エピソード7-1
ある日の学校 朝 登校時 昇降口――
「「五十嵐センパ~イ」」
静流が後輩二人に言い寄られている。
「や、やあ。メメ君にノノ君」
「センパイにお願い、あるんですよねぇ」
「何?僕に出来ること?」
「簡単なことですよ、一緒に写真撮って下さいよぉ」
「何だそんな事?はい、どうぞ」
「じゃあメガネ、取ってもらえますぅ?」
「メメ君?ダメダメ、わかってるでしょ?キミなら」
「えー、イイじゃないですかぁ、減るもんじゃないんだしぃ」
「三中園芸クラブのよしみで、お願ぁい」
「ダメったらダメです!」
もう一人が鞄から何かを出した。
「じゃあ、ここにサインもらえますかぁ?」
例の同人誌である。
『寝取られ桃髪メイドは幼馴染に夢中です』
「メイドって? とっくにゲシュタルト崩壊起こしてる……僕は、誰?」
毎回突っ込んでしまう静流であった。
「こうゆうのも、ありますよぉ」チラッ
「うわぁ!ちょっとこれ!美術部でバイトした時のヤツじゃないかっ!」
女神コスプレの静流と石動が絡んでいる。美術部部長が【念写】したブロマイドだった。
「これって情報漏洩? 機密事項じゃなかったっけ?」
静流は恥ずかしさと怒りでわなわなと震えている。
「ノノ君? そうゆうの、学校に持って来ちゃいけません!」
静流はオカンのような口調で後輩を叱った。
「五十嵐センパイって、お母さんみたい」
「もう、からかうのはやめてよ、直ぐしまって!」
「怒ってるところも、たまんないわぁ」
「さあさあ行った行った!」
「「五十嵐センパイ、またね~」」
「うう、なんだこの脱力感は……」
静流はどっと疲れが出てきた。自分に【キュア】を掛けたが、効果は今一つだった。
◆ ◆ ◆ ◆
2-B教室―― SHRの後
あの一件以来、気まずくて生徒会室に顔を出せていなかった静流。さらに同人誌がらみの件で精神的に参っている。
「何だよ静流? 浮かない顔してよぉ」
「まあ、いろいろあってね」
「例の薄っぺらい本の件か?」
「あんなものを見せられれば、ブルーにもなるさ。」
「出版元に発売中止させるとか出来ないのか?」
「それが出来りゃあ悩んでないよ。肝心の『五十嵐出版』の場所が特定できてない」
「また書記長殿下に助けてもらえばいいんじゃね?」
静流は以前東雲会長に「睦美に傾倒しすぎるのは良くない」といった指摘を受けたことが引っ掛かっていた。
「いいや、自分の事くらいは自分で解決出来ないとな」
◆ ◆ ◆ ◆
美術室―― 昼休み
先ずは美術部部長の花形に単独で事情聴取を行う。
美術室のドアを開ける。ガチャッ
「こんにちは、五十嵐ですけど?」
「静流クン、来てくれたのねん」
背筋に冷たいものが走った。
「ちょっと聞きたい事があるんですが」
「何かしらん? あ、またバイトしてくれるのん?」
「違います! この前やったバイトの時の写真が出まわってるんですよ!」
「ああ、その件ね?ごめんなさい、良くわからないの」
「良くわからない、とは?」
「元々あれってワタシの脳内ストレージにあるものなの。それを誰かにプリントアウトされたらしいの」
「つまり、何者かが部長の脳内ストレージから画像情報を抜き出し、プリントアウトしたと?」
「そうゆう事になるわね」
「そんな事が出来るのって……ひとの頭の中を覗ける能力……」
静流はあごにてをやり、思考を巡らせている。と不意に生温い視線を感じた。
「誰?」
辺りを見回すが、部長以外誰もいない。
◆ ◆ ◆ ◆
2-B教室―― 昼休み
「部長はシロ……か」ブツブツ
自分の席で頬杖を突き、なにやら呟いている。
「次はあの子たちに聞いてみるか?」
「静流、アンタあの本について調べてんの?」
真琴が食い気味に訊いてきた。
「そうだけど、今回は自分の力で解決したいんだ。だから、手出し無用だからね?」
「わ、わかってるわよ。」
(てっきり頼ってくると思ってたけど、ちょっと見直した……かも)
「よし、放課後に行ってみるか」
◆ ◆ ◆ ◆
1-C教室――放課後
静流は下級生の教室に足を運んだ。
「えーっと、確かここだったよな?」
教室の女子が騒いでいる。
「あれって、静流様……よね?」ざわ
「ああ、レアだわぁ」ざわ
「むふぅ。目の保養になるわぁ」ざわ
一部の女子が悶え始めた。
「おい、あの方は、女神様じゃないか?」ざわ
「うん、間違いない、女神様だ」ざわ
驚くことに男子も騒いでいる。
「あ、いたいた!おーい、メメ君、ノノ君!」ぴょんぴょん
軽いステップで手を振る静流。
「「セ、センパイ!?」」ハァハァ
後輩ズは静流の前に瞬歩で近づいた。
「聞きたい事があるんだ。ここじゃあなんだから、ちょっといいかな?」
静流は階段に後輩ズを連れてきた。
「センパイ、やっとその気になってくれたんですかぁ?」
「それは、キミたちの気持ち次第だ。」キリッ
静流は【交渉術】モドキを展開したつもりだった。
「ふわぁ、何か……いつものセンパイと違うぅ」んふぅ
「今なら、何でも答えちゃいそう」むはぁ
静流は本題に入る。
「今朝見せてくれた、薄っぺらい本と写真って、どこで手に入れたの?」
「ぐっ、そ、それは……」
後ずさりをする後輩ズ。
「言いにくい事、なのかな?」
ずいっと前に出る静流。
「くっ、はぁ……『黒魔』……からの報酬……です」
さらに後ずさりをする後輩ズ。
「『黒魔』って『黒魔術同好会』かな?」
コクコクとうなずく後輩ズ。
「ワタシたちは『黒魔』にイラストを提供……しました」ハァ
「そういえばキミたちは、イラストレーター志望だったね?」
「は、はい。ワタシたちを含め、数人でアノ本を作って……ます」ハァハァ
後輩ズは顔を上気させ、息遣いも荒くなっている。
「『五十嵐出版』てどこにあるの?」
「ひぃ、そ、それは……あの方に……頼まれて」ハァハァ
後輩ズは背中に壁を感じた。静流が詰め寄る。
「『あの方』って誰?」
静流は後輩ズに数センチの所まで近付いた。
「こ、これ以上はもう……ダメ」ハァハァ
「センパイ、もっとやさしくしてくださぁい」ハァハァ
「さあ、言うんだ。言えば楽になるよ」フーッ
「「ひゃあうぅぅぅん」」バタッ
静流の吐息を首筋に受け、後輩ズは失神した。
「ちょっとキミたち! ヤバ、責めすぎたかな?」
【キュア】と【忘却】を掛けた。ポウッ
「へ? あれぇぇ?」
「二人とも、大丈夫?」
明らかに怒っている静流を見た二人は、身の危険を感じた。
「何か怒ってますぅ? じゃ、じゃあワタシたちは、失礼しまぁーす!」
後輩ズは足早に去って行った。
「はぁ。結局わからなかったなぁ。尋問の仕方を変えてみるか」
静流は顎に手をやり、次の展開について思考を巡らせている。とそこに、
「五十嵐君、ちょっといいかしら?」
後ろから声を掛けられた。
「木ノ実先生?」
「あなたが今調べている件、私が預かるっていうのはどうかしら?」
「どういう意味ですか?」
「ちょっと心当たりがあるの。それに、これ以上踏み入るとあなたに危険が及ぶかも知れない」
「危険って? 教えてください! 先生」
「あくまでも仮定の話よ。あなたはもう少し辛抱しててくれればいいの」
「納得いかないですけど、とりあえずわかりました」
「イイ子ね。何かわかったら、可能な限り伝える。約束よ」
「必ず、ですよ?」
「わ、わかったわ。信じて?」
ネネは少しキレ気味の静流に、ただならぬ雰囲気を感じた。
「あなたたちも!……わかったわね?」
先生は何もない空間を見てそう告げた。
「気付いていたかしら?」
「さっきから生温い視線は感じていましたが」
◆ ◆ ◆ ◆
生徒会室――放課後
「篠崎、入ります!」
「どうぞ?」
生徒会の「影」その1である篠崎イチカが帰って来た。
「イチカちゃん、お帰り!」
今は「乙女モード」のようだ。
「で、で、静流キュンの様子はどうだったの?」
睦美は食い気味に部下の報告を待った。
「は、シズルン、もとい静流様は例の同人誌について、単独で調査されておりますです」
「あの件は静流キュンには手に負えないと思うの。なんで私を頼ってくれないの?」グス。
先日の一件以来、静流は生徒会に足を運ぶことは無かった。
「うう。私、嫌われちゃったのかしら……」
睦美は机に突っ伏して干からびていた。
「でも、調査は打ち切られましたです」
「え? 何で?」
睦美はひょいっと顔を上げた。
「この件は木ノ実先生預かりとなりましたので」
「あの先生か……どうしたものかしら?」
睦美は爪を噛みながら思考を巡らせている。彼女の悪癖なのであろう。解釈次第ではルーティーンとも言えるか。
◆ ◆ ◆ ◆
ちょっと前 下校時 昇降口――
丁度、後輩ズが帰るところだった。
「五十嵐センパイっていじり甲斐あるわぁ」
「そうそう。癒されるわよね」
「ん?何だろ?」
背後の温度が急激に下がっている感覚に、後輩たちはふと振り返った。
「「ヒイッ!」」
後輩たちが狼狽えた。
「ちょっと待ちなさい!」グイッ
後ろから首根っこをつかまれ、無力化された後輩ズ。
「ゲッ! 真琴先輩!」
「アンタたちにちょっと聞きたいこと、あるんだけど?」
「きゃ、ごめんなさいッ」
後輩ズは目をぎゅっと閉じ、げんこつが来るのを想定し、身構えたが、衝撃は来なかった。
「ブロマイドの入手先、教えなさいよ」
「真琴先輩もですか? 勘弁してくださいよぉ」
真琴は隅っこで後輩ズを尋問している。
「で? いくらなの?」
「へ?」
「私も、欲しい……のよ」
「あ、でしたらここに数枚ありますよ」
「え?見せなさい! こ、これは……」クラッ
後輩ズに見せられたブロマイドに、真琴は意識を失いそうになった。
「真琴先輩? 大丈夫ですか?」
真琴は顔を上向きに鼻血をおさえながら言った。
「買うわ。全部よ!」
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