第3話 冒険者たち(3)
組み合わせとローテーションが決まり、ラウンジに戻る頃には船は出港していた。
残されていた新米冒険者たちは少し緊張した面持ちで、そして少し気まずそうな空気のなか大人しく待っていた。
その中でも、カーリャと名乗っていた女剣士だけは、明るく積極的にまわりに声をかけていたようだ。
リアの言葉を気にしてか、健気にも何人かに愛称を決めていたらしい。
……自分に愛称をつけなかったので、そこは褒めておこう……
先ほど決めた組み合わせについてリアが説明をすると、各々が少しづつ疑問を投げかけ始めた。
しかしレシーリアほど、核心に近づける質問はなさそうだった。
目の前で行われている会話の流れをぼんやりと聞きながら、勝手に決められた愛称で彼らの人となりを頭の中を整理していく。
なにせ、これから一緒に戦うかもしれないメンバーなのだ。
できる限り、戦力と性格の分析はしておきたかった。
片腕の剣士リア(リア・ランファースト)24歳
間違いなく、あの有名な刀使い。
落ち着きがあり、リーダーシップもある。
親しみやすく悪い男ではないようだが、けっきょく護衛の対象物や、危険な相手とやらの情報については何も話さなかった。
たいそうな装飾がされた、赤と蒼の2本の刀を腰に差している。
明朗活発な女剣士カーリャ(カーリャ・リューウェイ)18歳
実戦経験はないが、腕は確からしい。
明るく社交的で、まっすぐな女。こういうのが、パーティのリーダーになりやすい。
よほど冒険者になりたかったらしく、希望に満ちたキラキラとした目で周りを見ている。
精霊魔法を使う根暗な槍使いサイ(サイフォード・クロウ)36歳
会話はするが、言葉が足りない。
社交性に乏しい生活を送っていたのだろう。
眼光鋭く、常に何かを考えているように見える。
金持ちボンボンの月魔法使いのルー(ルーフェス・アイラード)16歳
まだあどけなさが抜けない、世間知らずのお坊ちゃんのようだ。
小さなハープを持っているらしく、バードとしての能力もあるらしい。
本当に月魔法を使えるのか、疑わしい。
謎めいた女薬師ハーミア(ハーミア・スティロワ)17歳
口数が少ないのは、意図的なものを感じる。
年齢以上に大人びた落ち着きを払っているが、どちらかと言うと他人との接点を閉ざしているようだ。
彼女に対しては、読み取れないことが多い。
気の弱さそうな精霊使いのユーン(ユルネリア・ライクォーツ)16歳
伏し目がちで、不安が常に表情に出ている。
純粋そうな彼女も、こんな仕事をしている以上、何かを抱えているんだろう。
やはり口数は少ない。
リアの人選は色々と不可解な部分もあるが、これ以上そのことを話していても仕方がないだろう。
それよりも、私たちの命を最優先で守る……という、あの言葉がなんとも解せない。
護衛の対象がわからなくては、作戦も何もない。
しかし、考えたところで答えが出るわけもない。
まぁ、なるようになるわよ……と、自分に言い聞かせて、護衛の任務が始まるのを待つのだった。
ー 1日目 夕方 ー
午後から深夜の護衛は、レシーリア、カーリャ、ユーンの3人だった。
日も暮れはじめ、空も海も赤みを帯びている。
これが普通の女性なら綺麗だの何だのと、ときめいていられるのだろうが、生憎とレシーリアは、そんな愛らしい情緒を持ち合わせいてない。
日中は他のメンバーも外をぶらついていたが、今は何人かの船員と自分たち3人しかいなかった。
夜中からの任務に備えて休息をとっているのだろう。
その中でもカーリャは、相手が船員・護衛士問わず、よく話しかけていた。
今もユーンに声をかけている。
不安そうにしている彼女を、気にかけてのことだろう。
しばらして、カーリャと話していたユーンが船内にもどっていった。
なんとなく気になり、カーリャに話しかける。
「彼女、どうかした?」
夕日をうっとりと眺めていたカーリャがハッとする。
「ちょっと疲れてそうだったから、休憩しておいでって……」
……3人で見張りなんだから、見張りの人員が減るのは困るんだけど……
「……ごめんなさい、勝手なことしちゃった……」
「あっ、いや……そんなつもりはないわ。とりあえず、まだ安全な海域だから大丈夫よ」
表情に出してないつもりだったけど……なかなか感のいい子だ。
それでもどこか気まずそうに……というか、萎縮しているように見える。
自分が同性の先輩冒険者ということもあるし、昼間リアに対してきつい口調で話していたせいもあるのだろう。
「一応、一通りみなに声をかけていたみたいだけど、カーリャから見てみなはどんな印象かしら?」
カーリャは、少し考える素振りを見せた。
「……そうだなぁ……」
レシーリアは、最初に出てくる名前に興味があった。
それはおそらく、カーリャにとって最も興味のある……もしくは、分かり合えた人物のはずだ。
「リアさんは、ほんの一太刀だけ手合わせしてくれたんだけど、すごく強かった。それから……凄く落ち着いてて優しい人かな。思わず弟子にしてください!って言っちゃった」
言って顔を真っ赤にする。
何となく、元自分のパーティ内で結婚した2人を思い出す。
……あぁ、パーティ内の恋愛ってこうして始まってしまうのよね……
そりゃまぁ、私だって46年も人間の町で生きてれば、恋愛のひとつやふたつ……で、済まされない数はこなしている。
世に出たばかりの18歳の乙女なら、それはそれは真っ盛りでも仕方がないことだろう。
悲しいかな、最近の自分はそういった人間関係を、面倒に思えてしまっている。
見た目はまだ20代でも、豊富な46年の人生経験が、レシーリアをより大人びて見えさせる要因だろう。
「へぇ……それで弟子にしてもらえたの?」
「もしこのまま、パーティを組むようなことがあったら、弟子にしてもいいよって」
それは……結局どっちだ?と、思わず吹き出してしまう。
「やっぱり笑う〜。レシーリアは、このままみんなでパーティ組むの嫌?」
「は? あたし?」
思いもよらない言葉に、思わず声のトーンが上がった。
考えてもいなかったからだ。
「あぁ〜……あぁ……まぁ、この依頼こなしてみて、連携とか色々悪くないようなら断る理由はあんまりないけどね。あぁ……そうか、そういうことか」
1人で納得するレシーリアを、カーリャが不思議そうに見つめる。
一応それなりに戦闘技術もバラけてるし、冒険できなくもない。
……パーティになってない冒険者ばかり集めた理由はこれか……
リアは、新たな冒険者パーティをつくろうとしているのだろう。
「……なるほどねぇ……でもそうなると……」
女の比率が高い理由……酒の肴で教えてくれるんだっけ?
ま、聞いとかなくちゃね……内容によっちゃお断りだけど。
勝手に納得するレシーリアに少し戸惑うが、しばらくしてカーリャが話題を続ける。
「あとユーン、彼女も冒険は初めてらしいんだけど、何ていうか、普通の女の子って感じで。色々と不安で怖いみたい」
「あぁ、あの精霊魔法使いね」
「そうそう、ユーンは地の精霊?ってのと契約してるらしくて海の上じゃあまり役に立てないって言ってたなー」
……地?
普通に四大属性のことなら、土のことかしら。
たしかに、海の上だと触媒なしじゃ何もできないだろう。
「サイは、水の精霊と契約してるって。でも槍のほうが得意みたい。なんか口下手だよね。悪い人じゃないと思うんだけど」
……ふぅん……悪い人ではない印象を受けてるのか。
なんとなくカーリャの感は信用できそうで興味が出てくる。
「ルーは、すごくいろんなことに気づくし優しい男の子かな。ああ見えて博学だし、歌も歌えるし。ハーミアは……あぁ〜、なんか避けられてる……カナ」
「ふふ……彼女の場合は、人そのものを避けてるだけよ。気にしなさんな。それより、肝心な人のことを聞けてないんだけど?」
「え?」
誰のことか解らないでいるカーリャに、笑顔を見せながら自分に向けて指をさす。
「あ……レシーリアは……ほんとはレシーリアさんって言いたいんダケド……とても経験豊富な先輩で、お姉さんって感じです……」
「なんでいまさら、敬語にもどるのよ」
彼女の対応が可笑しく、自然と声を出して笑っていた。
その時、船内から聞きなれない音が聞こえてきた。
……これは、ハープ……かな?
「あっ、ルー、起きてるんだね。きっとユーンの気を紛らわすために、1曲弾いてくれてるんだと思う。出港前にもユーンに弾いてあげてたし」
「へぇ……けっこう上手じゃない」
お世辞ではなく、街中で弾けば食事1食分くらいは稼げるだろう。
「よかったらレシーリアも、休憩がてらに聞いてきなよ。私は一度聞いたからさ」
レシーリアは、この場を離れることに少し躊躇を覚えていたが、まぁラウンジで1曲くらいなら、とすぐに自分を納得させた。
「じゃ、お言葉に甘えて少しだけ。……船の前方は船長がよく見てるから、船尾で後ろと左右を見てなさいね」
はーいと元気に答えるカーリャに笑顔で返し、レシーリアはラウンジに向かうことにした。
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