斬り救う門番
「貴様が何者であろうと、俺たちを傷つける奴を許しはしない! 行くぞ、リヴァーサス!」
ヴァーサスの叫びが高次空間内に響きわたり、三つの領域が三方へと分かれた。
紅蓮の領域を纏うヴァーサスは正面から、氷蒼の領域を放つ
『俺を虚仮にした報いは受けてもらう! まずはヴァーサス、貴様から消し飛ばしてくれるッ!』
リヴァーサスは更なる進化の段階へと達した
『見るが良い! これが真のラスボスの放つ絶望の力! そして追い詰められた際に覚醒する主人公としての力だ! クハハハハハ!』
自身の強固なエゴを拡大させ続けるリヴァーサス。穂先から伸びた長大な光刃は数百メートルにまで伸張し、直撃せずともその軌道上に存在するあらゆる領域を飲み込んで破砕する。それはまるでウォンの持つ因果破滅の絶対領域にも似ていた。だが――――!
「確かに見事な力だ! ならば――――俺もやってみるとしよう!」
その力のみを頼りに自身をラスボスであると、主人公であると誇るリヴァーサス。だが――だがしかし! やはり真の主人公はリヴァーサスではなかった。
「我が
『な、なんだと!?』
眩い閃光が全てを埋め尽くす。ヴァーサスを中心として灼熱のフレア放射にも似たプラズマがのたうち、万物一切を焼き尽くす紅蓮の閃光と共にその領域を具現化する。
「うおおおおおおおああああああ!」
『馬鹿な――そんな馬鹿なッ!?』
灼熱の放射がヴァーサスという一個の因果に収束し、その手に煌々と燃えさかる因果生滅の紅蓮の槍を。そしてその背には四方へと伸びる太陽フレアを纏った新たなるヴァーサスが出現する。
「これが――――俺たちの辿り着いた新たなる境地! バーニングファイナル門番ヴァーサス・パーペチュアルカレンダーだ!」
『ば、バーニング……ファイナル……もんば――――ええい! 長すぎるわッ!』
それは、まさしくヴァーサス達が辿り着いた究極の姿だった。このヴァーサスでなければ、そしてこのヴァーサスがずっと共に戦ってきた
『ふざけたことを――――ぬかすなぁああああああ!』
味方にはまるで春の日差しのような暖かさと励まし、そして癒やしを。しかし相対する者には恐怖と絶望、そして絶対的な畏怖を感じさせる因果生滅の炎。
リヴァーサスは目の前に現れたヴァーサスの最終形態めがけて自身の進化した槍を突き放つ。進化したのはヴァーサスだけではない。自身の方が先にその境地に到達したのだ。リヴァーサスはそう念じ、自身のエゴを練り上げて全身全霊の領域を叩きつけた。
「はああああああっ!」
『――――っ!?』
しかしリヴァーサスの光刃はヴァーサスには届かなかった。リヴァーサスの持つ究極まで進化した漆黒の槍は、ヴァーサスの周囲を渦巻くフレアによって跡形もなく焼き尽くされてしまう。
ヴァーサスの四方へと伸びる灼熱のフレア放射は、ヴァーサスに近づくあらゆる災厄を焼き尽くす。しかしそれはただ因果を消し去っただけではない。
今のヴァーサスによって生滅された災厄の因果は即座に純粋な情報エネルギーへと昇華され、ヴァーサスを構成するエントロピーとなって充填される。
たった今破砕されたリヴァーサスの強烈なエゴ。その力もまたヴァーサスの力として再生され、リヴァーサスの眼前でヴァーサスの紅蓮の炎は更に荒々しく燃えさかった。さらに――――。
「燃えろ! ――――
『ぐわああああああ! 熱い! 熱いいいいいああああ!』
ヴァーサスの持つ灼熱の槍がリヴァーサスめがけて撃ち放たれる。意図的かはわからないが、ヴァーサスはあえてその穂先をリヴァーサスから逸らした。しかしその槍が持つ焦熱の因果は、リヴァーサスの領域を悉く焼き尽くし、リヴァーサスを構成するエントロピーごと削り取っていく。
『ぐあああッ! だ、駄目だ――――! 一度、離れ――――離れなくてはっ!』
高次空間内をのたうちながら、なんとか加速して逃亡へと移行するリヴァーサス。究極の形態となったヴァーサスとの力の差は絶望的だった。今の一撃にしても、ヴァーサスがその気であればリヴァーサスは跡形もなく焼き尽くされ、ヴァーサスを構成するエントロピーの一つに転換されていただろう。
『ば、馬鹿げてる……こ、こんな……こんな奴の存在が許されるはずが――――!』
「――――確かに馬鹿げた奴だが、役に立つのならば問題はない。終わらせるぞ」
必死の形相で逃げるリヴァーサス。だがそこに先回りして出現する
『グッ! き、貴様ぁああああああ!』
「ヴァーサスがこうしろと言うのでな。あまり俺の流儀ではないが――――!」
「一つに混ざり合った貴様の因果――――くさびを打ち込む!」
立方体から八面体、八面体から十二面体、そこからさらに星型の二十面体へと形状変化を遂げた
『がぁッ!? な……貴様、一体何を――――ッ!?』
狼狽するリヴァーサス。
そう、本来の
「睡蓮双花流――――!」
『――――ッ!?』
無数の因果渦巻く高次領域に、静謐さと苛烈さを兼ね備えた決意の声が響いた。
自らを一陣の閃光と化し、その自己統一性にほころびを見せるリヴァーサスめがけ、超光速で突き進むミズハ。
「絶技――――魂華繚乱ッ!」
一閃。
否、閃光は一つだったが、それは光速すら凌駕したミズハが放った無数の刃。
漆黒の闇から紅蓮へ、紅蓮から凍てつく蒼へ、そして最後に出現した白銀の閃光が、高次領域を眩く照らした。
『がっ……! 俺は――ぜったい、無敵の――』
瞬間、重ね合わされていた
そう、ミズハが斬ったもの。それはリヴァーサスの肉体ではなかった。
「私が斬るのは人ではありません――――闇に囚われた因果、その根源を斬る!」
リヴァーサスはミズハによって斬られ、元のヴァーサス達になった。
ミズハは、リヴァーサスに取り込まれたニセ・ヴァーサス達の因果を断ったのだ。
「見事だミズハ! これが君と――――!」
「いえ師匠! これも師匠と――――!」
「フン――――俺は付き合わんぞ」
湾曲する高次空間の中、流麗な所作で残心を決めるミズハ。それを見たヴァーサスは満面の笑みを浮かべてミズハへと駆け寄った。
「――――俺たちの力だ!」
「――――私たちの力です!」
二人は互いの手を握って頷き合い、そう言って力強く宣言したのだった――――。
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