名乗りを上げる門番
ミズハの実家であるスイレン邸にヴァーサス達が滞在して三日が過ぎた。
ヴァーサス達は表向きトウゲンでの休息と観光を楽しみつつも、リドルと黒姫は自分達が留守の間の門を今はご近所さんとなったシオンやメルト、ヘルズガルドに任せ、リンドウ一門の動きを探っていた――――。
「この黒姫がトウゲンの国主に探りをいれてみたが、リンドウ共はすでにスイレンの後の君主お付きの剣術指南役に内定しているようだ。城下での狼藉に対する咎めは無しだな」
「えええっ!? 黒姫さんったらいつの間にそんなことしてたんですかっ? 念のために確認しますけど、手荒なことはしてなませんよね?」
「クククッ! なぁに、ちょいと国主とやらの脳内を覗いただけよ。リンドウ共の本拠と同じく、トウゲンの国主の住処にも大層な結界が張られていたのでな。この黒姫にかかれば破るは容易いが、探るだけに留めてあるッ!」
「ほっ……黒姫さんのことだから、一人で勝手に乗り込まないかずっと心配してたんですよ。こういう時のヴァーサスと黒姫さんは何しでかすかわからないんですからっ!」
「ハッハッハ! 俺は毎日立派な門を見れて満足だっ! ライトも喜んでいる!」
ヴァーサス達の到着からちょうど三日目の夜。
食事を終えたヴァーサス達は、いよいよ緊張高まるリンドウ一門とのこの膠着状態を打開すべく、こうして今までに確認できた情報を互いに突き合わせていた。
「私も街の見物がてら色々聞き込みをして回りましたが、総じてリンドウさん達の評判は悪いですねぇ……私達が遭遇した騒動みたいなのを連日やっているとかで、街の人達も相当の被害を受けていらっしゃるようです……」
「俺や父上がリンドウに負けたから……っ。それまでは、あいつらにそんなこともさせていなかったし、ここにも大勢の門下生がいたんです……っ。でも、皆俺達に失望したり、リンドウを恐れて……」
「カズマ以外の我が子らも、今は遠方に逃しました……全て、我らの未熟故……っ!」
「そういえば、ミズハさんのご兄姉さんって沢山いるんスよねっ! 落ち着いたら皆さんにもご挨拶したいッス!」
「そのお話で思い出しましたが、リンドウの皆さんってあのお二人だけじゃなく、千人以上のお弟子さんがいらっしゃる大所帯なんですよ。道場があまりに大きくてびっくりしましたっ!」
自らの不甲斐なさにその表情を歪めるゲンガクとカズマ。
だが、ゲンガクと良く似た精悍な顔に、どこかミズハの面影を感じさせるカズマの双眸には、ヴァーサス達の前で諦めを口にしていた時とは違う、強い決意の輝きが灯っていた。
「――――そのようだな。しかしゲンガクよ、リンドウ共が力を増したのはここ最近だと言っていたな。それは間違いないのか?」
「確かです……リンドウとスイレンは古来より剣を磨き合い、共にトウゲンを守る守護の武門――――リンドウの者達も、二年ほど前までは狼藉など働かぬまっとうな武門の一派でございました」
「私も家を出るまでは、何度もリンドウ様の道場に出稽古にお伺いした記憶があります。皆様、幼い私にも大変良くして下さいました。まさかあの方達が、このようになるなんて――――」
「二年前……丁度ライトが生まれた時だな! 今思えば、あの時のマーキナーとの戦いが、俺達にとっては最後の大きな争いだった!」
「むむむ…………なーんかひっかかるんですよねぇ……? どうも重大な事を見落としているような。マーキナー君と戦った時って、確か…………」
思い出したようにヴァーサスが口に出したその言葉に、隣に座るリドルは何かに気付いたように腕を組み、顎先に手を添えてむむむと顔を顰めた。その時――――!
「待つのだリドル。どうやら――――」
「――――気をつけて下さい皆さん。囲まれています」
「ええっ!? か、囲まれてるってどういうことッスか……っ!?」
「本当なのかミズハ……っ!? 俺にはまだ何も……!」
「流石はヴァーサスとミズハさん。私のような一般宅配業者とは実戦経験が違いますね。私も全然気づけませんでしたよ……!」
「ククッ……良いではないか。このような場で悠長に作戦会議など、元よりこの黒姫の流儀ではないわ……ッ! せっかく向こうから来てくれたのだ、こちらからも挨拶をしてやらねばなッ!」
瞬間。黒姫がその赤く光る双眸を燃やす。
するとその輝きは、たった今ヴァーサス達の居る広大な道場諸共スイレン邸の建物を軒並み安全な場所へと転移させた。
残されたのはスイレン邸を囲む巨大な壁面と門。そして広大な敷地のみ。
離れで休んでいたミズハの母スズナも、ライトもエマも。黒姫はこの場に居合わせた全ての非戦闘員を、予め話を通していたシオン達の元へと避難させたのだ。そして――――
「ほう――――周到に周到を重ねて気配を殺したつもりだったのだがな。流石は門番と言ったところか」
「へへッ! ようやくテメェらにやられた傷の恨みを晴らせるぜェ……!」
「門番ランク2、ミズハ・スイレン…………ここでお前を殺せば、門番の威信はさぞかし傷つくであろうな…………」
「キキ……! なんだよ、弱虫泣き虫のカズマもいるじゃねぇか……? 言っておくが、今夜のこれは果たし合いじゃねぇよ…………?」
「貴様達がミズハの父上を兄上を傷つけ、トウゲンの人々に狼藉を働くリンドウだな! どうやら、既に話し合いは無用と見えるッ!」
黒姫の力によって、スイレン邸の正門前へと転移したヴァーサス達。
その正面に、各々独特な領域を展開した四人の剣士が立ち塞がる。
四人の周囲にはやはりその全員が異様な領域を展開した門弟がずらりと並ぶ。
その数はリドルが確認したように千人は下らないだろう。
「一応忠告しておきますが……私達と戦うのはお勧めしませんよ。戦えば、ほぼ確実に刑務所で臭い飯を食うことになります……っ!」
「クククッ……その通りだぞ身の程知らずの雑魚共め。この黒姫がなぜわざわざミズハの家の門だけこの場に残したか……その意味がわかるか?」
「門だけ残しただぁ……? 何を訳の分からねぇことを……っ!」
「わからないか――――! ならば、教えてやろう!」
眼前に立つ四人のみならず、恐らく雑兵であろう無数の門弟ですらその身に領域を纏って完全に包囲するこの状況。
しかし囲まれる側であるはずのヴァーサスは怯まずに不敵な笑みを浮かべると、左手に槍を、右手に盾を構えてその全身から燃え盛る領域を展開。そして――――!
「俺の名はヴァーサス! ヴァーサス・パーペチュアルカレンダー! この門を守る門番だっ!」
「同じく、私の名はミズハ・スイレン――――師と共にこの門を守る門番ですっ!」
ヴァーサスがその手に持った
「貴殿らにこの門を通る許可は下りていない。大人しく立ち去るならば良し――――!」
「立ち去らず、力によってこの門を押し通るというのなら――――!」
「お前達はここで! この俺が斬り捨てる――――!」
「貴方達はここで! 私が斬り捨てます――――!」
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