エピソード11-7

アンドロメダ寮―― 白百合の間 朝


 洗面の後、白百合の間で手早く着替えた二人。出掛ける用意をしている。


「いいなぁ、アタシも行きたぁい!」

 

アンナは駄々をこねた。


「アンナ? 私聞いたよね?申請出すとき『いっしょにどお?』って」

「え?そうだったっけ?何でうんって言わなかったんだろ?」

「アナタも忙しいんでしょ?ナニとかナニとか……」

「あの子たちと遊ぶより、シズムと遊びたいよう」


 アンナは足をバタバタさせて悔しがっている。とそこに、コンコン、ガチャ


「おはよう、皆さん」


 ナギサが来た。と同時に不可視化を解除したオシリスがシズムに飛びついた。


「シズムゥ、大丈夫だった?襲われてない?心配してたのよぉ?」


 オシリスはシズムに質問責めをした。


「う、うん。大丈夫? だった……かな?」

「何よ、その歯切れの悪い言い方」

「わぁ、この子が使い魔の?カワイイね」むぎゅ


 アンナはシズムからガシッとオシリスを取り上げ、力いっぱい抱きしめた。


「ウゲェ、ミチルよりヤバいわ、この人」


 アンナはキャッキャとくるくる回っていたが、次第に回転が速くなり、もはやジャイアントスイング状態になっている。


「ちょっと違う恋愛形式に目覚めそうになっただけよ……ねぇ?」


 ヨーコは珍しくシズムをからかった。


「茶化さないでよ。イジワル」

「これからお出掛け? いいわねぇ」


 ナギサも行きたそうにクネクネしている。


「私もオシリスちゃんともっと遊びたいのにぃ」


 アンナからぐったりしたオシリスを取り上げ、頭をなでているナギサ。


「さあ、行きましょう。まずはカフェに行ってモーニングセットをいただくの」

「ごめんなさいナギサ、そういう事らしいから。帰ったらまた遊んであげて」


 ひょいとオシリスを取り上げ、首に巻き付ける。


「ちょっとバランサーの調子が……」


 オシリスは不可視化及び休止状態になった。



学園―― 正門 朝


 途中、職員宿舎でムムに出発の挨拶をしに行った。


「ムムちゃん先生、おはようございます!」


 ムムはダルそうに対応した。


「シズムさん、私の事は置いといていいから。楽しんでらっしゃい」

「ごきげんよう、シズムさん。ムムってば夕べ飲み過ぎたみたい」

「あ、ニニちゃん先生、おはようございます!(ニパァ)」


 ピクッと眉毛がひくついていたが、奇跡的にスルーされた。


「先生方、今から市内観光に行って参ります」


 ヨーコが、今日の予定を説明をした。


「くれぐれも気を付けるんですよ。では、いってらっしゃい」

「「はい、行って参ります」」


 正門を出て石畳の街道を散策する。


「先ずはカフェ『マダム・ポリニャック』に行くわよ!」

「そこにはオススメの何かがあるの?」

「それは着いてからのお楽しみよ」


 ヨーコはさりげなくシズムの手を取り、指を絡ませた。

(ヨーコってば二人になった途端、グイグイ来るなぁ)


「楽しそうだね、ヨーコ」

「ええ、とっても。だって夢みたいなんです、こうして静流様と……デートみたいな」ポッ

「ちょっとヨーコ、今はシズムなんだからね?頼むよぉ」

「わかってますって。フフッ」




カフェ「マダム・ポリニャック」―― 朝


 正門から徒歩で10分程でお目当てのカフェに着いた。


「ここのモーニングセットが格別なんですよ、シズム」

「学園の外だからヨーコに任せるよ」

「シズムはカフェラテでよかったわよね?」

「うん。お願い」


 結界の外である為、言語は自国語であり、シズムにはチンプンカンプンである。

 暫くしてモーニングセットが来た。


「うわぁ。スゴい。これって、『小倉トースト』だよね?」

「そうそう、よく知ってるわね。ていうかソッチが本場だったわね」

「あ、でも本場っていえばナゴヤだからね。これほどのは初めてだよ」


 食パンのトーストに小倉あんとホイップクリームが贅沢にあしらわれている。

 あとはコールスローにウインナーとゆで卵。カフェラテに合いそうなセットである。


「うん、甘ぁい。美味しいよ、ヨーコ!」

「気に入ってくれて何より。良かったぁ」


 小倉トーストを充分堪能したところで、もう一つのミッションについてヨーコに訊いてみた。


「ヨーコ、僕が学園に来たのは、女神像の除幕式以外の理由があるんだ」

「え?そうなんですか?」

「ヨーコはカオルコ・イガラシを知ってる?」

「ああ、カオルコ様の事ですか……」

「知ってるの?」

「ウチの『学園七不思議』の一つですから」

「詳しく教えて」


 シズムとヨーコは飲み物をお代わりした。


「カオルコ様を含む4人の留学生は、私が中等部3年の時に留学されました。遠くからしか見たことはなかったです。その後、高等部に上がった時にはもう『行方不明』になっていました。」

「何か事件とかがあったとか?」

「事件……というか、事故?でしょうか」

「どういうこと?」

「シズムも見ましたよね?『ドラゴン寮』」

「うん、今は使ってないってやつね。え?まさか」

「あの方たちは『ドラゴン寮』を使ってたんです」

「そこで、何かあったんだね?」

「ええ。でも詳しく知ってる人が誰もいないんです。」

「ふう、もう少し調べる必要があるな」


 シズムは顎に手をやり、考え込んでいる。


「あ、サラだったら何か知ってるかも?」


 ポンと手を打ったヨーコはある可能性を思い出した。


「ナギサのルームメイトよ。あの子、カオルコ様に可愛がられてたから……」

「よし、後は学園に帰ったからにしよう」

「そうね。わかったわ、シズム」


 カフェを出た後、国営公園までの商店街を散策した。



市街地~アスモニア国営公園―― 午前


 途中、アクセサリー屋に興味を持ったシズム。


「わぁ。これって『勾玉』だよね?」

「いつだったか日本歴史ブームがあった時に流行ったやつですね」

「綺麗な石を使ってるね。いろんな色があって……そうだ!お土産に買って行こう!」

「それはいいですね。でも、お金は?」

「大丈夫!校長先生からお小遣い貰って来たから。」


 シズムは勾玉を選び始めた。


「単純だけど、髪の色にするか。まずは睦美先輩のワインレッド、カナメ先輩のスカイブルー、真琴の深緑でしょ。あと美千瑠が桃色と。おっと肝心な銀は、キミ!」

「へ? 私に、ですか?」

「当たり前だよ。お世話になってるんだから。ちょっと試したいことがあってね、渡すのは後日ってことでいいかな?」

「あ、ありがとうございます。大事にしますね?」


 シズムは他の色を数種類を追加してレジに向かった。

 そうこうしているうちに、国営公園に着いた。


「さあ、着きましたよ。入場券を買ってきますね」

「うん、お願い」


 ゲートで券を見せ、中に入る。ちょっと先の案内板の前に来た。


「うわぁ、広いな。どこがおすすめなの?」

「そうですね……やっぱりここの『英雄博物館』は行っておくべきだと思います。」

「あれ?博物館の奥に何かあったみたいだけど、消されてるね」

「何でも研究施設があったみたいですけど、廃止されたみたいです。」

「ふぅん、他には?」

「あとはベタですがこの池でスワンボートに乗ったり、ここの『占いの館』で恋愛運を見てもらったり……とかですね」

「ウチの方でいう江の頭公園みたいな感じか。じゃあ順番に回ろうか?」

「はいっ! 喜んで♪」


 ヨーコはどっかの居酒屋の掛け声みたいに威勢よく返事した。

 先ず、池でスワンボートを借りた。


「江の頭だとたしか、オスのスワンが一台だけあって、それに乗れば恋が成就して、他のメスに乗ると別れるってジンクスがあるらしいよ」

「ここではそんな話、聞いたことないですけど。でもそういうの聞いちゃうと、無視できませんね」


 ヨーコは一台一台確認して回っている。


「迷信だよ。いいんじゃない?どれでも」

「いいえ。そうはいきません。……あ、コレってオスなんじゃ?」


 一台だけまつ毛が短くて蝶ネクタイをしているスワンを根性で見つけるヨーコ。


「これですっ! これに乗りましょう!」ゼェゼェ

「ん?うん、わかった」


 船着き場からオスのスワンが出発した。出だしは少しもたついたが、調子が出て来たのか

スピードが乗るとこれはこれで面白い。


「さぁ、飛ばしますよ?うりぁぁぁぁ!」

「うわぁ!速い速い!何ノット出てるんだろ?」

「まだまだぁ!行きますよぉ!」


 周りのカップルが乗っているメススワンをかき分け、オススワンが水しぶきを上げ、爆走している。


「ちょっとヨーコ、そんなに飛ばさなくても」

「うりゃあぁぁぁぁあ!」

「景色見るとか、異国情緒とかを味わったりとかする暇、無いわけ?」


 ハッと我に返ったヨーコは、自分のしでかした事に今、気付いた。

 推進力を失ったオススワンは、次第にスピードダウンした。


「ハァハァ、すいません、緊張の余り、力が入り過ぎました。」

「どうしたの? ヨーコ、人が変わったみたいになってたよ?」

「ハァハァ。私って、乗り物に乗ると人が変わっちゃうんです」

「そのままかいっ! 昔、バイクに乗ると性格が変わっちゃう人が漫画にあったな」


 ぐったりしているヨーコに、シズムは優しく声を掛けた。


「後は私が漕ぐから、ヨーコは休んで。ね?」

「はい、すいましぇん」

「ヨーコ、ちょっと無理してない?」

「い、いいえ! とんでもない! 私なんかが一緒で、静流様が楽しめているかと思うと……不安で」

「何言ってるの?僕は十分満喫してるよ」ニパッ

「何とお優しい……」(好きです)

「さぁ、対岸に着いたよ。次の『占いの館』ってあそこでしょ?」


 せっかくのいいムードが台無しであった。


「え?ええ。……」(バカ)

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