エピソード7-2
JR西国分尼寺駅周辺――夕方
駅前の喫茶店「ロノワール」に木ノ実ネネは居た。
カランと入口の扉が開き、客が入ってきた。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「人を待たせているのよ。あ、いたいた。おーい!」
客は静流の母親、五十嵐ミミである。
「相変わらず騒がしい子ね、ミミは。」
「久しぶりなのに随分ご挨拶ね?」
ネネはコーヒーのおかわりを、ミミはクリームソーダを注文した。
「で、こんなとこに呼び出したのって、昔話をしようって訳じゃ無さそうね?」
「わかってるんでしょ?『静流君』のことよ」
「静流がどうかしたの?」
「とぼけないで頂戴!彼の魔力が上がって来ていることよ!」
「そっか、やっぱりわかっちゃう?」
「メガネから漏れてたわよ?【魅了】」
「え?まさか」
「感情が高ぶると、メガネ越しでも効果が出ているみたい。微量だけどね」
「それって、まさか」
「レベルUPが近いのかもしれない」
「予定より早くなりそうね」
ため息をついたネネは、あっけらかんとしているミミに言った。
「いい?自分の意志に関係ない常時発動型の『魅了 LV.0』はあってはならない能力よ」
「わかってるわよ。だから対策を講じたでしょ」
「いつまでもあのメガネで抑え込めると思ってるの?」
「今ね、花形光学機器に新しい魔道具を発注してるのよ」
「カラーコンタクトレンズの事?」
「あれはまだ試作。開発を急いでもらわないとね」
「彼はまともに高校生活をエンジョイすることも許されないの?」
「今は無理ね。あの子にはもう少し辛抱してもらわないと……」
ネネは本題に入った。
「それはそうとミミ、『五十嵐出版』のこと、聞かせてくれない?」
「ああ、あれはね、多分嫌がらせよ。『姉さん』の」
「モモが? あの子は確か……異次元に飛ばされたはずよね?」
「最近パスが繋がった……みたいなの」
「何ですって?」
「静流の魔力が上がったせいかな? 静流が夢を見たって」
「夢って、どんな?」
「『黄昏の君』らしい男が、魔族の女たちとイチャコラしてる夢みたい」
「それって、『あの計画』のビジョンかしら」
「詳しく夢を解析しないとわからないわ。そっちは私がやるから」
「あーもう。問題山積みじゃないの」
「頼りにしてるわ♪ ネネ先生?」
頭を抱え、苦悶しているネネを横目に、クリームソーダに乗っているバニラアイスを美味そうに食べているミミであった。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐宅 静流自室――夜
自室のベッドに横になり、読書に耽っていたが、内容が入ってこない。
「ふう、どうしたもんかなぁ。やっぱ睦美先輩に相談しよっかな? ううんダメダメ! この件は自分で解決するんだって思ってたのに、結局先生に止めれちゃうし。はぁ。情けないな……」ブツブツ
束の間の静寂。と、前触れもなくいきなり窓が開く。ガラッ
「なに干からびてんの?静流?」
「真琴か? ほっといてよ。僕だって悩みの一つや二つあるんだよ!」
「ふうん、そんなこと言うんだ。どーしよっかなぁー」
思わせぶりな態度をとる真琴。
「何だよ。なんかいい情報でも掴んだの?」
「『黒魔』がらみのネタなんだけどね」
「え?ほんと?でかした!」
先程まで干からびていた静流がいきなり飛び起き、真琴の両肩を掴んだ。
「ふぁ、ふぁい!?」カァァァ
頬を紅潮させた真琴を真正面から見つめる静流。自室で周りの者は無害とわかっている為、メガネは外している。
「で、何がわかったの?」
黒魔術同好会、通称「黒魔」について何か掴んだらしい。
「う、うん。やつらはあのいかがわしい薄っぺらい本を資金源に、何か企んでるみたいなの」
「そこまでは僕もメメ君たちから聞いた。それで?」
「三日後に奴らの集会があるの。『黒ミサ』ってやつ?それに潜入する」
「それって危なくないの?」
「危険は無いと思うわ。所詮部活でしょ?」
「わかった。僕も行くよ」
「そう来なくっちゃ!先ずは作戦会議ね」
『黒ミサ潜入計画』の作戦会議が始まった。
「静流は目立ち過ぎるから、変装しないとね」
「えっ? 何か嫌な予感がするなぁ」
そうこうしていると、何やらどたどたと騒がしい音が近づき、バァン!とドアが蹴破られる。
「しづ兄!お使い行ってきて!って真琴ちゃんが夜這いに来てる!」
「いきなり何だよ!美千瑠」
「まだ時間的に夜這いには早いわよ!」
「このメモに書いたもの、買ってきて!」
「そんなこと言われても、今会議中なんだよ!」
「いいわよ、準備は私の方で進めておくから。じゃ」ガラッ、タッタッタッタ
「サンキュ!助かる」
真琴は足早に自分の家に帰った。
「全く、油断も隙もあったもんじゃないわね」
美千瑠は腰に手を当ててふんぞり返っている。
「美千瑠さん?ご立腹の様ですが、何かありまして?」
「フン!知らない!」
◆ ◆ ◆ ◆
三日後 学校 ――夕方
二人は、『黒ミサ潜入計画』の確認をしている。
「いいわね?手はず通りやるのよ?」
「ホントにやるの?」
静流は今一つ乗り気ではなかった。
「何弱気になってるの? これは静流自身の為でしょう?」
静流を奮い立たせようとするが、もうひと押し足りないようだ。
「この件が解決したら、睦美先輩も静流を見直す……かもね」
「そうかな。よし、一丁やったるか!」
「そうそう。その意気」
(単純なヤツ。チョロ過ぎでしょ?もう)
「さあ、行くわよ!」
◆ ◆ ◆ ◆
学校 闘技場――夜
闘技場の女子トイレに、静流はいた。
「はい、これとこれ着て? あとコレも付けるのよ?」
「う、コレも?」
「もちろんよ。中で何があるかわからないから」
どうやら変装中らしい。真琴に指示されるがままに渡されたものを身に着けていく。
「これで、いいのかな?」
静流は顔を赤らめてもじもじしながら聞いた。静流は女子の制服を着ている。
「いいんじゃない?後は仕上げね」
「まだあるの?」
「後はこのカラコン、こないだのヤツの改良バージョンを花形部長に借りたの。そしたら部長がノリノリでね、『チョーカー型ボイスチェンジャー』も貸してくれたわ」
いつぞやのカラコンはアメジストだったが、今回のは鳶色と呼びたいブラウンだった。
「カラコン付けたね。あとチョーカーと、最後にカツラと」
静流は女子の制服を下着も含めて着用し、カラコンで目を隠した。ちなみにカツラの色は藍色だった。
「うわぁ、ちょっとしたアイドル並ね?ちょっとしゃべってみて?」
「ど、どうかな?声変わってる?」
「めちゃめちゃカワイイじゃない。よし、これならバレないわ。鏡、見てみなさいよ」
静流は恐る恐る鏡を見た。
「え?これがボク?どっかの地下アイドルみたい」
鏡の前でいろいろ角度を変えながら自分の変貌ぶりに驚いている。
「いい?声は変わるけど、しゃべり方はそれっぽくするのよ?」
「そんなこと言ったって、わかんないよ」
そんなこんなやっているうちに、女子トイレに荒木メメと姫野ノノが来た。
「真琴先輩?そろそろ行きますよ?」
「はいはいーい、お待たせ♪ ちょっと待ってね、ほら、何してんの、早く来なさいよ?」
真琴の後ろに隠れていた女子が、ひょこっと姿を現した。
「こ、こんばんは、ボク、じゃないワタシ、井川シズムですっ」
いきなり現われた超絶美少女に、後輩二人は度肝を抜かれた。
「天然のボクっ子だわ。実際見るの始めてよ。超カワイイ!」
「うわぁ、どんな構造してるの?分解してみたい!」
「ちょ、ちょっとそんなにジロジロ見ないでください、恥ずかしいです」
シズムは体をクネクネとよじった。
「さあ、行きましょう?アンタたち、案内して」
「ムハァ。わかりました。でもこんな超絶美少女、ウチの学校にいましたっけ?」
「いいからいいから、さ、行きましょう♪」
(地味目にしたつもりだったんだけど、凄まじい破壊力ね……)
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