エピソード11-5

学園 礼拝堂―― 夕方


 シズムは、ヨーコ、アンナと共に礼拝堂へ。寮毎に10分間お祈りを捧げる。もうすぐアンドロメダ寮の時間だ。他の生徒はもう集まっているようだ。


「ちょっとヨーコ!その子が噂の?」

「見て見てぇ?超カワイイ♡」

「どんな構造してるの?分解してみたい♡」キャッキャッ


 外国でも似たような感想のようである。


「はい!みなさぁん! 夕方のお祈りを始めまーす」


 若い男性の神父が号令を掛けた。


「今日のお祈り当番はぁ、ミス・ミナトノ、お願いします」


 ヨーコは「はい」と返事を返しすっと前に出て『地母神マキシ・ミリア』像に向かい、お祈りの言葉を述べる。


「私は今日、わが学園に短期交換留学される『シズム・イガワ』さんをご案内いたしました。シズムさんがこの学園に滞在される二週間、無病息災でありますようにどうかお見守りください」


 ヨーコのお祈りが終わった。すると他の周りの生徒たちが一斉に、 


「主よ、私たちの祈りを聞き入れて下さい」と唱えた。


「じゃあ聖歌隊、お願いします」


 聖歌隊と呼ばれた数人が聖歌を斉唱している。他のものはロザリオを手に祈りを捧げている。

 シズムはヨーコに言われた通りに前の子の真似をした。


「はい、結構。これにて夕方のお祈りを終わります」


 生徒たちが寮に戻っていく。


「シズムちょっと、イイ?」


 くいっとシズムを神父の前に差し出すヨーコ。


「ハクトー神父、こちらが『シズム・イガワ』さんです」

「おお、あなたがあの『女神像』の……ジルベールはこの上ない喜びです。どうか私の事は親しみを込めて『ジル』とお呼びください」 

「わ、私なんかが、神様の真似事などを……バチが当たるんじゃないか……と」

「とんでもありません!あなたから発せられる暖かなオーラ、そして、この、女性であるにもかかわらず、男性的でワイルドなかぐわしい香り クンクン まさに女神! ヌハァ」


 ジルベール・ハクトーは片膝をつき、恍惚の表情でフリーズした。


「うわぁ、超イケメンさんだね」


 神父はそのままフリーズしているのでヨーコに話題を振った。


「確かにイケメンなんだけど、実はコッチみたいなの」


 ヨーコは隠しながら小指を立てた。


「ウゲェ、ソッチはちょっと……」

「さ、紹介が終わった?から、寮に戻りましょ」


 二人はフリーズしている神父を置いて寮に戻った。



アンドロメダ寮―― 食堂 夜


 食堂にて夕食を摂る。他の生徒とも自己紹介を済ませ、食卓に着く。


「ねえねえ、シズムちゃん、好きな殿方、いるぅ?」

「聞かせてよ、あたしらそういうのに飢えてんの」

「『桃髪の王子』とはどういう関係?」

「ちょっと、ヨーコってば」

「どうしたの?シズム」

「これじゃあ、ぶら下がり取材どころかもう記者会見レベルじゃないの?」


 シズムを取り囲むように生徒たちがわんさか湧いている。


「大体ここって『お嬢様学校』なのよね?」

「ん?うーん、一応?」

「もっと『お上品』な感じを想像してたんだけど」

「ガッカリした? どこのお嬢様校でも、大体中身はこうだと思うから」


 コツコツと靴の音が聞こえてくる。


「ヤバい、来たっ!」


 さっきまでシズムの周りにいた生徒が、クモの子を散らすようにいなくなった。


「え?え?何?」


 シズムは状況を把握していなかった。やがてドアが開いた。 ガチャ


「準備出来たかい?」


 食堂に入ってきた寮長は配膳を済ませたか確認している。


「よし、祈りを捧げなさい」


 生徒たちが食前の祈りを唱える。ローメン。


「「いただきます」」


 やっとこさ食事にありつけたシズム。さっきまでの騒々しさはどこに行ったのか、シンと静まりかえっている。食器がカチャカチャと鳴る音しかしない。

(なんだろうこのプレッシャーは)

 今まで寮生活などしたことが無かったシズムには何もかもが新鮮だった。


「「ごちそうさまでした」」


「祈りを捧げなさい」


 生徒たちが食後の祈りを唱える。ローメン。


「準備が出来たものから入浴に行ってきなさい」


 寮長から入浴の指示があった。


「お風呂か、ヤバいな」

「シズム、何か問題でもあるの?」


 生徒のひとり、ナギサ・キャタピラがシズムに話しかけた。

「あ、ナギサさん。え?ええ。ちょっと……」


「ナギサ、シズムはお世話係の私が完璧にお世話するから心配しなくて結構よ」

「ヨーコ、私はただ……シズムが困ってるように見えたから!」


 見つめ合うというかガンを飛ばしているというかメンチを切っている二人。バチバチッと火花が出そうである。


「ち、ちょっと二人共、どうしちゃったの?」


 シズムが慌てて止めに入ろうとする。が、アンナに止められた。


「ほっときなさいよシズム、いつもなの。この二人」

「早くしないとお風呂の時間、終わっちゃうわよ?行こ!シズム」


 アンナに手を引かれ、寮に戻ろうとしている。


「ちょと待って、アンナ」


 アンナを追うヨーコ。踵を返し、ナギサをにガンを飛ばす。


「フンッ!」


 ヨーコは足早に出て行った。


「……バカね」


 ナギサは呟いた。



大浴場―― 夜


 寮で洗面道具と着替えを用意し、大浴場に向かう。


「ねえ、ヨーコって、ナギサさんと仲悪いの?」


 シズムは単刀直入に訊いた。


「ナギサったら昔から私に対していちいち指図するんですよ?まるで自分が正論みたいな?」

「ヨーコだって、さっきのはキミから吹っ掛けてたよね?」

「それは、そうですけど……」

「二人には仲良くなってもらいたいなぁ」

「私だって、大人げないとは思っていますよ」


 話し方が素に戻っているのも気が付いていない。


「そう言えばシズム、その……お風呂大丈夫ですか?」

「あ、これ?問題無いよ、完全防水だし」

「そういう事じゃないです!私は全てを見られても構わないですが、他の子のは見ないでほしい……です」


 ヨーコが大真面目に訴えるもので、シズムはかなり動揺した。


「ブッ!ダ、ダイジョーブ。隅っこの方でちゃちゃっと済ませるし。なるべく見ないように努力するよ」


 脱衣所で服を脱ぐ。不可視モードのオシリスを外し、カゴに入れた時、念話が入った。


〈静流キュン、オシリスはそのまま付けといてくれへんか?〉

〈カナメ先輩?でも精密機械ですし、まずいんじゃないですか?〉

〈大丈夫や。いいな、そのままやぞ!〉

〈そこまで言うんなら、付けますけど〉

〈オッケー!はよ行こか〉


 ガララッ 浴室に入る。大浴場というだけあって、スーパー銭湯並みに広い。


「うわぁ、広いな」

「あ、シズムちゃんだ!カワイイ~」

「けっこう出るとこ出てるのね」むぎゅ


 寮の生徒にもてあそばれるシズム


「ちょ、ちょっとくすぐったいよぉ」


 後ろから偽装肉体をムンズと揉みしだいている


「ういやつめ、よいではないか?よいではないか?」

「ちょっと!そこ、ダメェ!」

「どや、エエか?エエかぁ?」 


 もう完全にエロ親父化している。


「はいはいもうおしまい!シズム、こっちで体、洗いましょう」

「うぅん、もう! イイ所だったのにぃ! ヨーコのイジワル!」

「いくらシズムちゃんのお世話係だからって……独占禁止法に触れるわよ?」


 ヨーコがグイッとシズムを引っ張り上げ、隅っこに連れていく。そこには体を洗い終わったアンナがいた。


「あ、アンナ。先に入ってたの?」

「うん。シズムってさぁ、結構エロい体つき、してるよね?」

「さっきさんざんいじられたよ。勘弁してよね」

「アタシのカラダも見てイイよ。ほら」


 アンナはタオルで隠していた前をはだける。


「ブッ!アンナ、ダメ、スゴ過ぎ!エロテロリスト級!直視出来ない!」

「まさか、アタシに『欲情』してるとか?『浴場』だけに」


 ダジャレも翻訳できるとは。素晴らしい。


「おあいにく様。私、ソッチの気は無いんで」


 シズムは精一杯の抵抗を試みた。


「なぁんだ、シズムは百合属性ゼロか。つまんないなぁ」

「そうそう。つまんないのよ。さあシズム、背中出して」


 ヨーコが背中を洗ってくれている。


「あ、ありがとうヨーコ、次、私がヨーコの背中、洗ってあげる」

「へ?いいのよ私は、それより次は前よ」

「さ、さすがに前ぐらいは自分で洗うよ」


 はた目からは仲のいい姉妹のようである。とそこに、


「また会えたね。シズム」


 ナギサである。均整の取れたある意味パーフェクトボディである。濡れた黒髪が実にセクシーである。


「ナギサさん。ほら、ヨーコ!さっきのは良くないわよ!ちゃんと謝ること!」

「ナギサ……さっきはその、言い過ぎた。ゴメン」

「ヨーコ、大丈夫、もう怒ってない」

「よかったぁ。仲直り出来て。(パァァ)」

「「ハァァ。癒されるわぁぁ」」


 二人はシズムの笑顔を見て、自責の念に駆られた。


「お詫びに、前は私が洗ってあげる」

「ち、ちょっとナギサ?あなた、何言ってるの?前は私が!」

「二人とも?ちょっと調子、乗り過ぎ?」


 シズムはいい加減イライラしていた。


「「はい、すいましぇん」」


 二人は揃って落ち込んだ。


「ふぅ、生き返るわぁ」


 体を洗い終わり、湯船につかるシズム。


「今日はお疲れ様、シズム」

「ありがとう、ヨーコ。しかし疲れたなぁ」

「飛行機で10時間だっけ?」

「うん、席がエコノミーの一番後ろでさ、背もたれがほとんど倒れないんだよ?」

「でも、イイ夢は見れたんじゃない?」

「お陰様で。フフッ」

「夢ってどんな夢なの?」 


 ナギサが割り込んできた。


「秘密……よ」


 ヨーコは教えないつもりだ。


「いいじゃない夢くらい、教えてくれたって!」


 また険悪なムードになりそうだったので、シズムはかいつまんで説明した。


「魔道具で夢に干渉したの?精神汚染とかは大丈夫?」

「大袈裟な!大丈夫だよナギサさん、夢に関しての耐性は私の母さんでいやというほど味わってるから」


 母親に比べれば、ヨーコのした事などは些末な事に感じているシズム。


「そうなの?一応見るわね【鑑定】パッ」

「え?ナギサさん、鑑定使える……の?」

「グフウッ!ヨーコ……後で話がある。談話の時間にお邪魔するわ……少しのぼせたみたい」


 ナギサは顔を斜め上にして湯船から上がり、足早に去っていった。

(もしかして、見えちゃったかな?全部)


「バレた?」コソッ

「そうみたい……ね。こうなったらしょうがない、ナギサも巻き込むか」


 ヨーコは顎に手をやり、考え込んでいる。


「でもさぁ、どうにかならないかなぁ、毎日これじゃあ危なっかしくて」

 確かにとヨーコは肯定した。


「時間になったら速攻で入浴が正解かな? 次からはポールポジションを取りましょう」

「そっか、一番早ければ他の子に会わないで済むね!」

「それか終わりギリギリに入るの。寮長と一緒に」

「うわ、ソッチは無い……かな?いや、以外に盲点かも。でもやっぱりイヤ」


 プランBはなるべく避けようとシズムは心に誓った。

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