エピソード7-3
学校 闘技場地下――夜
「へえ?闘技場って地下あったんだ。全然知らなかったわ」
「知らないのも無理ありませんよ。ここは緊急時のシェルターらしいんですけど、機密扱いみたいで」
「まあ、いざ緊急事態ってなっても、知らないんじゃ意味ないわよね?」
広さは体育館の半分ほどであり、詰め込めば200人ほど入る位である。
「まあ、生徒全員入るには小さすぎですから、大方先生と一部の生徒用ってところでしょうか?」
「この高校って?一体何?」
ごもっともである。
「あ、闘技場自体【人払い】と【結界】が張ってありますから、騒いでも問題ないんですよ」
「随分手が込んでるわね?さすが『黒ミサ』って感じ?」
「じゃあ、このローブを羽織ってフードを被って下さい」
言われた通りにローブを羽織った。
「じゃあここに座りましょう。あとこれ」
「ん?これって?」
サイリウムだった。
ブゥ――――ッ 「開演のお時間となりました。」
アナウンスが流れ、照明が消され真っ暗になる。
「「「「うぉぉぉぉぉお!」」」」
野太い歓喜の声が渦巻く。
中央に人影が見える。ゴールを決めた時のビスマルクの様に片膝をついている。マイクを取り、叫んだ!
「我を召喚したのは、貴様達か?」
「「「イェェェェェェイ!」」」」
「我の背後に立つな!」
「「「イェェェェェェイ!」」」」
「血ィ吸うたろか?」
「「「イェェェェェェイ!」」」」
「みんな!コックリさんやってる?」
「「「イェェェェェェイ!」」」」
ぱっと中央が明るくなり、少女の全貌が明らかになった。
「どうもぉー!みんなの召喚獣こと『黒瀬ミサ』でーす!!」
黒い革ボンテージに身を包んでいるが、残念ながらミニモニだった。
「「「「うぉぉぉぉぉお!」」」」
再び野太い歓喜の声が渦巻く。
「今日は時間いっぱい楽しんでくれたまえ!」
「「「ワァァァァァァァ!」」」」
「最初の曲は、コレだ! 『完全無欠のフレンチクルーラー』」
「「「イェェェェェェイ!」」」」
熱狂的なファンが一心不乱にサイリウムを振っている。
「ねえ!ちょっとちょっと!」
真琴は隣でノリノリの荒木メメをつかまえる。
「何ですか?今、イイ所なんですから」
「もしかして『黒ミサ』って黒瀬ミサのライブってこと?」
「そうですよ?それ以外ないですよ」
「は?じゃあ黒魔術同好会ってのは?」
「『黒瀬ミサと愉快な仲間たち』ってことですよ」
「「何ィィ!」」
真琴とシズムは驚愕の真実を知ることとなった。
そうこうしている間に、MCミサのトークが始まった。
「さぁてお待ちかねの『生贄さんいらっしゃーい』のコーナーだよ!」
「「「ワァァァァァァァ!」」」
「今日の『生贄さん』はぁ? 誰かなぁ~♪」
スポットライトがぐるぐると回っている。
ドゥルルル……ジャン!
ドラムロールの後、スポットライトが一人の少女を映し出した。
「へ? ボク?」
周りをキョロキョロ見回し、自分であることに気付いた。
「そうだよぉ、そこのキミ!カモン」
「うそぉ、やだよぉ」
「「「ブゥゥゥゥゥゥゥ!」」」」
ブーイングが起こった。
「しょうがない、行ってきな」
「わ、わかったよ」
仕方なくシズムは中央のミサに手招きされつつステージに上がった。
「キミィ、よく見ると超絶カワイイね?ウチの生徒?」
「な、内緒……です」
「何というミステリアスガール!エクセレント!」
「「「ワァァァァァァァ!」」」」
「何か目が離せないってゆうか、クラッときちゃうねぇ」
ミサの顔がどんどん近づいてくる。
「か、勘弁してください、ボク、恥ずかしい……です」
「ボクっ子だわ。レアだわ希少だわ。マーベラス!!」
「「「ワァァァァァァァ!」」」」
「じゃあ、そろそろあなたの血、頂こうかしら?」
「「「ワァァァァァァァ!」」」」
「え?血を吸うんですか?まさかあなたは……」
「ん?あなた、仕込みの子じゃないの?」
ミサは小声でシズムにささやいた。
とここで横やりが入った。
「待ちなさい!!」
今度は白いボンテージのやはりミニモニが現れた。
「クッ!邪魔が入ったわね?」
「そこまでよ!黒瀬ミサ!」
「何よ、白井ミサ!」
白井ミサと呼ばれた少女は、高いジャンプのあとくるっと回転し、着地した。
「またいたいけな少女を篭絡するつもり?そうはさせない!」
どうやら中間のショータイムであるようだ。ハプニングで仕込みの子とシズムを間違えたらしい。
「今日のはことのほか上玉よぉ」
そのまま流すつもりらしい。
「何ですって?どれどれ。ムハァ、こりゃあ凄い!」
白と黒のミサがシズムを舐めるように見ている。
「ハァハァ。まずいわ。内なる野獣が解き放たれてしまうわ」
「ちょっと、この子スゴい、ゾクゾクしちゃうぅ」
時計を見た真琴はまずいことを思い出した。
「しまった!カラコンの有効時間って、2時間だったわね……」
状況はかなりヤバかった。
「アヘェ、もうダメ」バタバタッ
白と黒のミサが果てた。すると、
「「「女神様だ」」」バタバタバタッ
「この感じは……似ている……ああっ静流様」バタッ
「まずい!逃げるわよっ静流!」
真琴はシズムの手を取り一目散に走った。
「うぉぉぉぉお!女神!……俺は!」
行く手を阻む者が現れた。その男には見覚えがあった。
「石動先輩!」
「……惚れた」
予想通りの展開だったので静流はあらかじめ【忘却】を準備していおいた。ポゥ
「先輩、ごめんなさい」
ぱしっと石動のオデコに手を置く。シュゥゥゥ すかさず【スタン】を掛ける。
「はひィィィィィ」
石動は崩れ落ちた。
「かなりマズいわね。とりあえず先生に報告しなきゃ」
たまたま書類の整理をしていた木ノ実ネネに事の顛末を語った。
「ふう。あなたたち、本当に懲りないのね?」
闘技場地下でノビている生徒たちを回復させ、下校させたあと、白と黒のミサと真琴、着替え終わった静流は、先生にこってり絞られている。
「あなたたちも大概にしなさいよ? バレてないとでも思ってるの?」
「「すびませ~ん」」
ネネ先生にげんこつを食らった白と黒のミサは深々と頭を下げた。
「で、この件については私が預かるって言ったわよね?五十嵐君?」
「す、すみません!どうしても『五十嵐出版』の謎を解明したかったんです」
「「『五十嵐出版』?」」
白と黒のミサはこのキーワードに反応した。
「丁度いいわ。あなたたち、『五十嵐出版』と組んで、いかがわしい薄っぺらい本を売ってるわね?」
先生は単刀直入に訊いた。
「あ、あれはですね、我が部室にあるロッカーから『神託』が下りるんですよ」
「は?『神託』ですって?バカらしい」
「いや、本当なんですって。黒い封筒に指令が入ってるんです」
「あの薄っぺらい本はどうやって作るの?」
「同人誌の件はウチで原画を集めてロッカーに入れるといつの間にか製本されて出てくるんです」
「ブロマイドも勝手に印刷されてました」
「『パス』が繋がった、て事?」
「は?何ですか『パス』って?」
先生以外の全員が???になっている。
「コッチの話。忘れて頂戴」
「「「「無理ですよそんなぁ」」」」
それはさておき、今度は静流から頼み事があるらしい。
「先輩方にお願いがあります」
なんと白と黒のミサは上級生だった。
「「何でしょうか?静流様」」
「いきなり様呼ばわりですか……。他でもないあの薄っぺらい本の事です!」
「あの本をどうしたいのです?」
「決まってます!もう売らないでください!」
「ええ~っそんな殺生な」
「あんな有害図書はあってはいけないんです。大体なんですかあの下品なタイトル! さらに2ページ目にはもう裸になってる! ストーリーも何もあったもんじゃない! 起承転結は? オチはどこにあるんです? ただイチャイチャくんずほぐれつとかやっていればイイんですか!」グダグダ
静流のマシンガントークに黒ミサが次第に小さくなっていく錯覚を覚えた。
「ぐ、ぐぅっ」
静流の「薄っぺらい本」に対する指摘がぐうの音も出ない程ド正論だった。
「静流クン、その位で許してやってはくれないだろうか……」
白ミサが重い口を開いた。
「あれでも楽しみにしているものもいるんだぞ。そうだ。学校に持ち込むのは厳禁としよう。これで手を打ってはもらえんだろうか?」
「あんなものをですか!? まあ、絶対僕の目に触れない様にしてくれるんなら、しょうがないですね」
「じゃ、じゃあイイのかい」
小さくなっていた黒ミサの目が輝き、勢いよく起き上がった。
「そんな目で見ないでください。わかりました。それでイイです」
結局オーケーしてしまう押しに弱い静流。
「なんと寛大な! エクセレント!」
黒ミサは白ミサと手を取り合ってくるくる回っている。
「ただし、条件があります」
ぴたっとフリーズした二人。
「「じょ、条件とは?」」ゴクッ
固唾をのむ二人。
「今回の件で儲けたお金は、最低限の運営資金とか原画担当とかのバイト代を引いて残りは生徒会費にあてること!」
「な、なんですと!?」
「本来なら僕に許可なくネタにしたことで名誉棄損で訴えたいところなんだけど」
「ひ、ひぃ」
「さっき、こんな物でも喜んで買ってくれる人がいるって聞いて、不本意だけど、無理やり止めさせるのはどうかと思いました」
「静流様……キミにもサブカルの心が伝わったんだね?」
「まことに不本意ですけどね。生徒会にはいわゆる『みかじめ料』を支払うってことで手を打ちましょう」
「了解した。そうと決まれば次回作の準備を始めようか」
「ちゃんと納めて下さいよ?随時会計の人にチェックしてもらいますからね?」チャッ
メガネのミリ単位のズレを修正し、結構シビアな所を突いて来る静流。
「わ、わかってるよ。会計検査なんて、大袈裟な……ハハハ」
「内容についてもこっちから口出ししてもイイかも。『検閲』を入れてもいいんですよ? ねえ、先生?」
「「ギクッ」」
「そうね。必要なら……ね」
顔から滝のような汗を流している黒白ミサの二人。
「まあ、その辺りは『武士の情け』ってことで。くれぐれもお願いしますね?」
「ははぁ。仰せのままに」
二人には静流の背後からドス黒いオーラが漂っているように見えた。
「そうだ、静流様はもう名誉会員であるからして、いつでも部室に遊びに来たまえ♪」
「もちろん、『彼女』も連れてくるのだゾ?」
「へ?『彼女』ですか?」
静流は嫌な予感がした。
「藍色の髪の乙女!たしか、『井川シズム』クンだったね。彼女は被写体としてパーフェクトだった」
「いるんでしょ?『彼女』」
「な、内緒……です」
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