さぁ、いよいよ浴場に突入じゃあ!」


 ガララッ 浴室に入る。湯気がすごい。オシリスのレンズは曇らないのか?


「曇り止めはバッチリ! 問題ないわな」

「お、早速乙女たちが寄ってきたぞ!」

〔あ、シズムちゃんだ! カワイイ~〕


〔けっこう出るとこ出てるのね〕

〔ちょ、ちょっとくすぐったいよぉ〕

〔ういやつめ、よいではないか?よいではないか?〕

〔ちょっと! そこ、ダメェ!〕

〔どや、エエか?エエかぁ?〕 



「「ブッファァァァァ!!」」



 二人は盛大に鼻血を吹いた。


「お前ら、よくやった!」

「至福の時を、ありがとう!」


 次にアンナが見えた。


「おい!この子ってルームメイトのナイスバディ子やろ?」

「ああ、たしかアンナだったか」


〔シズムってさぁ、結構エロい体つき、してるよね?〕

〔さっきさんざんいじられたよ。勘弁してよね〕

〔アタシのカラダも見てイイよ。ほら〕

〔ブッ! アンナ、ダメ、スゴ過ぎ!エロテロリスト級!直視出来ない!〕

〔まさか、アタシに『欲情』してるとか?『浴場』だけに〕



「「ピギャァァァァァ!!」」



 二人は危うく昇天するところだった。


「おい、ちゃんと録画してるんだろうな?」

「モチ、バッチリ撮れてんど!」

「あのダジャレがなかったらイッてたな」


 そうこうしている間に、ナギサとの絡みに切り替わった。


「お、この黒髪の乙女も中々の上玉やないけ!」

「ん?魔法を使うみたいだな?おい!ヤバいぞ【鑑定】を使うらしい」

「静流キュンが男なのは花形のが耐魔付与しとるからバレへんと思うが」

「とすると……ヤバい、オシリスが対象なのかもしれん!」

「とにかく私たちとの接続を切れ!」


 暫くして再接続すると、先ほどの黒髪の乙女が眉間にしわを寄せながらプルプルと震えている。


「うっ!まずいな、バレたんと違うか?」

「さて、どうしたものか……」


 睦美が今後のごまかし方を考えていると。


〔カ、カワイィィィイ!!〕

〔ねぇシズム、この子、今晩貸してくれない?〕

〔うーん、どうしようかなぁ、今夜一晩だったら貸してあげてもイイよ〕

〔わーい、やったぁ!〕


 オシリスは、成り行きで「黒髪の乙女と添い寝」をゲットしていた。


「ムハァ。これはこれでアリやな」

「うむ。僥倖と言えよう」


アンドロメダ寮―― 白百合の間 深夜


(う、う~ん、ヤバい、トイレ行きたくなっちゃった)モゾモゾ

 便意をもよおしたシズム。深夜に真っ暗の廊下を、一人で歩いてトイレに行く事に躊躇している。

すると、人の気配が……。


 カチャ


ドアが静かに開く。入ってくる人の気配。その後、


 トサッ

 

シズムが寝ているベッドに誰かが入ってきた。


(え?誰?)

アンナであった。


「シズムゥ、アタシのシズムゥ」


 パジャマのボタンを手早く器用に外し、シズムの偽装肉体の胸をまさぐる。

(危なかった。あれ解除するの忘れてたから結果オーライだけど、どうしよう、この状況)

 アンナはしばらくシズムの偽装肉体をこれでもかと堪能し、満足したのかそのまま寝てしまった。


「スゥ……スゥ……シズムゥ」


(ふう、助かった。ん?アンナ?お酒飲んでる?)

 アンナの吐息にワイン?のような匂いが混じっていた。


(しょうがないな。僕が上で寝るか)


 アンナを起こさないようにベッドから起きる。

 腕の操作パネルにライトがあったのを思い出し、点灯させる。


(よし、怖くない、怖くない)

 と言い聞かせながら、トイレに向かう。幸い白百合の間からトイレまでは50メートルほどであった。


(ま、間に合った。良かった、これでぐっすり寝れる)

 トイレで小用を足し、速攻で部屋に戻り、アイマスクを着ける。    


(ふぁぁあ、早く寝ないと)

 そのあとシズムは、一番上のベッドで無事に朝を迎えた……はずだった。



アンドロメダ寮―― 白百合の間 早朝


 今日はヨーコと市内を観光がてら散策し、国立公園に行く予定である。


「ちょっとアンナ! 起きなさい!」


 ヨーコはすごい剣幕である。


「うん?おはようヨーコ、どうかしたの?」


 シズムは寝ぼけながら手を動かした。ふにっ


「あぁン、シズムったら朝から大胆ね。ハァハァ」


 隣にはシズムに胸を揉まれたアンナがいた。赤い顔をして恍惚の表情を浮かべている。


「たまには攻められるのも悪くないわね。んっくぅ」

「アンナ!どういうつもり? 夕べはどこ行ってたの?」


 シズムはアイマスクが無いことに気付いた。


「あ、あれ? アイマスクは?」

「これの事?アタシがおやすみのキスをするとき、ジャマだから外したの」


 シズムの目の前でアイマスクをピラッと見せるアンナ。


「オヤスミノキスって、何かな?」ゴゴゴゴ


 ヨーコは肩を怒らせ、アンナに詰め寄った。


「やだなあ、あんたが想像してるようなディープなやつじゃないよ。ほんと、チュッてね」

「いけない? メガネ、メガネ」


 シズムはシュタッと飛び起き、ベッドを降り補助メガネをすかさず装着した。


「あれ?ぼ、私は夜中にアンナが下で寝てしまったから、一番上で寝てたはずなんだけど?」

「あ、その事?あのあと目が覚めたら下で寝ちゃってたんで、上に上がったらシズムが寝てたの」


 どうやらそういう事らしい。


(アイマスクが無い分少し【魅了】が漏れてたか……気休めにやっとくか)


「アンナ、ちょっと顔赤いよ。いま回復掛けるね【キュア】【忘却】ポウゥ」


 シズムの手が紫の霧に包まれた。その手をアンナのおでこに持って行く。


 シュウゥゥゥ「どお? 具合は?」


「サンキュー、お陰でスッキリした!いやぁ、夕べのワインは効いたなぁ」

 何とかごまかせた?ようである。

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